蜜月カルテ

【R18】高三のハロウィンで藤真女装エロ。1話:コスプレH、2話:交際一年の振り返り(きみを知った日前提)全2話。 [ 1話目:11,537文字/2019-10-26 ]

1.

「トリックオアトリート! トリックオアトリート!」
 インターホンに呼ばれてドアを開けるや否や、牧はバラバラと飴玉を投げ付けられていた。
「藤真……節分の豆と混ざってないか?」
「今年はどっちの方角向いてちんぽ咥えればいいんだ?」
「それは二月にやろうな」
「あっ! てか被ってんじゃん!!」
 藤真の右手と、視線の先の靴箱の上には、全く同じオレンジ色のカボチャがあった。上部が蓋になっているプラスチックの容器で、個装の飴やチョコが入っている。今しがた藤真が牧にぶつけたものはその中身だった。
「駅近くの雑貨屋だろう? 日持ちしないもんじゃないから別にいいんじゃないか」
(そりゃそうか)
 せめて自分の最寄駅の近くで何か探してくるべきだったか、そもそも何かしら用意しておく義理もなかったが──など思いながら、散らかったものを拾っている牧の脇をすり抜けて進むと、ダイニングテーブルの上にいかにも安っぽい黄色の袋が置いてある。
(牧ってセレブのくせにドンキ大好きなんだよな。いや、セレブだから逆にか?)
「そうそう、それだ。鏡があるほうがいいだろうから、ここで着替えてくれ」
 牧は壁沿いに設置してある大きな姿見を目で示した。例のごとく、藤真と付き合いだしてからこの部屋に増えたものの一つだ。
「俺はあっちで着替えて待ってる」
 牧が居室に入っていくのを見届け、テーブルの上に袋をひっくり返す。中から出てきたものは白いナース服とナースキャップのセット、白いストッキング、白のランジェリーだった。藤真は薄ら笑いを浮かべる。
(あいつ、看護婦さんとか好きなんだ?)
 以前にも天使がどうのと言われたことがあるので、清楚な系統が好みなのかもしれない。「ハロウィンのコスチュームプレイの衣装を一緒に買いに行こう」と朗らかに提案してきた牧に対して「興味ねーから一人で買いに行け、ただしあんまりひどい衣装なら着ない」と優しく返したが、女装は想定内だ。着てやってもいいだろう。
 衣装を選ぶとき、牧は迷ったろうか。それとも即決でナースだったのだろうか。多少気にならなくもない。
(でも男二人でエロコス買いに行くのはさすがにな。牧だけなら彼女に着せるのかって思うけど、二人だったら高確率でオレがナース着るんだってバレるし)
 ともあれ着替えだ。潔く全裸になると、まず白いショーツを手にする。面積の少ない布地にレースのフリルがあしらわれており、サイドを紐で結ぶデザインだ。
(まー正直紐パンの紐はほどいてみたいよな。自分がほどかれるほうとは思わなかったけど)
 裸も何も見せておいて今更恥じらうこともないだろうと穿いてみると、想像はできたものの、やはり布地に全く余裕がない。
(これ毛深いやつ毛がはみ出るだろっ!)
 なんとか全部収めただけ上出来だと思う。続いてブラジャーだ。
(いやブラ必要ねーだろ。……うん、必要ないな)
 よくよく見てみると、カップの中央部分にスリットが入っていて乳首が露出するデザインだったので、頭の中で盛大に牧を罵倒しながら却下した。
 次にストッキングのパッケージを手にし、写真を凝視する。
 下半身全体を覆うパンティストッキングとは異なり、股間から内腿と、両の太腿の外側は素肌が現れるようになっている。ガーターベルトのような形状で、サスペンダーストッキングという記載がある。
(エッロ! あいつ欲望に素直すぎるだろ!)
