保健の藤真先生

「藤真、服を整理してたら出てきたんだ。これ、羽織ってみてくれ」
 ソファでくつろぐ藤真に期待に満ちた表情で差し出されたものは、白い──医者の着る白衣だった。以前ハロウィンのときに牧が着ていたものだろう。
「まだ持ってたのかよ?」
 保管されているとは思わなかったが、そういえばナース服も取っておいてあると言っていたような気がする。
「ちゃんと洗濯してあるから大丈夫だぞ」
 今日は特にコスプレをするような行事ではないが、白衣くらいならいいだろう。藤真は立ち上がってそれを羽織った。
「あとこれだな」
 牧の手によって眼鏡を掛けさせられると、いかにも機嫌よさげな牧の顔と、それを取り巻く部屋の風景の遠近感が奇妙に狂う。牧が本を読むときなどに使っているものだろう。そう強くはないが度が入っていて、視野全体を覆われるのは堪らないので、少しだけ下にずらした。
 ともすれば近寄りがたいほどに整った顔貌が、銀のふちの丸みを帯びたレンズに遮られると印象が和らいで、真面目そうではあるが不思議と親しみやすい雰囲気になる。牧は低く感嘆の声を漏らした。
「藤真、眼鏡もいいな……! 逆にエロいぞ……!」
「なんだよ、逆にって」
「まあ座ってくれ。……保健室にこんな先生がいたら通ってしまいそうだ」
 藤真は訝しげな顔をしながら再びソファに掛け、牧を見上げる。
「足踏んだ赤木のほうにケガさせるお前が保健室なんて行くのかよ? 冷やしてその場でテーピングして終わりじゃねえの」
「5時間目とかにな、先生の顔見ておしゃべりして仮眠して……」
「寝に来てるだけじゃねーかっ!」
 藤真のつっこみも意に介さないようで、牧は藤真の姿に目を細め、ソファの前に膝をつくと、ごく当然のような動作で抱きついた。薄手のニットを着た胸に顔を埋め、スーハーと深く呼吸する。敏感な箇所を擦るともなんともいえない、無視しきれない感触に、藤真は体をもぞもぞさせる。
「なに、においなんて嗅いで……」
「藤真先生のにおい、いいにおいだ……」
「柔軟剤のにおいだろ」
「陽だまりのにおい」
「天気よくて外に干してたからだろっ…んむっ!」
 唇を塞がれ、貪るように吸われると思わず目を閉じていた。平静を装って押し隠しているものが、体の奥底から引っ張り出されるようだった。
 唇の角度を変えて、さも旨そうに舌を啜り、身勝手に満足すると離れる。
「なあ先生、どうして好きだとキスしたくなるんだろうな?」
「っ……!」
 牧がなんともないような顔をしてさらりと言って退ける、その言葉に藤真は未だに内心穏やかではいられない。多少強引だろうが結局許してしまうし、その気がなくてもその気にさせられてしまう。いい加減慣れてはどうかと、思ってはいるのだが。
「口に入れて、自分の中に取り込みたい的な……?」
「確かに、嫌いなもんは口に入れたいとも舐めてみたいとも思わないな」
 牧は藤真の唇をべろりと舐め、なおも唇に、首筋にとキスを落としていく。服の上から明確に乳首を探られると、思わず声が漏れた。
「ぁっ…」
 牧はにやりと笑い、藤真のニットをたくし上げて白い胸を露わにする。小さく愛らしい薄紅の小突起を指で摘み、捏ね回しながら問うた。
「先生は男なのに、どうしてこんなに乳首で感じるんだ?」
「はぁっ…ん…!」
 答えを待つように、苛める手を休め、胸全体を揉むように撫で回す。
「まずっ、女の体が先にあってからっ、男になったと言われっ…♡」
 そう直接的な責めはされていないものの、まさぐる手つきがいやらしく、どうしても声が上ずってしまう。
「乳首はその名残り……だからっ、男だって、弄られっ♡ 神経が集まって、敏感になったらっ♡」
 硬い指の皮膚が、あるいは爪の先が、執拗に乳首を弄り、快感を引き出すように小刻みな動作を繰り返す。
「ちくびっ! 気持ちっ♡ あぁっあっ♡」
 割と真っ当な説明なのだが、乳首をいじられるせいで真面目に話すことができず、ふざけた感じになってしまう。果たして牧に正しく伝わったのだろうか。
「わかったっ…!?」
 ちゅぱっ!
 返事の代わりに大きなキス音を立てた、牧は左右の乳首を交互に吸っては赤みや勃ち方のバランスを眺める、ということにすっかり夢中になっているようだ。
(くそっ! お前だって乳首開発されたらこうなるんだからなっ! しないけど!)
