1.
オレンジ色のカボチャ、魔女とコウモリのシルエット、Happy Halloweenの文字がいたるところで目に入る、今日はハロウィン当日だ。
季節を感じさせるイベントは好きだ。実家のころは弟と妹がいるのもあって家族でなにかしらやってたが、中学に上がるとバスケやってる時間がぐっと多くなって、高校時代は季節の行事からはほとんど遠ざかってた。景色の移り変わりなんかは感じてたが、時間の流れが早かったっつうか、いつもどっかしら急いでたと思う。こうしてのんびりした気分で街を眺めるってのは懐かしい感覚だ。
大学生活もはたから思われてるほど暇じゃないんだが、高校のころよりはずいぶん余裕があって、藤真と一緒に住んでるってのがなによりでかい。毎日会えるし、予定を合わせるのだって簡単だ。
藤真は夕方まで大学の用事だっていうんで、俺は適当に散歩してハロウィンの詰め合わせお菓子とカボチャのケーキを買って、今は家に帰る途中だ。家に着いて、藤真も帰ってきたらそりゃあ愉しいことをする予定だが、外ではあまり具体的に考えないほうがいい気がする。
まだ日の落ちきっていない、見慣れた住宅街を歩いてると、妙に唐突な印象で目の前に人影が躍り出た。
「トリック・オア・トリート!」
「うおっ、……藤真……!!」
取り落としそうになった手荷物を握る拳に、自然と力が入る。体じゅうの血が一瞬で沸いた気がした。
現れたのは、セクシーでキュートな小悪魔姿の藤真だった。黒のエナメルで統一した衣装は、小さな三角ブラとホットパンツ、ひじ上手袋にひざ上のブーツ。手足が覆われてるぶんだけ、平らな胸と白い腹が際立って見えた。頭の上には小さな黒い、少し曲がったツノが二つ。手の込んだことに耳の先が尖ってて、目はカラコンでいつもより淡く、金色に近い色をしてる。表情を作ってるのか、カラコンのシャープな印象のせいか、目尻が少しツリ上がって見えた。
サプライズってやつだな。予定外の登場をしたこいびとを見据えると、嬉しさとやらしさの混じったニヤけ顔になっちまうのが自分でわかる。
「待っててくれたのか。すごく……嬉しいんだが、風邪ひきそうだな」
目のやり場に困りつつも案外冷静に、俺は自分が着てたブルゾンを脱いで藤真の白い肩に掛けた。コスプレで練り歩いてる人間はちらほら見かけたが、これはさすがにあんまり人に見せたくない。もう結構寒いから、普通に風邪も心配だ。
「ん? ……おお、あったかいな」
藤真は一瞬不思議そうな顔をしたが、納得したようにニコッと笑った。口から覗いた犬歯がキバみたいに尖って、小悪魔なのに無邪気っぽくてすごくチャーミングだ。ずいぶん気合いが入ったコスプレだと感心するやら、不思議なくらいのかわいさに射抜かれるやらで内心忙しい。もちろん普段の感じもいいんだが、なんだろうな、やっぱりコスプレって新鮮でいい。きっと藤真もそう思って張り切ったんだろう。
「落とすから、ちゃんと袖通して」
マントみたいにくるまってるのもかわいいんだが、危なっかしいからな。藤真は平均より華奢ってわけじゃないんだろうが、半裸に近い状態で俺の服を羽織ってると小柄でかわいく見える。彼シャツみたいな……所有感みたいな、そういう満足感もあるだろうな。でもこの格好ならカジュアルなブルゾンじゃなくて毛皮のほうが似合うかもしれない。黒いツヤツヤのゴージャスな毛皮を着せて、リムジンの中で──
「トリック・オア・トリート!」
「ん?」
藤真は出会い頭のセリフをまた言って、黒いエナメルに包まれた指を鉤型に曲げた。がおーって感じだな。恐くはなくて、かわいさしかない。
「お菓子くれ!」
ハロウィンは合法的にコスプレできる日って感じで、藤真はお菓子はそこまで楽しみにしてなかったと思うが。〝お菓子大好き小悪魔〟っていう設定なのかもしれないな。俺は手に持ったお菓子の袋を持ち上げて鳴らす。
「買ってきたから、家に帰って一緒に食べよう」
「おう、じゃあ早く家に行こうぜ!」
無邪気な笑顔を浮かべて擦り寄られると、なんだか下腹を撫で上げられて誘われてるような心地だった。藤真、演技派だとは思ってたが、今日はなんかすごいな。子供っぽさとセクシーが同居してる。メイクについては、同じ大学にタレント関係やらメイク担当志望やらいろいろいるって聞いたことがあるから、そういう友達によるものかもしれない。……大学の用事って、もしかしてそういうことか?