 そして藤真もまた素直にそれを穿き、鏡を見て、サスペンダー部分が綺麗に脚のセンターにくるようにしっかり調整する。求められればそれなりの結果を出したくなる性分なのだった。
(こんなの、イジるためと挿れるためのストッキングじゃんか)
 不覚にも興奮しそうになって、ぶんぶんと首を横に振る。早く服を着よう。
 ナース服は作業衣とするには心許ない生地でできていて、体の正面でジッパーで開閉するようになっている。藤真の記憶にあるものとは違ったが、所詮コスチュームプレイ用なので雰囲気が大体合っていればいいのだろう。丈長めとあるが、藤真が着ると結構なミニ丈だ。
(アクセス良好、てか。こだわりがエロ部分に偏りすぎてんな……)
 こんなものでもきっと牧は喜び張り切るに違いないと考えると、呆れながらも楽しくなってしまう。ウィッグはないのか、メイクはしなくていいのか、と思ってしまった自分が少し嫌だったが、仕上げにナースキャップをピンでしっかり固定する。ひととおり身に着けると姿見の前で腰に手を当て仁王立ちになり、自らの姿に頷いた。
(やっべ、オレ普通に似合うじゃん。知ってた)
 安っぽいと思ったものの、着てしまえば案外悪くないように見える。やはりナースキャップが愛らしく見える所以かもしれない。
 牧の扮装を薄々想像しつつ、居室のドアをノックする。
「牧? 着替え終わった?」
「ああ。いつでもきてくれ」
 ドアを開けると、スーツの上に白衣を羽織り、眼鏡を掛けた牧がベッドに腰掛けていた。髪は久々のオールバックだ。
(そっちだったか)
 自分がナースなら牧には医者か患者の二択しかないとは思っていた。
 牧は驚きと喜びの入り交じった表情で目を瞠る。
「藤真……! やっぱり似合うな、すごくいい! さあ、もっとこっちにきてくれ」
 両手を広げて迎える動作をすると、愛らしいナースがスカートの裾を気にしながらしずしずと歩いてくる。眺めているだけで股間が熱くなった。
 膝の間にまで近づいて自分の正面に姿勢良く立つ藤真を、頭の天辺から足の爪先まで、舐めるように見つめる。品よく整った面立ちに、清楚なイメージのナース衣装はとてもよく似合っている。更に、その白衣の下に大胆なものを隠しているのだ。自分の見立てを褒めてやりたいと思う。
「うーん、これは間違いなくうちのナンバーワンナース」
 牧の一方の膝の上に座ってしまいそうになって、藤真は慌てて体を退いた。
「あっぶね、流れでお膝に座りそうになった」
「いいじゃないか。ほら、先生のお膝に座りなさい」
 藤真の口にしたその単語が気に入ってしまい、牧は口元を緩めてパンパンと自分の腿を叩いた。
「うさんくせえ〜〜」
 藤真は眉を顰めながら口元には薄笑いを浮かべて、牧に対し体を横向きにして膝の上に座る。即座に逞しい腕が背後に回って腰を支えた。スカートが少し持ち上がって露わになった、白いストッキングに包まれた太腿に、牧は眩しげに目を細め、小さな膝頭の上にもう一方の手のひらを置く。
「ああ……いいな、小鳥が止まり木に止まってるみたいだ」
「???」
 藤真には理解に苦しむ例えだったが、牧が「いいな」「うーんいい」「いい……」と連呼しながら夢中になっているさまは気分のよいものだった。いろいろなものを投げ捨てて着てやった甲斐もあるというものだ。
 改めて牧を見つめると、藤真は奇妙な気持ちで目を瞬いた。
(あれ? なんか……)
 授業中眼鏡を掛けていると聞いたことはあったし、実際に目にしたのも初めてではないが、珍しい姿ではある。以前は上げた前髪にボリュームを出していたが、今は長さが足りないのか、素直に後ろに撫で付けるだけにしている。大差ないようでも印象は随分と違って落ち着いて見えた。そこにスーツと白衣が加わるといつも以上に年長に見え──藤真はその姿にいつになく落ち着かない気分になっていた。
(オレって実は老け専なのか? だから牧にハマったのか!?)
