星と矢印

3.

 放課後、人気のない中庭にいつかのように二人。
 長話をするなら屋上が落ち着くが、どうしたって注目は浴びてしまう二人だ、互いに過剰に人目を気にすることはなくなっていた。
「この前二人で出掛けたところを、暁に見られていたようだ」
 一二三は意外そうに祐介を見返す。
「それは……全く気付きませんでした。喜多川さんは?」
「いや。俺も暁に言われて知った。まだまだだな」
 自分も彼と同じ怪盗だというのに、とは喉の奥に飲み込む。
「声を掛けて下されば良かったのに。……お二人の都合が悪くなければ、三人でお話してみたい気もしますね」
 呑気に微笑する一二三に、少し前ならば迷わず頷いていたかもしれない。しかし祐介は表情を険しくする。
「いいのか?」
「どういうことですか?」
「君は暁のことが好きだろう」
「……!」
 迷いも躊躇いもなく言い放たれた言葉を、一二三は否定することができなかった。
「俺と一緒にいるところをあまり見せるのは良くないんじゃないのか」
 暁の誤解は解けたのだから、祐介が一二三と疎遠になる必要はなかった。ただ一二三の心情を思うと、どうするのが最善であるのか全く答えが出ないのだ。
「そうですね。来栖さんのことは、好きでしたが……」
「過去形か?」
「貴方が考えているような、恋愛的なものには発展しないと思います」
「何故だ? あんなにいい男はなかなかいないぞ」
「ふふっ……!」
 一二三は口を押さえて上体を屈める。笑い声を堪えているようだ。
「一二三? 何がそんなに可笑しい?」
 ツボに入ってしまったようだ。ひとしきり笑って落ち着いたらしい一二三は、ふうと溜息を吐くといつもの涼しげな表情を取り戻す。
 祐介を真っ直ぐに見つめ、すぅと瞳を細めると神妙に言った。
「参りました」
 さらりと髪を揺らして一礼し、理解できていない様子の祐介に微笑を浮かべる。
「投了です。さて、そろそろ練習に戻ります。喜多川さんも課題の提出が近いんでしょう?」
「あ、ああ、そうだな、俺も戻るとするか……」
 未だ首を傾げる祐介に軽く別れの会釈をして、一二三は踵を返す。
 長い睫毛は少しだけ憂いの色を帯びていた。
(わかりますよ。貴方と私は、よく似ているんですから)
 中庭にはあの日祐介が描いた二羽の孔雀が仲良く歩いている。
 揃いの美しい扇を広げた、二羽の雄の孔雀だ。

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