有為徒食

聖☆おにいさんの四大天使。傾向は他2作と同じ。 [ 1,914文字/2014-08-31 ]

「ウリエル! 犬派の君のために、下界で素敵なものを買って来たんだ……!」
 ミカエルはにこにことして、水色のリボンの掛かった包みを差し出した。
「おや、奇遇ですね、私も猫派の貴方にと思って、良いものを買って来ました」
 ウリエルは真顔のまま、赤色のリボンの掛かった包みを差し出した。
「うふふ、嬉しいな嬉しいななんだろな、君のプレゼントならなんだって嬉しいけどね!」
 包みを受け取ったミカエルは舞い上がりたくなるのを五センチ浮かぶ程度に留めてその場でくるりと回った。
「私だって、貴方からの贈り物ならなんであっても嬉しいですよ」
 むきになったかのように言った、ウリエルはくるりと回りこそしなかったが床から七センチほど浮いていた。
「それじゃ、いっせーのせで開けようね。いっせーの、せ! わあかわいい猫耳!」
「こ、これは……! 犬耳カチューシャ……!」

 天使長と破壊天使が犬耳だ猫耳だと戯れ合っている様子を眺める、ガブリエルの眼差しは羨望のようだった。ラファエルはそれを遮るように少年の顔を覗き込む。
「君も動物の耳が欲しかった?」
 ガブリエルは静かに驚き目を丸くして、ばつが悪そうに笑った。
「ううん。ウリエルとミカエルってお似合いだなあと思って」
「そうだねえ。でも多分、君が思ってるほどの関係じゃないと思うよ、まだ」
「えっ!? そうなの? もう、もどかしいなあ」
 ガブリエルは大袈裟に肩を竦める。ウリエルとミカエルが互いを好き合っていることなど、明らかなように見えるのだが──
「まあ、まだ……ね」
 だからそのうち時が来れば、とは胸の内に仕舞い込んで、ラファエルは愉しげに続けた。
「なんでもかんでも早いほうがいいってわけじゃない。私たちの時間は長いんだ、楽しまなくちゃね? ガブリエル」
 薄い唇の涼しげな微笑になぜか不穏な気持ちになって、ガブリエルは視線を逸らす。そのとき、四人の居る部屋にアラーム音が響いた。
「イエス様だ!」
 初めに声を上げたのはミカエルだ。
「どうなさったのですか、イエス様?」
 音色からさほど緊急性の高くないものだと判断して、ラファエルは落ち着いた声で中空に問い掛ける。
『あ、もしもし? ごめんねぇいつも急で。ちょっと頼まれてほしいことがあって……いや大したことじゃないんだけど、四人のうち二人だけ手伝って欲しいんだ』
「行こう、ウリエル!」
 イエスが言うや否や、いち早く立ち上がったのもやはりミカエルだった。自らの目の前に下界へのゲートを開き、今にも飛び込まんばかりである。
 対するウリエルは冷静だ。
「お待ちください。貴方はともかくとして、用件を聞かないことには私が一番適任なのか判断できかねます。怪我人がいるならラファエルが良いでしょうし、機敏な方が良いならガブ」
「なに言ってんの、ミカエルにはウリエルでしょ? さあさあんまりイエス様を待たせないで行った行った!」
 自分の名前が呼ばれ切る前に言葉を遮って、ガブリエルはウリエルの身体を強く突き飛ばした。
「なんとおっ……!?」
 ガブリエルは小さい身体の割には馬鹿力なのだ。全く予期していなかった攻撃に受け身を取ることもできず、ウリエルの身体はミカエルの開いたゲートに吸い込まれて行く。
「それじゃ、行って来るよ。おみやげ買ってくるからね〜」
 ミカエルは上機嫌でひらひらと手を振りながらウリエルの後を追って行った。
「気を付けてくださいね」
「いってらっしゃーい☆」
 二人の姿が完全に消えると、はあ、とラファエルが溜め息を吐いた。
「君は私とは違う意見みたいだね?」
「え? 私はラファエルの考えを否定する気なんて全然ないけど」
 ガブリエルは心底意外そうに目をぱちぱちと瞬かせる。それを認めてラファエルは自嘲気味に笑った。
「私は彼らが彼らの意志だけで歩んで行くのを見届けたいと思ってる。君は彼らを早くくっつけたくて仕方ないみたいって思ったんだけど、私の思い違いだったみたいだね」
 癒しの天使が微笑を浮かべながら意志だなんだと口にすると大仰に聞こえるが、四人は同胞でありごく親しい間柄だ。ガブリエルにとっては『友達のコイバナ』程度のことでしかない。確かに気にはなるが、見届けたいと思えるほどの余裕はなかった。
「さて、私たちはこうして無為に二人きりになったわけだけど、どうしようか? ガブリエル」
 そうだ、他人の恋路に首を突っ込んでいる余裕など全くないのだ、この冷静で冷徹な癒しの天使を目前にしては。
「私たちの時間は長いんだ」
 少年の作為を見透かした瞳は穏やかな湖水のように、その奥に底知れぬゆらめきを湛えている。

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