それからずっと、おれたちは

【R18】牧藤の思い出と現在の話。37歳の牧×17歳の藤真(夢オチ)と、付き合って20年の37歳と38歳の牧藤とその後。全3話 [ 1話目:8,035文字/2020-08-14 ]

1.

 鼻を撫でる潮のにおいを、頬にまとわりつくそよ風を、即座に懐かしいと認識していた。二色の青の境界には白い光線がキラキラ揺れて輝いて、波の音が穏やかで単調な反復を繰り返している。高校時代を過ごした、神奈川の海だ。
 夏の真っ昼間だが、ジャケットを着込んだスーツ姿にも暑さは感じない。履き慣れた黒い革靴が白い砂に不似合いで、少し居心地が悪かった。海水浴場からは離れてるんだろう、ほかに人はいない──と思ったところであまりに鮮烈に目に飛び込んだ少年の姿を、俺は思いきり凝視した。
(藤真……!?)
 俺は魚みたいに目を丸くして口をパクパクさせた。喉の奥が張りついて閉じたような感じで、咄嗟に声が出なかったんだ。
 あいつのことはずっと見てきてる、背格好や髪型が似てるなんて話じゃない。まだこっちに気づいてない、考え込むような、少し寂しげな横顔だってそうだ。格好は私服といえば私服だが、シンプルなTシャツとハーフパンツ姿はバスケの練習のときの感じだな。
 視線を感じたのか、藤真は俺に気づくと大袈裟に首をこっちに向けて目をまんまるにした。
「牧!?」
 近くまで駆け寄ってくると俺の顔をじいっと見て、頭のてっぺんから靴の爪先まで、舐めるように観察する。舐めるって思ったら一瞬ふしだらな気分になっちまった。俺と藤真はもう長くそういう関係だから別に大丈夫なんだが、しかしこの藤真は──
「……じゃないよなぁ。でもホクロまであるなんて、こんなにそっくりなことって」
 目の前の〝少年の藤真〟は、スーツを着て眼鏡を掛けた三十七歳の俺を見つめて、腕を組んで唸っている。いかにも理解できないって様子だが、俺だって同じだ。神奈川の海で藤真と出くわすことのなにがそんなにおかしいって、俺が今のままなのに藤真が高校生だってことだ。今は二〇十二年のはずだぞ!?
 高校生だって断定するのは、俺たちが出会ったのは高校のときで、それ以前のことは知らないんだから、見覚えがあるってことはそういうことだろう。それにしても、昔の藤真は……言ったら怒られるんだろうが、女の子みたいだ。
 額全体を覆うように下ろしたサラサラの前髪の下から、長い睫毛に飾られた大きな目が様子を窺うようにこっちを見てる。これがまた、陽の光を浴びると金色に透けるみたいですごく綺麗で、まあそれは今も一緒なんだが、かわいいって形容になるのは輪郭のせいだろうな。ほっぺたのラインに丸みがあって、今の俺が見慣れてるよりずっと子供って感じだ。藤真の〝作ってない〟豊かな表情と相まって幼く見えて、身長差は大袈裟には変わってないはずだが、なんだかずいぶん小柄に感じる。俺たちは高校のときから付き合ってたが、藤真は本当にこんなだったか? なんとなく罪悪感が湧いてきた。
「えと、牧紳一の親戚の方ですか?」
「いいや? そんなやつは知らないな、他人のそら似だろう」
 親戚じゃあないんでなにも考えずに否定しちまったが、親戚にしといたほうがよかったろうか。しかし昔から老け顔と言われてた俺だが、高校生のころは今よりはちゃんと若かったんだな。だから藤真は俺本人ではないと思って首傾げてるんだ。
「そら似……」
 熱心に視線を注いでくる藤真にキスしたくなったが、俺はこの藤真の恋人ではないはずだから一応我慢した。つうか、この藤真はもう俺と付き合ってるのか? これはいつの夏だ?