 自分の顔をじっと見つめている藤真に、牧は察したように苦笑する。
「三十七歳くらいに見えるとか思ってるんだろう」
「うんまあ、そうだけど……」
(でもそれがイイ、って言ったらめちゃくちゃ調子に乗るだろうなあ)
 好みとは別として、初めに抱いた印象も潰えてはいない。精悍な顔立ちに、穏やかな表情に、清潔な印象の髪型と眼鏡と白衣。それぞれは決して悪くないと思うのに、合わせてしまうとやはりどうにも胡散臭いのだ。
「お前、病院中のナースとやってそう」
「な、なんだと……?」
 そんな役作りはなかったので、思わず狼狽えて情けない声が出てしまった。
「どうせこうやって、誰も彼も膝に乗せてエロいことするんだろ?」
 藤真の視線の先では、すでに男の欲望がスラックス越しにその存在を主張している。牧は渋い顔をした。
「こんなのお前にしかしないぞ」
「そうかな。きっと院長の息子とかで、権力者でさ?」
「うさんくさいって、そういうことか? 俺は悪者に見えるのか?」
 藤真は訝しげな表情を作り、牧を上目で覗き込み、白い膝の上に置かれたままの色黒の手を見た。彼が温和で善良で──肉食の人間であることはよく承知している。
「悪者かどうかっていうと、やらせてるナースの側もイイと思ってるやつのほうが多そう」
「なんだそれは……爛れた病院だな……」
「病院モノってだいたい爛れてんじゃん?」
 当然のように言い放った藤真に、牧もまた疑いないような口調で言う。
「よくわからんが、とりあえずお前と出会って俺は真実の愛に目覚めるんだろう?」
「オレは『どうせ他のナースと同じでヤリ捨てされるだけなんだろうな』って思ってるよ」
「そこを俺が、ちゃんと本気なんだってことをお前のカラダにわからせていくストーリーだな!」
(結局ストーリーないやつだよねそれ)
 牧は藤真の膝に置いていた手を、太腿に向かってじわじわと、味わうように、ゆっくりと動かし撫で上げていった。ストッキング越しの肉の感触に新鮮な興奮を煽られる。
「ん……てか、お前が患者でオレが診察するプレイなのかと思ってた」
「それも捨て難かったが。いや、ドクターだって調子が悪けりゃナースに診察してもらうこともあるだろう」
 牧はニッと笑い、藤真は軽く溜め息をつく。
「調子悪いんですかぁ? どこ? 頭?」
「口の中」
「それは歯医者行けよ」
「そう言わずに診てくれ。あと乱暴な言葉遣いをするんじゃない。ほら」
 半開きの唇からべろりと厚い舌が覗く。藤真は牧の肩に手を置き、ちろちろと舌先だけでそれに触れる。味見でもするような愛らしい動作だった。じき、牧のほうから藤真の唇全体を食むように深くくちづける。
「んむっ…んんっ…!」
 音を立てて強く吸われ、舌を絡め取られて口腔内を蹂躙される。貪られる感覚に全身の血が沸き立ち、ぐらりと目眩がした。
 腰に回っていた手が小振りな尻を撫でて鷲掴む。もう一方の手はスカートの中に入り込んで、ストッキングに覆われていない内腿の柔らかな肌を味わっていた。
 ざわざわと、少しずつ確実に引き出されていく欲求に抗うように、藤真は強引に顔を背けて深いキスから逃れる。
「ぷはっ……! 熱がありますねー!?」
 褐色の頬に白い指先がぴたぴた触れる。少し熱いと感じる体温は、いつも通りではあった。
「ああ、そうなんだ。体が熱くて、モヤモヤして、あと股間がイライラする」
 意味ありげな視線を追って牧の股ぐらに目を落とす。とうに気づいていたことだ。
「……腫れてますね」
「だろう? 診てみてくれ」
 牧の膝から下り、股間に正面から向き合うように床に膝をつく。前を寛げると、すっかりいきり立った男根の姿が下着越しにもはっきりと確認できた。ナースはいかにも恥ずかしそうに目を逸らして医師を見上げる。
「先生、これ、どうすればいいんです?」
 藤真の上目遣いは非常に愛らしい。極端に背の高い者は常時この状態なのかと気づいたときには強い衝撃を受けたものだった。そこにナースキャップが加わると、愛らしさは更に苛烈だ。
「撫でてみてくれ。そうしたら落ち着くかも」
 言われた通り、下着越しにもしっかりとその形を確認し、感触を与えるように撫でさする。
「ナデ、ナデ……なんだか湿ってきたような」
「あぁ、動悸がしてきた……重病かもしれない、直接見てくれ」
 牧はいかにも楽しげで、藤真は密かに溜め息をつく。
(よく思いつく……まあ、付き合ってやるかな)
