「……率直に言うわ。警察に出頭してほしい」
寝耳に水だった。
新島冴の姿を認めた時点で良い予感はしなかったが、自分は本当に神に嫌われているようだ。悪神は倒したのだから、今度は正真正銘の神ということになる。
唐突な要求ではあったが、冴の説明を聞けば理解はできた。モルガナと、怪盗団の皆と別れてから暫く一人で渋谷を歩いていたから、頭は大分落ち着いている。
獅童を裁くために証言するのはよいだろう。しかし出頭すれば自分は確実に逮捕され、おそらくは少年院に送致されることになるという。
大人の面子のために、だ。理不尽だとは思う。しかし「結局こんなもんだ」と納得もできる。そう思ってしまうだけの経験を、暁はしてきた。
「これは、私と貴方の……最後の取り引きみたいなもの。もう一度お願いするわ。貴方の意思で、警察に出頭して欲しい」
取引の担保は仲間の身の安全ということなのだろう。さすがに巧いものだ。
迷いはない。暁は深く頷く。
「仲間を助けるためなら」
冴は安心したような面持ちで頭を下げる。例えば証言自体を拒否される可能性も、想像してはいたのだろうか。
「……ありがとう。きっと、そう言う気がしてた。あとは……私たちに任せて」
暁が何か言う間もなく、冴は続けた。
「じゃあ、行きましょう」
今からか? と思わず口をつきそうになったが、考えてみれば冴も話だけのために自分を探したわけではないだろう。
大人しく頷き、冴の後について歩く。
少し行くとスマホが鳴った。チャットの受信音だ。
(祐介!)
反射的にそう思ったが、差出人のアイコンを確認して首を横に振る。
「どうかした?」
「……大事な用事ができた」
冴は少し考える素振りをしたが、仕方なさそうに頷いた。あまり興味はないが今日がクリスマスイブであることくらい知っているし、暁が夜中のうちに逃げ出すとも思わない。
「分かったわ。じゃあ、明日の朝、一緒に出頭してちょうだい」
冴は相手の点頭を確認し、踵を返す。
後ろ姿が視界から完全に消えないうちに、暁の意識はスマホの画面に移っていた。受信メッセージの一覧を無視し、新規に送信用画面を立ち上げる。
宛先は──喜多川祐介。
『お疲れ、祐介。それどころじゃなくて忘れてたけど、今日はクリスマスイブだったな。街はまるで何事もなかったみたいに浮かれてる』
一気に用件を送ってしまおうかと思っていたのだが、意外にも返信は早かった。
『街? 四茶もそんなに賑やかになるのか?』
四茶にも様々な場所はあるが、祐介が想像するのはルブランの近所くらいのものだろう。
『いや、まだ渋谷にいる』
『まだ帰っていなかったのか……ふむ、ならば、会いに行ってもいいだろうか? 街の様子など気にする余裕もなく帰って来てしまったしな』
今更遠慮する間柄でもなし、妙に回りくどい言い方につい笑ってしまった。疲れているだろうに、祐介から申し出てくれたことももちろん嬉しい。
『ああ。そのつもりで連絡したんだ。じゃあ、ブチ公の辺りで待ってる』
「暁……!」
想定していた時間よりも早くに祐介の声を聞き、驚きながら振り返る。
祐介は肩を上下させ荒く呼吸していた。鼻の頭が微かに赤い。
「祐介、もしかして走ったのか? 呼び出したのは俺なんだから、別にいいのに」
「仕方ないだろう、走りたい気分だったんだ」
思わず声を上げて笑ってしまった。
「なんだ、そんなに面白かったのか?」
「……いや、なんだろうな。いつも通りだなと思って」
安心しているのだと思う。モルガナがいなくなって、明日には自分もいなくなって、それでも祐介が変わらないことに。
「会えて良かったよ」
「ああ。俺も良かったと思う」