「世の中には、同じ顔の人間が三人いるっていうだろう」
「聞いたことはあるけど……」
「きみはこんなところでひとりで、なにしてるんだい」
 一瞬、左のこめかみを気にするように手を挙げかけた動作を俺は見逃さなかった。怪我したすぐあとのタイミングか。
「行くとこないんだ」
「部活は」
「休み」
「本当に?」
 藤真の表情が一瞬曇ったように見えたが、吹き抜けた風が長い前髪を乱して目もとを隠した。再びこっちに向いた瞳は悪戯する子猫みたいに、いや、小悪魔みたいに愉しげに笑んでいた。
「おじさんこそ、なんでスーツ着てこんなとこにいるんだよ。仕事サボってんじゃないの?」
 藤真は知らないおじさんにこんな顔をして妖しげなことを言うような高校生だったんだろうか。それとも俺が牧に似てると思ってなんだろうか。
「なんでって? そりゃあ……」
 俺にもわからなかった。なんでだ? 答えに詰まる俺を認めて、藤真は目を細めて笑う。
「おじさん暇なんだったらさ、オレと援交しない?」
「っは!? な、なんだと!?」
 エンコーと。援助交際と、聞こえた気がするんだが、きっと聞き間違いだと思う。本当はなんだろう。なんかそういう言葉あるか? 〝公園〟の若者言葉か?
「怒んないでよ、嫌ならいいよ」
 いかにもつまらなそうな顔をして、ふいとそっぽを向いて離れていこうとする藤真の手首を、咄嗟に掴まえて引いていた。
「待てっ! ふ、きみっ! 今一体なんてっ……!」
 藤真は掴まれた手首を見て、それから俺の顔を見て、愛らしく首を傾げる。わかるぞ、たぶんわざとだ。
「え、もしかして知らない? エンコー、援助交際。お小遣い貰う代わりにおじさんと遊んであげるっていう」
 探るような、大人びた視線が絡みつく。藤真はさすがに中学時代からモテてたらしく、高校時代にはませてたというか、すれてたというか、そういう感じだった記憶がある。顔の造形は幼くても表情は確かに俺の知る彼のものでもあって、そして藤真は俺の恋人で、だが今目の前にいる藤真は高校生で、俺は分別ある大人だ。俺は葛藤に打ち勝ってきっぱりと言い放った!
「それは立派な売春だし、きみは未成年じゃないか。そんなこと絶対に駄目だ!」
 藤真は不満げに眉を跳ね上げ唇を尖らせる。
「だから、嫌ならいいよって言ったじゃん」
 離れていこうとする体を、その腕を、俺はやっぱり捕まえてしまう。
「あ……」
 反射的なものだったから、思わず間の抜けた声が出てしまった。
「なんだよ、放せよ」
「ほかのおじさんと援助交際なんてするんじゃないぞ」
 素直にうんと頷く相手じゃないことは俺だってよく知ってる。なにしろ藤真だからな。
「関係ねえだろ」
 ただの強がりだ、実際は援助交際なんてしないだろう。……本当に、しないだろうか? 怪我で部活に出られなくて、自棄になってるかもしれない。もしくはなんか、金が必要な事情があるかもしれない。どっちにしろ、俺が今藤真を解放すれば、悪いおっさんと援助交際してしまう可能性はゼロではない。そして藤真は痴態を撮影されて脅され、闇のAV堕ち──
「いくら欲しい?」
 顔を寄せて低く囁くと、藤真の顔がパッと輝いた。
「おっ、話早いじゃん。いいね」
 天使みたいだ。つるんとした髪の毛に光の輪っかが見えてる。これからおっさんに春を売るつもりには到底見えない。涙が出そうだ。
「とりあえずなんか食い行こうよ」
「なにがいい? 寿司か?」
「肉!」
 太陽の下に咲く満面の笑みが、大輪のひまわりみたいだった。綺麗だな。くらくらする。空も青くて、明るくて──

 場面は変わって、俺の行きつけの焼肉屋だ。そのうち藤真の行きつけにもなるだろう。藤真はトングをカチカチ鳴らしながら、爽やかに高校生らしく笑った。
「焼いてあげる!」
「焼きかたわかるのか?」
「わかんねーけど、焼くだけだろ?」
 そう言って網の真ん中に、同じ部位の肉を二枚並べる。
「確かに。楽しく食べればそれでいい」
 前にもこんな会話をしたような気がするが、この藤真はまだ知らないかもしれない。なんにせよ藤真が俺のために肉を焼いてくれるなんて、かわいげがあっていいもんだ。……いや、援助交際ってことを気にして振る舞ってるんだろうか。そう思っちまったら嫌な疑念が湧いてきた。聞いてみたいような、知らないほうがいいような。
「そうだ、おじさんのこと、なんて呼んだらいい?」
 上目で覗いてにこりと笑う。うん、かわいいな。だが作り笑いだな。……こういうの、慣れてるんだろうか。ああ、嫌だ、いやだ!!