「女の名残りっていうわりに、勃起はするんだな」
 牧は藤真の股間の隆起を布越しにするすると撫で、手早く前を寛げるとさっさとズボンと下着を取り去ってしまった。
「んなっ…!」
 こうなることはわかりきっていたとはいえ、あまりの手際のよさに思わず声が出た。膨張し、首を擡げる藤真の性器が空気にさらされる。
「そりゃ、体は男なんだから、興奮したら勃起する」
 申し訳程度に手で覆い隠したが、手首を握られ、ごく落ち着いた動作としっかりとした強い力で簡単に退けられてしまう。
「で、弄られたら気持ちいい」
 牧は唾液を垂らし、すっかり頭を出した、愛らしいピンク色の先端部を指の腹で撫で回した。
「あっんっ! ああっ……」
 根元を支え、聳え立つ性器越しに藤真を見遣り、挑発的ににやりと笑う。
 白衣の前は大きくはだけ、服を捲り上げられピンと立った乳首を露わにしたまま、下腹部には欲望の象徴をそそり立たせ、生真面目な印象の眼鏡の奥の目は快楽の予感に溶けるように細められている。容貌そのものは清廉な印象に整っているぶんだけ、実に卑猥だ。
「やらしい先生だな……」
 言って、見せつけるように厚い舌でそれをべろりと舐め上げる。
「っはっ……お、お前こそっ! そもそも何役なんだよ」
「生徒に決まってるだろう?」
 本気で不思議そうな顔の牧に対し「教頭先生かと思った」と言う前に訪れた感触に、藤真は口を噤む。
「あぅっ、あ、んんっ…♡」
 性器を咥え込まれ、亀頭部に舌を押し付けられ、びちびちと音が聞こえそうなくらい、速く、そして執拗に舐め回す。
「あんんっ、そこばっかっ…!」
 ぴくん、ぴくんと堪らず腰を跳ねさせる藤真の、強請るような声に愛しさと苦笑とが同時にこみ上げてこぼれる。藤真は基本的にしっかりしているのだが、こういうときには妙に子供じみて愛らしい。
 口から取り出した性器はねっとりとした体液を滲ませ潤んで感じているというのに、この淫らな肉体はそれでは飽き足らないというのだ。
「ふじ…先生はこっちのほうが好きだもんな」
 牧は藤真の両脚を抱え上げ、ソファの座面の上で体を二つ折りにする。
「あっ…くっ」
 脚を開かせ尻の穴まで思い切り晒させながら、牧は愉快そうに目を細める。恥じらうように頬を染めて顔は背けるのに、拒絶そのものに至らないのが心底可愛くて愛しい。
「先生、体柔らかいよな」
「日々の柔軟の成果……」
「それだけじゃないだろう?」
 白い肌の中心に見える、色濃い窄まりに唾液を垂らし、ほじくりこじ開けるかのように中指を挿入していく。
「あっ、あはぁっ…♡」
 渇いた指の擦れる感触が刺激的で、藤真は明確に歓喜の声を上げていた。
「う、んんっ…」
 じっとりと湿った粘膜の、強い抵抗の中をしばし指で探り、引き抜くと、どこからともなく現れたローションをたっぷりと注いで再び挿入する。
「準備万端すぎっ…!」
「いつものことだろう?」
 ゆっくりと指をうねらせて回し、肉襞の一枚一枚まで潤わせ拡げていく。
 穏やかで、しかし確実に快楽の気配を感じさせるその感触に身を委ねるように、藤真は眼鏡の奥でうっとりと目を細める。
「はぁっ…あぅ…」
「もう二本入ったぞ。欲張りだな」
「ん、お前がっ…ぁんっ♡」
 付き合ってしばらくが経ち、藤真の身体はすっかり男同士の行為に適応してしまったのだが、牧だとて随分と手馴れたのだ。一方的に淫らなような言われ方は心外だった。とはいえ掻き回される箇所と一緒に世界も、理性もぐるぐると歪むようで、水音に燻る甘い感触のなかで、真っ当な抗議の言葉は出なかった。
「先生ここは?」
 藤真の体がびくりと跳ねた。
「ぜ、前立腺っ…♡」
 牧は内部で指を曲げ、そこを指の腹で押す動作をしきりに繰り返す。
「ここを弄られると」
「気持ちひっ♡ あぁっ、ん、やっ…あぁっ♡」
「射精するほど気持ちいいんだもんな」
「んん〜っ♡」
 指をきゅうきゅうと締め付けて悶えながらも、藤真は首を横に振った。
「なんだ、違うのか?」
 牧は興味深げに見返して、返答を促すようにピンポイントを刺激する動作を止める。あくまで慣らすように、緩やかな動作で内部を探る。