去り際、暁が明らかに沈んでいたことを祐介ははっきりと感じ取っていた。だからこその明日の打ち上げだと杏や竜司と密かに話していたが、寮に戻ってからも暁のことが気になって仕方がなかった。
何か声を掛けたい、否、そっとしておくべきだ──悶々と考えながらスマホを見つめていたところに件のメッセージを受信したものだから、走らずにはいられなかったのだ。
「祐介、知ってるか? クリスマスイブって、恋人と一緒に過ごすんだ」
「……知っているぞ、日本ではな。一体俺をなんだと思っているんだ」
「うーん……喜多川祐介かな」
暁が笑い、祐介も笑った。
手を繋ぐわけでもなく、この街で男子高校生が連れ立って歩いていたところで恋人には見えないだろう。それでもイブの夜に二人で街を歩くという行為が特別なことに思えて、二人は雪のちらつく渋谷を歩き回った。
何も起こらない平凡な日々の他愛ない話をしながら、まるで変わらぬ明日が訪れるように。
◇
「なんだ、イブだってのに友達と一緒だったのか。へっ、色気ねーなぁ?」
帰宅した居候と、画家志望のその友人を認め、惣次郎は片眉を釣り上げて笑った。見慣れた二人の姿のはずだが、どこかに違和感がある。暁の方だ。上から下までまじまじと見つめる。
「お前、猫を連れて出掛けなかったか?」
祐介は顔を曇らせる。
「それが……」
「出掛けた先でいなくなった。祐介にも手伝ってもらって探したが、見つからなかった」
なるほど、それでこの時間まで友達と二人か──納得しつつも首を横に振る。
「辛気臭ぇ顔してんな。そのうちフラッと戻ってくるだろ、猫ってのはそんなもんだ。……じゃ、俺は上がるわ。悪さすんなよ」
惣次郎はエプロンを畳み、どうということもないように言って店を後にした。
(ったく、めんどくせぇ。双葉に迷い猫のビラを作らせるか)
屋根裏に上がるや否や、暁は祐介を抱き締め唇を塞いだ。
「っ……!」
「メリークリスマス、祐介」
「メリー、クリスマス……」
祐介は不思議そうに目を瞬いて暁を見返す。
「どうした?」
「いや……」
いつもより随分と性急に感じる。
クリスマスイブだから恋人らしいことをしたかった、そのために呼んだのだと、渋谷を歩きながら言われた。モルガナがいなくなった寂しさもあったかもしれない。しかし、本当にそれだけだろうか。
怪盗の仕事を終えて帰宅した後に再度呼び出されたことなど、今まで一度もなかった。まして今日は大仕事だ。暁は仲間に無理をさせることを嫌っていた。今の状況には違和感がある──と理由をつけることもできるが、どちらかといえば直感だった。
「暁。何か言いたいことがあるんじゃないのか」
そもそも、そのために自分を呼び出したのではないのか。
「……なんで?」
惚けて問い返すと、祐介は渋い顔をして息を吐いた。
「俺がそんなに鈍感だと思っているのか?」
単なる思い込みならそれはそれで良いのだ。しかし
「ポーカーフェイスには、自信があったんだけど」
「当たり、ということか」
「さあ?」
言葉を奪い舌を捩じ込む、傲慢なキスに抵抗はなかった。舌を絡めながらぐるりと口腔内を探り、ちゅ、とわざとらしく音を立てながら離す。
明日自分はいなくなる。
直接伝えるべきだろうか。明日になればわかることを今話したところで、余計な不安を煽るだけではないのか。
もやもやする。腰が据わらない。やることをやれば落ち着くだろうし、祐介も理解してくれるはずだ。
冷たい手を引き、視線でベッドを指す。
「祐介も、したいだろ?」
「……ああ」
珍しい訊き方をする、と思った。気遣いというよりは許しを請うようで、頷く以外をする気にはなれなかった。
ベッドに横たえた祐介に儀式のように口付け、その身体に溺れた。手指で愛撫し、頬を寄せ、唇で感じながら舌を這わせる。