「おじさーん?」
「ん、ああ、『おじさん』でいい」
 昔、十代のころ、ふたりとも同い年なのに焼肉や寿司でよく〝パパ〟と間違えられたな。懐かしいことだ。実際にそうなっちまうとは思いもよらなかったが。
「きみのことはなんて呼べば?」
「え? あ、うーん、じゃあ『藤真』で」
「なっ!?」
 おい、こういうのって、身元は隠すもんなんじゃないのか? いや知らんが、なんとなくそういうイメージがある。藤真がなにも考えてないとも思えないんだが……。
「なに? なんかヘンだった?」
「いや、別に。そうか、きみは藤真くんか……」
 そうだな、目の前にいるのは確かに藤真だ。だが、しかし、なぁ。
「呼び捨てでいいよ。お、焼けたっぽい。はい」
「ああ、ありがとう……藤真」
 舌にも唇にも、もうものすごく馴染みのある響きだ。藤真は照れくさそうに笑う。
「すごい、やっぱり声まで似てる」
「見た目が似てたら声帯も似てるから、声も似てるんじゃないか?」
 俺はものすごく適当なことを言った。

 浴室から漏れるシャワーの音を聞きながら、俺はベッドの中で藤真を待っている。当然、裸だ。ホテルまでの道中は覚えてない。酒は飲んでないんだが、おかしいな。
「ふーっ……」
 細く長いため息は憂鬱のアピールだったが、それでも俺はこの場を離れることができずに待っている。
(だって、相手は藤真だぞ? 俺は藤真とずっと付き合ってるんだ、なにも悪いことなんてないだろう。いくら俺がおっさんで、藤真が未成年だとしたって。……いや、やっぱりそれはいかんような気がするな……ううむ……)
 相手が見ず知らずの高校生ならこんなのは絶対ありえないんだが、藤真だってことが事態をややこしくしてる。
 浴室のドアが開く音がした。ドキッとしながらも平静を装って待ってると、バスローブ姿の藤真が俺の隣に潜り込んでくる。裸の腕に触れるバスローブの感触と、馴染みのない石鹸のにおいがものすごくよそよそしい。
 俺が体を横に転がしてぴたりと藤真に寄り添うと、藤真は仰向けのまま、視線だけを逃がすように逸らした。照れてるんだろうか。不慣れっぽい……つまり、やっぱりこんなことは日常的にはしてないってことじゃないか? 俺は俄然元気になってくる。
「藤真、本当にいいのか?」
 ああ、最低だな。本当なら『こんなことはいけない!』って突き放さなきゃいけないだろうに、俺は悪い大人だ。
「そんな、ここまできてそんなこと言う?」
 藤真は言うと、ためらうような動作で俺のほうに頭を寄り添わせた。頬に触れる柔らかな髪の感触を、彼の甘える仕草を俺はよく知ってる。なにを迷うことがある?
「そうか、そうだな……」
 顎を掴まえ、顔を上向かせると長い睫毛がゆっくり降りる。
「っ……ん、むぅっ…」
 反応こそ初々しいものの、薄い皮膚の感触も、漏れる声もまるで藤真だ。俺のわずかばかりの罪悪感と自制心は簡単に崩れ去って、藤真の体からバスローブを剥ぎ取り、力一杯抱きしめていた。肉付きがいいってわけじゃないが、肌と筋肉には若々しい弾力があって、若い子をピチピチって表現するのはこういうことなんだろうなって変に感心してしまった。
 恥ずかしがらせるようにちゅっ、ちゅと音を立てて唇を吸って、白い首筋に舌を這わせる。若い体がぎこちなく波打って、大きく震えた。
「はっんっ」
「気持ちいい?」
「っ、くすぐったい…」
 はにかんだ笑みが、新鮮ながら懐かしい感触で胸の奥をぎゅっと摘む。肩口、鎖骨、平らな胸へと、唇を落として軽いキスを繰り返すたび、ごく弱い反応を示すのがいじらしくて堪らない。キスは好きだ。だが、体中にキスをしても痕はつけない。藤真の周囲を騒がせたくはなかった。……ああ、そうだな。俺たちの逢瀬はいつだって背徳的で刺激的だったが、ふたりしていつも互いの予定を気にしてた。ささやかな反逆を繰り返しながら、決して破滅は望んでなくて、優等生でいられるぎりぎりを探ってたんだ。
 下唇に、ツンと尖った愛らしい感触が触れる。
「あっ…」