「っ……オレもはじめはそう思ってたんだけど、〝精子が出る〟のと〝気持ちいい〟って感覚が別モンになってきたっつーか……だから『射精するほど気持ちいい』って言われるとなんか違う感じがする」
「先生……先生らしくなってきたじゃないか。尻に指入ってるが」
「うるせー」
「もう少し詳しく」
「……なんか、ちんぽだけでイくときは射精がMAXっていうか、絶頂イコール射精だったけど。中からヤられてて出ちゃうのは押し出されてるだけって感じ。トコロテンって言うだろ。それはそれで感じるけど、男としてイくときの感じとは違う」
 藤真はつらつらと言った。ひどいシチュエーションプレイではあるが、こういう話を直接する機会は意外となかった気がするので、悪くはないかもしれない。
「たまに勃起してなくて射精してるっぽいのは?」
「それもそう。溜まった精子がちんぽ萎えたあとに押し出されてるっていうか。イッたってより、出ちゃったって感じ」
「俺の感覚では射精が一番気持ちよさそうなんだがな」
「だろ? それがフツーの男の感覚」
「説明だけじゃわかりにくいな。実習してみよう」
 牧は即座に自らのモノを取り出して撫でさすり、藤真の中を慣らしていた指の粘液と唾液とでその表面を濡らした。
「生徒のくせに、相変わらずでっかくて黒い……」
 その立派な逸物を疼く体に押し込まれるのかと思うと、興奮で頭がどうにかなってしまいそうだった。初めのうちは、相手が牧だからこそ許す行為だった。牧が自分に没頭する状況を愉しんでいた。しかしもはや、強烈な快楽そのものに惹かれのめりこんでいることも否定できない。
「AVみたいだな」
 しかも無修正、と頭の中で呟きながら、白い尻の狭間に自らの男根を擦り付ける。随分と違う二人の肌色と、押し付けた欲望の下で期待するようにうねる陰部に思わず喉が鳴る。兜のように張り出した亀頭部が小さな窄まりにずぶりと呑み込まれていくさまは、何度見ても格別なものだった。
「ぅあっ! あぁっ、あああぁっ…!」
 苦しげな呻きに確かに甘い響きを乗せながら白い喉が仰け反る。牧と比べると随分と細い体が、その獰猛な欲望の全容を呑み込んでいった。
「っふ……全部挿入ったぞ、先生」
「ぅ、あぁ…♡ 先生なのに生徒にちんぽ挿れられちゃった…♡」
 入り口はきついが内部は適度な圧力で、行為を促すように吸い付いてくる。誘惑に抗うように、牧は体を前に倒して藤真にくちづけた。
「んぅ、むぅっ♡ んんっ…」
 求め合うように舌を絡める、淫靡な感触の中を泳ぐように浸っていたが、腰に脚を絡められると我慢できない。みっしりとした肉壁の中に埋めていた男根を、ゆっくりと引き抜いていく。
「あはっ、あっあぁっ…! んっ!」
 そして再びゆっくりと穿ち──そうして内部を確かめるような、緩やかな動作を何度か繰り返す。
「っく、ん、んんっ…まきっ…!」
「わかってる」
 薄紅の唇にちゅ、と軽くくちづけると、牧は明確に快楽を貪るように抽送運動を始めた。
「ひぁっ♡ あっあっあんっッ♡」
 パンパンと肌のぶつかる乾いた音と同じリズムで喘ぎながら、藤真が上ずった抗議の声を上げる。
「あぅっ! そこっ、やぁっ♡」
「んん? トコロテンの実習だろ?」
 牧は意地悪く笑い、藤真の前立腺を刺激するように意識して突き上げる動作を繰り返す。
「ひぃっ、あっ♡ そんなっ、突っ♡♡♡」
 藤真が音を上げるまでに、そう時間は掛からなかった。
「あんっあぁあぁっ♡」
 情けない──牧にとっては愛らしくて堪らない声とともに、藤真の性器からビュッと精液が飛び出す。
「あっ、あはっ、あぁあっ……♡♡♡」
 それは牧の動きに合わせ、まるで押し出されるようにピュッ、ピュッと何度かに分かれて吐き出された。
「あぁっ……これがっ♡ トコロテンッ♡♡♡」
 咽せるような雄のにおいの中、藤真の締め付けに耐えるように牧は眉根を寄せる。そんなことは意に介さない様子で、藤真は恍惚とした表情を浮かべ、深い呼吸に胸を上下させている。
「はぁっ……はぁっ……♡」
「まだこれからだよな? 先生」