外でコスプレしてるくらい乗り気なら、手を繋いでも許されるんじゃねえか? 無性にそう思えて手袋越しに藤真の手を握った。
「!」
藤真は拒否せず、それどころか指を絡めてきた。冷たく張り付くような感触が新鮮で、肌同士が触れてるわけでもないのに妙にやらしく感じる。見返すとセクシーに微笑して……今日は藤真が大胆なんだと思ってたが、もしかして俺が興奮しすぎなだけなのか? 帰ったらのんびりお菓子なんて食ってられるだろうかと思いながら、藤真の手を引いて帰り道を急ぐ。
「おいっ!」
家に着くと、藤真がブーツを履いたまま上がろうとするんで思わず声をあげちまった。藤真は不思議そうな顔で、片足を上げたままの格好で止まってる。なんだ、俺がおかしいのか? いくら短時間しか履いてなくたって、外を歩いてきた靴でそのまま家には上がらないだろう。潔癖症とかじゃなくて、日本人的なだけだと思う。……しかし、そうだな、この小悪魔のコスプレはロングブーツも込みで成立してるってのもよくわかる。俺だって、できればこのままの藤真とエロいことをしたい。
「ちょっと待っててくれ」
俺はダッシュで(ってほどの距離じゃないが)ダイニングテーブルの上に買ったもんを置いて、キッチンから濡らしたふきんを持ってくる。
「足上げて」
泥道を歩いてきたわけでもないから、拭いとけば靴脱がなくてもいいだろう。藤真は言われるままに足を持ち上げて、堂々とした態度で靴の裏を拭かれている。ふてぶてしい藤真ってのは、翔陽時代はそういうイメージのときもあったが、家ではあんまり見ない気がしてなんとなく面白い。
「……よし、もう大丈夫だ」
「ヨシ!」
藤真は一直線にダイニングテーブルに歩いていく。そういえばお菓子大好きな設定だったか。いや、腹が減ってるのか? 今まで気づいてなかったが、ホットパンツの尻の上から、鞭みたいにしなる黒い尻尾が伸びて、歩くのと一緒にふわふわ揺れてる。どういう仕組みになってんだろうな。しっぽの先っぽはハートが逆さまになったみたいな形をしてる。
藤真は椅子に座ると、買い物袋の中からオレンジのカボチャの顔がプリントされたパッケージを取り出した。外装がハロウィン仕様なだけで、中身は普通に売られてる個包装の菓子を詰め合わせたもののはずだ。
藤真は嬉々とした様子で、バリッと豪快にそれを開けた、というか破いた。パッケージが裂けて中の個装の菓子が多少散らばったが、まったく気にしない様子でひとつを開けて食べ始める。
「……」
藤真らしくなくて面食らってしまった。残った菓子をまとめておきにくいような開け方とか、普段の藤真なら嫌がって怒るんだが。なんだろうな、キャラづくりに目覚めたんだろうか。藤真の向かいの席に掛けて観察すると、なんだか動物みたいな印象で一生懸命にチョコを食ってる。
「うまいか?」
「うまい!」
ちょっとした違和感も、はじけるような笑顔を見たらどうでもよくなってしまった。