 照明は少し落としてはいるが、白い肌にほんのり浮かぶ淡い色素は確認できる。初々しい、ピンク色の乳首だ。昔はこんなだったんだな。
「っ、んくっ…あっ…」
 ふたつの小さな突起を摘んだり、爪の先でかすったり、甘噛みしたり。好き勝手に弄り回すと、ときおり恥ずかしそうな声が漏れる。思いきり感じてくれるのもいいが、こういうのもかわいいもんだ。
 脇腹から腹へと、色黒の手が白い肌を味わうように撫でる。自分の手なんだが、こういうときはなんだかすごく他人ごとというか、卑猥な映像を見てるような気分で興奮してしまう。もちろん感触だってやらしいんだが、きっとふたりの肌のコントラストが、俺とお前は違うものなんだって、だがこうして触れることを許してるんだって、思い知らせるからなんだと思う。
 股間には、若々しい猛りが元気よく天を仰いでいた。
「興奮してるんだな」
「あ、当たり前だろっ、こんな状況なんだから」
 長年一緒に居続けて全然意識してなかったが、乳首と同じくこっちもそれなりに様変わりしたんだな。たぶん俺のほうもそうなんだろうが。
 ピンクのかわいい先っぽに音を立ててキスしながら、濡らした指を藤真の会陰部から尻の穴へと滑らせる。
「ひっ!」
 怯えたような困ったような顔で身を硬らせる藤真の様子はもうずいぶん見たことがないもんで、俺の中のよからぬ衝動がどんどこうるさく胸を叩いた。
「こっちも? 本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫、覚悟はできてる……」
 もちろん乱暴にする気はない。実際最初のときから割と円満というか、うまくできたんじゃないかと俺は思ってるんだが、藤真がどう感じてたのかはわからない。あいつはわがままなようでいて根っこの部分では結構気を遣うほうだからな。だが、今の俺なら昔よりうまくできるはずだ。というか、できないと困る。
 体を下にずらして藤真の股間と向き合い、たっぷり唾液を垂らして手の中で竿を遊ばせる。扱くたびに脈打つ感触も、元気がよくて若々しいって感じだ。
「あぁっ、んんっ…♡」
 藤真がいかにも気持ちよさそうに目を細めるんで、このままいかせてやりたいような気もしたが──空いているほうの手で太腿を持ち上げると、きゅっと閉じたかわいい蕾が怯えるように震えていた。いや、藤真の覚悟を無駄にしてはいけないな。そこにキスするように唇を合わせ、べろりと表面を舐める。
「ふぁっ…!」
 初めてだろうに、誘うように収縮してる。きっと素質があるんだろう。望み通りと、細く尖らせた舌を差し込んだ。
「っんっ!」
 唾液を送り、にゅぐにゅぐ舌をうねらせながら前を扱くと、ぎゅうと舌が締めつけられる。さすがにきついな。じっくりほぐしてやらないといけない。
 舌を抜いて視線を上げると、顔を真っ赤にした藤真と一瞬目が合って、即座に逸らされた。
「っふ……」
 なんとなく笑ってしまった。感情としてはなんなんだろうな、とりあえず罪悪感はない。ただ藤真のことがかわいくて、気持ちよくしてやりたいと思ってる。
 ローションをたっぷり指に絡め、唾液で少しだけ潤んだ入り口に突き立て、ゆっくり呑み込ませていく。
「っあ、あぁっ…」
 細い悲鳴みたいな声が上がる。慣れない感触のせいだろうが、指一本なら物理的には問題ないはずだ。藤真の意志じゃなくて体の反射なんだろうが、指への強い締めつけと押し返す弾力が、なんだか素直じゃないときの藤真みたいだと思った。
「あぅ、んっ、あぁっんっ…」
 じっくりと後ろを濡らしほぐしながら、イかない程度に前を扱いたり、しゃぶったりして、これは気持ちいいことなんだって感覚を植えつけていく。
「気持ちいいのか?」
「あんっ、んっ…」
 腰を浮かせて、顔を背けながらも、明確な拒絶は示さない。思う通りの反応を示す藤真がかわいくて堪らない。しばらくそうしていると、短く問うような声が上がった。
「っ、ねっ…」
「どうした?」
「ずっと、そうしてるね?」