 牧は藤真の体を圧し潰すように伸し掛かった。
「うぐっ、うあぁっ…!」
「奥がいいんだろう?」
 一層深く穿つように下腹部をぐいぐい押し付けるうち、そこにもう一つ口があるかのように、藤真の内奥がじゅぱじゅぱといやらしく吸い付いた。
「くふっ、あぁっ♡ おっきいちんぽだとっ♡ 結腸っ♡ 奥の口がっ♡ 開いちゃっ…あひぁあっ♡」
 S字の入り口に亀頭部を咥え込み、藤真は堪らず仰け反った。牧は自らを鎮めるかのように、深く長く息を吐く。
「う、あぁ……すごいぞ……先生のここ、ちんぽを咥えるための穴なんじゃないかってくらいだ……」
「オレもっ♡ そんな気がしゅるっ…!」
 子供のような口調で言った〝先生〟に軽いキスを落とし、今度は内奥を犯す意識で腰を使う。
「ぅあっ、あんっ! あっあ、いっ…!」
「あぁ……ふじま……」
 ほとんど吐息のように呟きながら、牧は夢中で体を揺さぶった。雁首を奥の口に出し入れしながら、根元まで喰らわれた陰茎はいくつもの肉襞に吸い付かれ扱かれている。もう女とのノーマルな性行為には戻れないだろうとは、藤真と付き合ってから何度も感じたことだ。
「あぅっ、あっ♡ あぁっ、あんっ…♡」
 自らの快楽を求めて腰を振ると、応えるように嬌声が上がる。精液を吐き出してから萎えたままの性器が、ふるふると愛らしく揺れていた。
「こんなでも気持ちいいんだよな」
 動きを止めて、じっとりと濡れた柔らかな陰茎を指で弄る。中で感じるほうに意識が向きすぎると性器は却って萎えるのだと、以前藤真自身から聞いたことがあったが、同じ男の体をしているのにと思うとやはり不思議だった。
「んっ、そっちじゃ、なくてぇっ…♡」
「こっち?」
「ひぁあっ!」
 両の乳首を摘み上げると悲鳴のような声が上がる。
「気持ちいいのか?」
 牧は嗜虐的に目を細め、爪の先で乳首を弾き、指の腹で押し潰しながら転がした。
「んふっ、あぁっ♡ あっ♡」
 そうしながら突き上げられると堪らずに、藤真は背を弓形にのけ反らせて足の指をぎゅうと丸める。
「っっ──♡♡♡」
「なぁ、どうなんだっ…? 教えてくれ、先生だろうっ…」
「あぅっ、生徒ちんぽっ♡ ぎもぢいっ♡♡♡ ちくびっ…あっ、んゃあっ♡」
 体の奥の奥を突かれ、世界を揺さぶられながら敏感な箇所を刺激され続け、頭が回らないながらも答える意志だけで言葉を紡ぐ。
「嫌だって?」
「んぃいっ! しゅきっ、まきっ…んぁっ♡ あぁっあっ♡」
 牧は陶然として溜め息をつく。
「そうだな、俺も好きだ、藤真……」
 深く、貪るようなくちづけをして、それからは無駄話をせずに、ひたすら互いの感触を味わった。
 牧の、男の性器に体内を掻き回され脳まで揺さぶられる異様な興奮に、藤真の唇の端をだらしなく唾液が伝う。
「んぅっ、ぅあっ♡ らめっ、イクぅっ!」
「ああ、いいぞ…」
 囁くように言って、牧自身もまた終わりに向かうようにピストンの速度を上げていく。
「あはっ、あぁっ、あぁあァッ──♡♡♡」
 脳がスパークして目の前に星が散る。
(まき…)
 声にならない声で恋人の名を呼ぶうち、どこからともなく押し寄せる暖かな幸福感が、津波のように全身を呑み込み攫っていた。
 藤真はひときわ高い声を上げ、体を激しく痙攣させる。性器からは透明な液体がびしゃびしゃと吹き出し、藤真の体と衣服を濡らした。
「っっ……!」
 一緒に頂点に連れて行かれるかのように、牧もまた達し、藤真の中に精を放っていた。

「以上、藤真せんせいの保健の授業・実習編でした♡」
 ひくん、ひくんと体を痙攣させながら、ふにゃりとだらしなく笑った藤真の、まだ口を開けたままの淫部に、牧は再び自らを押し付けてずぶりと沈めた。
「え」
「次、補習編だな」
「補習だなんて、一体どこが分かんなかったっていうんだよ」
 言葉はそう言いながら、男根を咥えた部分はいくらでも突いてほしいと訴えるように疼き、声は甘く上ずっている。
「反復練習は大事だろっ、そらっ…!」
「あんっ♡ あ、あひっ、そんなっ、またイクぅ──っ♡♡♡」
 二人きりの課外授業はしばらく続く。

Twitter