直接的な快楽ではない。素直で滑らかな髪、薄い肉と皮膚の感触、そこに透ける骨の硬さ、微かなにおい、湿度。彼の要素一つ一つを覚えるように忘れぬようにと肌を合わせ、何度もキスをした。
(暁……)
吐精に向かういつもの行為とは明らかに違うそれを、祐介はただ受け入れるしかなかった。暁は何か隠している。それはおそらく良くないことで、彼にとって辛いこと。
この行為で救われるというのならいくらでも好きなようにして欲しいし、何かしら命じてくれてもいいくらいだ。
腕を回し、撫でていた広い背中がずるりと下がる。
祐介の指の間をすり抜けるように柔らかな癖毛までも下降していって、暁は祐介の腰でしなだれるものを口に含んだ。
「あっ……」
「したくない?」
「そういう、わけでは……ただ、考え事が、んっ」
暁の隠し事について──とまでは言えず、纏わりつく舌の感触に息を呑む。
「あふっ……んっ」
暁はいとも簡単に的確に、祐介の快感を引き摺り出す。自分の身体について、暁のほうがよほど詳しいのではないかと祐介は思う。
ぬるりと濡れた指が後孔に侵入して前方向へ壁を押す。
「はっ……」
ジワリと起こった異質の快感に、祐介は身を強張らせる。前後に指を動かされながら性器を咥え込まれると、堪らず腰が浮いた。
「あっ、く、やめっ……」
同じことを繰り返されれば簡単に達してしまいそうで、危機感に声を上げた。暁の慰めにすらなれないではないか、と。
素直に唇を離すと、暁は余裕を失くして頬を紅潮させる祐介を見下ろして笑った。
「かわいいな、祐介は」
「お前が器用すぎるんだろう」
「否定はしない。……そうだな、後ろ向いて」
祐介は脚を開き気味にベッドに四つん這いになり、暁に向けて尻を突き出した。
その体勢は正しいのだが、素直すぎる態度はいやらしいというよりも従順な子供のようでやはり可愛いらしい。
「キツネみたいだ」
顔を見ても後ろを向かせても可愛いとは、ひどい男だと思う。離れるのが辛くなる。
「もう尻尾はないが」
「今から付けてあげる」
ローションを纏わせた指は入り口を撫で、内奥に入り込み、丁寧に、しかし手早く蕾を解していく。
(焦っている、のか……?)
暁が言わない限り何も聞かない。事情を知らないまでも相手が参っていることは感じ取れるのだから、今日はただ優しくありたいと思う。
「入れてい?」
背後から耳元に囁かれる甘い声に、背筋がぞくりとした。脚の間に暁のものが当たって、まるで焦らされているかのようだった。
「……ああ」
双丘の谷間に柔らかいとも硬いとも言い難い感触が擦り付けられ、潤んだ入り口を撫でる。
──欲しい。期待感と罪悪感に、祐介は目を瞑る。背後から、荒々しい息が聞こえる。
慰めになりたい、優しくありたいと考えながら、結局は単純に暁を求めているだけのような気がする。
(利害が一致している、ということにしておこう……)
解れた入り口を押し拡げ、肉の塊が体内に入り込む。
「っく……!」
後ろから突き上げられる、重い圧迫感に祐介は腕に顔を埋めた。それは祐介の身体に暁の形を思い出させながら、ゆっくりと侵食していく。
「ん、あっ…」
できる限りまで挿入してなお、祐介の感触を確かめるように暁は腰をぐりぐりと押し付けた。細い腰で懸命に受け入れて、縛り上げる感触が堪らない。
「祐介。好きだよ」
囁いて耳の輪郭を舐ると、祐介の身体全体がざわりと波打った。自分からの些細な刺激にさえ反応を示す、彼が愛しくて仕方がない。
「俺も……好きだ……っ」
暁はゆっくりと腰を引いた。一つのもののように馴染んでいた粘膜が引き剥がされて擦られ、祐介は堪らず仰け反る。
