「ほ〜らほら出ておいで〜」
「いい子だニャ〜かつぶしあげるニャ〜」
ラファエルとミカエルが石造りの建物の間の狭く薄汚い隙間にしゃがみ込み頭を寄せて甘い声で何やら言い合っている。
今は羽根こそ隠しているが、後ろ姿からして明らかに美男子のオーラが漂う二人である、それはとても奇妙な光景だった──彼らを知らない者が見るならば。
「まったく、猫派の者は猫を見付けるとすぐこうして我を失います」
ウリエルは表情を変えずに小さく溜め息を吐いた。基本的に真面目な天使である、こんなにも油断しきった状況でイエスからの呼び出しがあったら、と考えているのだ。
「ほんとだよ。『猫の媚びないところが好き』なんて言って自分が媚びちゃうんだからフシギ!」
ガブリエルもウリエルに賛同するが、つまらなそうに唇を尖らせた彼の真意はウリエルとは別のところにあった。
「おお、ガブリエルも犬派でしたか」
仲間内でなければわからない程度に嬉しそうな声色を無視して、ガブリエルは高らかに宣言した。
「とんでもない! 私は断然鳥派!」
「と、鳥?」
「インコとかオウムかい? それとも仕事柄伝書鳩?」
二人の会話に興味を引かれたらしいミカエルが割り込んで来た。
「そんな大衆的なものじゃなくって、もっとこう優美な。白鳥とか、白鷺とか……」
ガブリエルは胸の前に手を組んでうっとりと言った。
ミカエルはにやりと、とても嬉しそうに笑った。それは新しい玩具を見付けた子供の笑顔だ。
「そう。白くて、細長い感じの、優美な鳥が好きなんだね」
「な、なんですかそのニタニタ笑いは……」
明らかに悪巧み──といってもこれも子供の悪戯程度のものであろう──している様子の天使長に、少年めいた姿の智天使は鼻白む。
ミカエルは胸一杯に息を吸い込んで、ラファエルの背中に向けて叫んだ。
「……わ!!!」
「うひゃあっ!」
余程猫に熱中していたのだろう、普段の落ち着きとは裏腹に、ラファエルは声を裏返し髪を乱し飛び上がって驚いた。それでも一瞬にしていつもの微笑を取り戻すのが彼らしい。
「ああ驚いた。まったくもう、ミーちゃんが逃げちゃったじゃないですか」
「違うよあれはトムだってば。まあともかく、猫は逃げちゃったけど君の鳥は出て来たね? ガブリエル?」
「っ……!」
心底楽しそうなミカエルの視線の先にはラファエルが居た。その背には驚きのあまり白銀の大きな翼が現れてしまっているが、当人はそのことには気付いていないようだ。
そこへウリエルが空気を読まずに復唱する。
「ガブリエルが好きな鳥は、白鳥と白鷺と、白くて細長い感じの優美な──」
「うるさーいっ! ラファエルなにやってんの羽根出てるっ!」
「えっ? ああ、いけない、私としたことが」
「ウリエル、ナイスKY☆」
「? ……ガブリエルが断然鳥派だということもイエス様にお伝えしておいたほうが良いかもしれませんね」
何はともあれ案外上手くいっているらしい四大天使達である。