「そうか、よかった。好きなだけ食べるといい」
ものを食ってるときに無防備だってのは、人間でも動物でもなんでもそうだろうが、小悪魔も同じみたいだ。俺の上着を羽織ったままで、子供みたいに目を輝かせながらモグモグ口を動かしてる藤真はものすごくかわいい。
「……」
甘いにおいをさせながらお菓子を頬張る藤真をしばらく微笑ましい気分で眺めていたが──相手が子供や動物なら微笑ましいだけで終わるんだが、俺たちは付き合ってる。当然、発生してしまう欲求があった。
「俺も欲しいな」
「あ? 人間はお菓子をくれる係じゃねえのかよ」
人間、って言うのは、藤真だけコスプレをしてて俺が普段のままってのが気に食わないのかもしれない。そもそも藤真の行動が予定外だったせいなんだが。藤真は「しょうがねえなあ」とか言ってお菓子の個装のいくつかをこっちに寄越すが、俺は立ち上がって藤真の横に行く。
「……俺はお菓子よりイタズラがいいな」
顎を掴まえて上を向かせると、金色の瞳がまっすぐに見返してくる。野生的な猫みたいな印象と、でかい上着と唇の端に付いたチョコのあざとさがアンバランスで、だがこれこそが藤真の魅力だとも思える。放っておけない。もっと知りたい。少し懐かしい感覚に、
ごくりと大きく喉が鳴った。吸い寄せられるように、身を屈めて唇を食む。
「ん……!」
甘ったるい唇に吸いつきながら、柔らかな口の中を夢中で舐め回すと、体の底からムクムクと欲望が湧いてはっきりと形を作る。いつもはないキバの先が舌に触れて、少し不思議な感じもあったが、気を散らすほどじゃなかった。
もう一方の手で首筋と、エナメル越しの平らな胸から露出した腹を撫でる。柔らかな肌は想像と違って冷たくはなく、しっとりとして手のひらに吸いつくようだ。藤真の体全体が大きく波打ったかと思うと、結構な力で胸を押し返されて顔を離した。
「ンッ、ふふっ……しょうがねえなあ」
目を細めて唇を舐める仕草は小悪魔的ではあったが、ほんのり赤い頬ととろんとした目つきは酔っ払ってるときみたいにも見えた。
◇
藤真は積極的だった。ベッドの前で服を脱いでるときはせっつくように手伝おうとしてきたし、俺がベッドに乗るとごく当たり前みたいに腰の上に跨がってきた。小悪魔モードってことなんだろう。
「藤真……」
たまんなくて、なんとなくつぶやいたきり続きは出てこなかった。別に普段の藤真が特に消極的だってわけじゃないが、ここまでノリノリなのは割と珍しいと思う。
ブーツとホットパンツを穿いたままで脚を開いた格好で跨がってるんで、タイトなエナメルの間に白い太ももがむっちりと強調されて見えた。その股間の前にビンビンになって立ちはだかる俺の相棒に、手袋に包まれたままの細い指が触れた。
「っ…!」
「めちゃめちゃ発情してるじゃねえか、人間」
まるでそれを非難するみたいに唇の端を釣り上げて言って、雑な手つきで俺のちんぽを弄り回す。
(藤真、そういう感じもできるんだな……!)