ある程度までいくと、再び前進する。緩慢な抽送はやがて、一定の調子で叩きつけるように激しくなっていく。
「う、ぐっ……んんっ……」
背後からの圧迫に押し出され、嬌声とは言い難い声が祐介の口から溢れる。
想いは麻薬だ。暁がこんなにも獣のように自分を求めている、その実感に蕩けた脳は肉体を穿つ重く鈍い感触を快楽と捉える。
暁に合わせるように夢中で身体を揺らしていると、耳元に甘い声が流れ込んだ。
「祐介、いくよ」
「いいぞ、きてくれ……」
しかしそれは訪れない。暁はあろうことか動きを止め、身体を退いてしまう。
「暁?」
振り返った祐介に噛み付くようにキスをして、抱いた体を裏返すように腕で促す。
仰向けになった祐介は暁を仰ぎ、その首に腕を回した。やはり顔が見えるほうが好きだ。
「夜は長い。じっくりいこう」
いつもの夜のように──ジョーカーの時のように笑ったつもりだったが、上手くできたかどうかはよくわからない。
(俺はもう、ジョーカーにはなれないんだ)
夜明けを恐れて行為を引き延ばす、無様な獣だ。
不意に祐介の両の手が頬を包んだ。硬い表面の、感触は優しい。
「どうした? 暁」
おそらく随分とみっともない顔をしているのだろう。
「俺は今、どんな顔してる……?」
「不安そうな顔をしている」
ごく率直な返答に溢れた笑みは、自嘲だったかもしれない。
「おかしいよな、もう全部終わったってのに」
細く力強い腕に促されるまま、暁は再び快楽に身を沈める。
空気に触れて奪われる体温さえ惜しむように、しきりに身体を擦り寄せながら行為は続く。
「ゆ、すけ……」
性衝動は獰猛に駆り立てるのに、濡れて湿った膚触りはひどく優しい。
「ぁ……」
名前を呼び返す前に、何度目かもわからない口付けに言葉を奪われる。
この長い夜が明けたら何が起こるのか。
不吉な頭は殺そう、視界も今は要らない。腕を巻きつけ脚を絡め感覚を研ぎ澄まして、祐介は全身で暁を抱いた。
貪欲に育んだ欲望もやがて弾けて、今は妙に気軽い。
あれほど迷ったのが不思議なくらい簡単に、それは口から滑り落ちた。
「明日の朝、警察に出頭することになった」
「……お前がか? どういうことだ?」
祐介は目を白黒させた。内容的には重大事に思えるのだが、暁が落ち着いているせいもあって状況が飲み込めない。
「お前を呼ぶ前に、冴さんと会って話をした」
獅童を裁くためには暁の証言が必要なこと、怪盗団が賞賛されれば一同の身に危険が及ぶこと、それを回避したとしても前科のある暁は少年院に送られるであろうことなどを掻い摘んで説明した。
「なんという、理不尽な……!」
祐介は拳を握り、力を込めてベッドのマットレスを殴る。
暁はなぜだか吹き出してしまった。
「お前、自分の腕力考えて……」
一方の祐介は怒りを露わにしている。
「なぜだ! なぜ当のお前が笑っていられる! 本当に彼女は信用できるのか? また濡れ衣を着せられるとは考えないのか!?」
「クイーンのお姉さんだ」
「だが……!」
敢えてコードネームを呼んだ暁の意図もわからなくはないが、血が繋がっているからといって信用できるとは限らない。そんなケースは嫌ほど見てきた。
「捕まった俺が脱出するあの計画にだって、協力してくれたんだ」
祐介は目を伏せ、胸の前で合わせた指を弄る。
「……証言なんて、しなければいい。獅童は裁かれないかもしれない、だが奴はもう改心している。誰にも危険は及ばないはずだ」
「裁かれなかった獅童を利用しようとする人間は、奴の周りにきっといくらでもいる。祐介は、それでもいいと思うのか?」
違うだろう、とまで暗に含んだ声色に、祐介は何も言い返せなかった。