「ん? ああ……」
 なんのことか一瞬わからなかったが、指より先に進めってことなんだろう。興味なのか意地なのか……うん、藤真はそういうとこあったな。
「そうだな」
 そろそろいいだろう。ヘッドボードに手を伸ばしてコンドームの個装を引っ張り出す。
「ゴムつけるんだ? 男同士なのに?」
「避妊具っていうが、避妊だけが目的じゃないんだぞ」
「そうなんだ」
 藤真はなんだか残念そうだ。まあ、若いころは性欲自体も強かったが〝できるだけエロいこと〟をしたいってのもあったもんな。俺は大人の矜恃を保ったってところか。
「うつぶせになって、腰を上げて」
「バックってこと?」
「ああ、それが一番楽なはずだからな」
「……」
 少し戸惑ったようだったが、それでも藤真は素直にうつぶせになって尻を掲げた。小ぶりで引き締まった尻に、きゅっと窄まったアナルに、ぷりっとした玉袋がぶら下がってる。いい眺めだ。
 白い小山の間に黒く猛る息子を擦りつける。つるんとしたこのかわいい尻にこれを突っ込むのかと思うと、異様な興奮でどうにかなっちまいそうだった。
「力抜いて」
 落ち着いていけ、と自分に唱えながら、小さな窄まりに先っぽを押しつけて押し込む。
「っく、ぅ……っ!」
 狭い肉の門を、じりじりと、ゆっくりと開きながら、体を貫いていく。慣らしたつもりだが、さすがにきつい。漏れ聞こえる声が辛そうなんで、前を扱いてやると、驚いたように震えた体と一緒にそこも収縮して、俺のモノをずるりと呑み込んでしまった。
「う、あぁあっ…!」
 藤真は枕の上に置いた腕にすっかり顔を埋めてしまっている。女のような極端な起伏はないが、背中から腰、尻へのなだらかなラインはやっぱり色っぽい。男の欲望を受け入れるには頼りないような、肉の薄い腰と細い太腿に堪らなく興奮するようになったのは、藤真のせいだったと思う。
「藤真、入ったぞ」
 下腹部を撫でると、俺のものを含んだそこがぼこんと腫れているような気がした。
「あ、うぅっ…」
「気持ちいいか?」
「ぅ、ん……」
 自己満足みたいに問いかけて、ゆっくりと体を引いて、また奥まで収めて。様子を窺うように動作していたが、そう長いことは耐えられずに、明確にピストン運動をはじめる。
「はっ、あぅっ、あぁっ……!」
 体をぶつける音と、歓喜とも苦悶ともつかない呻き声の中に、確かな響きをもってそれは鼓膜を揺らした。
「あっんっ……き……まきっ……」
「っ!! 藤真……!」
 お前、俺のことを考えてるんだな! 援助交際なんて言いだしたのも、俺が牧に似すぎてるからだったってことだ。止めるなんてとうにできない状態だったが、いよいよ歯止めが効かなくなる。
「うぐっ!」
 思いきり深くまで穿ってのし掛かり、いじらしい体を縛るように抱きしめ、伏せられた藤真の顔に頬をすり寄せる。
「こっち向いて」
 いかにもためらうように、重々しく顔が上がると、強引にその顎を掴まえて唇を奪った。
「んっ、むぅ…」
 それからはもう、夢中だった。俺は自分の恋人を抱くつもりで高校生の藤真を抱いて、藤真はおそらく彼の世界の高校生の俺を想って鳴いた。
 窮屈で刺激的な感触に連れて行かれるように、俺は自分の終わりを察して、藤真の前をしきりに扱く。
「ひぁっ、ァっ…!」
「藤真、いくぞッ…」
「あ、んっ、まきっ…! あ、あァぁぁッ……!!」

「彼のこと、好きなのか?」
「えっ? 彼って?」
「牧ってやつのこと」
「んなっ、そんなんじゃないしっ!」
 幸せそうに紅潮していた藤真の頬から、一気に血の気が引いて蒼白になる。
「おじさん、やっぱり牧の知り合いなんじゃ……」
「さあ、どうかな」
「このこと、牧には言わないで」
「なら、もう援助交際なんて絶対にするんじゃない。そして、彼に気持ちを伝えてやるといい。そしたらきっと彼は、一生きみのこと離したくないって思うはずだから」

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