いつもとは全然違う感じに、不覚というか意外というか、俺はめちゃくちゃ興奮していた。物好きな心理テストでSかMかって判断するようなのがあるが、俺はあれは間違ってると思う。なんでどっちかに決めないといけないんだ? 好きな相手とだったら、どっちだって愉しいじゃないか。
藤真は頭を垂れて、尖らせた舌の先から俺の先っぽめがけてねっとりとした唾液の雫を垂らすと、手袋のままでそれを扱いた。
「おぉっ……」
体温を感じない無機質な感触が絡みつくのにも、視覚的にも、なんか無性にみなぎってどんどん金玉がパンパンになっていくような気がした。
藤真は見せつけるように舌先で唇を舐めて、目を細めて笑う。
「それじゃあいただくか」
ゆっくりとホットパンツのジッパーを下ろすと、迷いのない手捌きでホットパンツと下着を一緒に脱いでいく。黒くしなやかな指先が下穿きを連れて、白い太ももから人形的な印象の脚を撫でるように通過してそれを脱ぎ捨てる。俺は綺麗なストリップでも見てるような気分で(実際見たことないんだが)その光景に見惚れていた。
姿勢を直してあらためてこっちに向いた藤真の、露わになった性器は半勃ちって感じでまだ下を向いてたが、それはそれでエロいと思う。なにより、腕と脚と乳首を隠してるのに下半身が丸出しってのが、そこが強調されて見えてものすごくエロい。実は小悪魔じゃなくて淫魔のコスプレなんじゃないだろうか。
藤真は股を開いて俺の腰の上にしゃがみ、すっかり待ちわびてわなないてる俺の息子にもう一度たっぷりヨダレを垂らすと、体の中心に──尻の穴に向かって導くように、先っぽを宛てがって擦りつけた。そうして細い腰をしならせ、ゆっくりと俺を呑み込んでいく。
「おぉっ…」
「っく、ふぅっン…♡」
藤真の白い肌の、ちょっとくすんだそこが黒くて太いちんぽを受け挿れていくところはいつ見ても最高だ。俺はそれをじっくりと、いやらしく見守る。しかし、いくら慣れてるったって、ツバつけただけで尻にちんぽが入るのか? コスチュームに着替える前から準備万端にしてたってことなんだろうか!?!?
その設定だけでオカズにできそうなくらい、考えるとものすごくエロいんだが、根もとまでずっぷりと咥えて身震いされると考えてもいられなくなる。
「っ、すっげ…♡」
目を細め、ニッとキバを剥いて笑い、自らの手で自分の性器を愛撫して喘ぐ。
「あぁ、んっ…」
藤真が感じてのけぞると、中もうねって、きゅうと締まって吸い付くみたいだった。ものすごくエロい感触で、ため息に思わず声が混じる。酔っ払ってんじゃないかって感じもするが、小悪魔キャラとして大胆になってるんだろうか。どっちにしろ望むところだ。
左手で性器を、右手で太ももの内側をまさぐってるその体の中心に深く打ち込むように、俺はぐっと腰を持ち上げる。
「ぅあッ♡」
「今日はずいぶん大胆なんだな」
あまり大きな動作じゃないが、内部を味わいながら、腰を回すように動かしてやる。
「んふっ、だって、チョコなんて食わすからっ♡ あぁッ♡」
よくわからんが、そういうキャラ設定なんだろう。俺は持ち上げてた腰を下ろし、また突き上げて、ベッドの反動を使って上下に揺さぶる。
「んぉっ、あっ♡ んんっ、あぁ〜ッ♡」
藤真もそれに合わせて腰を振る。ズボズボと尻穴にちんぽを出入りさせながら、辿々しく自らの性器を刺激してあられもなく喘ぎ、乱れる姿に俺はなんの疑問も抱かずにのめり込んだ。もっと藤真をよがらせようとすると、それがそのまま俺の快感になる。こんなに愉しいことがあるか?
「んくっ、あんっ、ぁあぅッ!」
藤真はのけぞって後ろに手をついて、ガクガク、ビクビクと細い腰を震わせてる。平らな胸から腹への曲線がきれいだ。掘られてるケツ穴は丸見えで、その上でぶるんぶるん揺れるちんぽが無性にかわいくて愛しい。顔とか性格とか、そんな話じゃないんだ。もう全部、全部が好きで止められない。
パンパンと体を打ち付ける音、それに合わせて囀るみたいな藤真の声の間隔が、徐々に早くなっていく。
俺は夢中で快感の沼地を泳ぎ突き進み、藤真の中に思いのたけを吐き出した。
「はっ、あんっ、出てるぅっ、あぁッ……♡♡♡」