暁が自分の得だけを考えて行動する人間だったなら、二人は出会っていなかった。自分は今も斑目に飼われ、彼のための絵を描き続けていただろう。
「……浅はかなことを言った。すまない」
頭を垂れた祐介の、顔を上げさせながら覗き込む。
「いいよ。心配してくれてるんだろう?」
「……当たり前だ」
以前は逆の立場でこんなことがあったかと、暁は思い出していた。祐介の過去に憤った暁と、なぜか落ち着いている祐介と。
人の心は、案外単純なのかもしれない。
「大丈夫、そのうち戻る。今までだってうまくやってきたんだ、今更最悪なんてない」
行為で迷いが吐き出されたとでもいうのか、すんなり話すことができたし、意外なほど前向きな気持ちだ。
「……ありがとう、祐介」
「なんだ? 礼を言われることなどないはずだが」
「遅くまで付き合わせた」
「そんなことか。お前の口から直接事情を聞くことができたから、逆に良かったと思っているくらいだ」
言いながら祐介はスマホを弄りだした。
「何? 着信あった?」
「皆にも伝えなければ」
「それは駄目だ」
暁は慌て、画面にタッチしようとする祐介の手首を掴む。
「こんな時間にお前からって不自然すぎるだろう。皆には真や佐倉さんから伝わるべきだ」
「それもそうか。ふ、落ち着いているな」
時間に想いは通じない。夜の空は白んで、二人の時間はしばらく終わる。
「すぐに戻ってこい、約束だ」
「無茶言う」
まんざらでもない笑みを口元に浮かべ、小指を絡めて軽く振った。
◇
少しだけ眠り早朝のうちに寮に戻った祐介は、数時間後──打ち上げの約束の時間に再びルブランへ向かった。
途中で杏、竜司、春に出会って一緒にルブランに到着すると、重苦しい空気の店内には消沈した様子の真、惣次郎、双葉。暁の想定通りの状況だ。
昨日、暁から直接話を聞けたことは良かったと思う。
しかし今、惣次郎から説明を受けて怪盗団の仲間たちと共に憤り、暁の身を案じる気持ちを共有していることにひどく安心してもいた。
皆が暁を助けたいと思っている。待つだけではない、きっと何かできるはずだ。
暁の前科の原因となった女性を探し出し、あれは間違いだったと証言してもらう──当の暁と連絡が取れない状態では情報が少なすぎると言わざるを得ないが、無謀だとは思わない。思いたくない。
「だが、俺たちの他にも人手があったほうがいいだろう」
「そうだね、情報源が多ければ絶対見つかる!」
「つったって祐介、お前心当たりなんてあんの?」
春や真はともかく、と竜司は祐介を見返す。
「俺の知り合いというわけではないが、暁の〝協力者〟を知っている」
「なるほどね」
真は小さく呟く。怪盗団には協力者がいたはず、と冴がぼやいていたのを聞いたことがあった。直接会ったことはないが、暁に多様な交友関係があるらしきことは真も察していた。
「なんだよおイナリ、たまにはやるじゃん!」
協力者を知っているとは言ったものの、暁と一緒にいるときに会ったことがあるだけで、連絡先を知っているわけでもない。暁とどこまで懇意なのかも知らない。
それでも可能性があるならば、とかつて彼らと出会った場所に祐介は赴く。
暁が他の人間と親しくしているところなど、見たくないと思ったことがある。自分だけが特別でいたくて、そうではないと気付いて勝手に傷付いたこともある。
しかし今は、彼らがいっそ自分と同じくらい暁を想い、力になってくれれば良いと思っている。無論、恋人にまで発展されては困るのだが──虫がよすぎるだろうか。
(暁、この感情は一体なんだ?)
不思議だった。今は隣にいない、彼が戻ってきたら訊いてみよう。
仰いだ空に、日はまだ高い。
(暁、ふたたび君と過ごす夜明けを心待ちにしている)