 下着を下ろすと、待ちわびていたように元気よく、勃起した男根が頭を覗かせた。
「たいへん! ビキビキに腫れ上がって、先っぽから汁を出してます!」
「膿が溜まってるのかもしれない。吸い出してくれ」
 更に下着をずり下げ、手のひらで重そうな陰嚢を持ち上げてゆるゆると弄ぶ。
「ああ、それで金玉パンパンなんですね!?」
「ナースは金玉とか言わない」
 先走りに湿った先端に、桜色の綺麗な唇が寄り添う。ちゅっちゅと可愛らしい音を立てて吸い付く、小さな刺激と背徳的な光景が堪らない。
「先っぽ、口に入れてみようか……」
 医者のイメージか、少し特殊なプレイをしている意識のせいか、なんとなく大胆なことを言っても許されるような気がしていた。藤真は従順に亀頭部を口に含んで舌の腹で撫でる。
「ああ……いいぞ……」
 暖かく包み込む感触に、しかし欲求は鎮まるどころか更に貪欲に、凶暴になる。
「もっと奥まで咥えて、鎮めてくれ……」
「ん、ぐ…っ」
 大きく口を開け、硬く膨張した男性器を息が詰まるほど押し込みながら、藤真は満足げに目を細めた。牧に求められるのは嬉しい。だからそれをごくシンプルに伝えてくる、彼の弱点でもあるこの器官が好きだ。翻弄したい。日ごろは泰然とした様子の牧が息を乱し、声を漏らし、微かに腰が揺れてくるさまなど堪らないものだ。
 口唇の動作に合わせて一方の手で根元を扱き上げ、もう一方でやわやわと陰嚢を愛撫しながら、藤真は暫し口淫に耽った。
「ああ……藤真、出る……」
「ウン…」
 口にしたものを離さないまま返事をして、ひとまずのフィニッシュに向けて追い上げていく。
「藤真、あぁ……ッ!」
 蠕動と共に、口内に欲望のエキスが弾ける。痺れる舌で、喉奥で、濃密な迸りを受け止め、丁寧に飲み下す。青臭いにおいが鼻を抜けた。
「はぁっ……! くらくらする……」
 頬を染め、目を潤ませ、溺れるように喘いだ藤真の唇から、白濁がねっとりと糸を引き、たわんで切れる。その景色に早くも次の衝動を感じながら、白々しい言葉が口をつく。
「大丈夫か?」
「先生のが伝染《うつ》ったかも……」
 牧は藤真の姿をまじまじと見つめ、口元にいやらしい笑みを隠した。
「ふむ、診察しよう。場所を変えようか」
「ば、場所?」
 手を引かれ、少し前に着替えをしていた姿見の前に移動する。
「ほら藤真、見てみろ」
「う……」
 興奮している自覚はあったが、生地が薄手なせいだろう、想像以上にありありと体の細部が浮き出してしまっている。着衣は乱れていないのに、非常に卑猥に見えた。鏡の中の、至極愉しそうな牧と目が合ってしまい、慌てて逸らす。
「こんなに乳首立てて、きっと患者とかもみんな気づいてたぞ。ブラ着けないからこうなるんだ」
 牧は眼鏡の奥で目を細め、布越しにもしっかりと存在をアピールしている二つの突起を指でくるくるなぞった。
「あんな頭おかしいブラつけるかよっ! んっ、ぁんっ♡」
 ナース服の襟元のジッパーを下ろして胸を露わにすると、白い肌を飾る薄紅の突起がいやでも目についた。いかにも触れてほしそうに上を向いたそれを捉まえ、手指でしきりに虐め、あるいは平らな胸を揉みしだく。
「はっ、あんっ…んぅうっ…」
 熱い手のひらに、太い節をした指の間に、乳首が擦れるたびに声が出てしまう。
「乳首は敏感、と」
「お前がやたら触るからッ…ぁんっ!」
 捻り上げると仰け反って大きく震えた、望むままの反応に気を良くして、牧は気が済むまでそこを弄んだ。そうするうちに乳首は充血し、乳輪はふっくらと腫れて、まるで女のようだった。
 鏡越しの視線はやがて下降して、藤真の腰に──体の中心に釘付けになる。
 女にはあり得ない膨らみが、不自然にスカートを隆起させていた。
「なんか隠してるな?」
「っ…!」
 褐色の手が白いスカートの裾の両端を掴み、勿体つけるようにゆっくりたくし上げていくと、太腿の内側と外側とに部分的に素肌を露出させた、ガーターベルトのような形状が現れる。牧は荒らぐ呼吸を落ち着けるように、細く長く息を吐いた。
「……このサスペンダーストッキングってやつ、素晴らしいな」
 自分で選んだものながら、ここまでそそられるとは思っていなかった。今回の買い物は本当に冴えていたと思う。藤真は呆れながら言った。
「お前、よくこんなの見つけたよな」
「ああ、ドンキはなんでもあるからな」
 更に少しだけスカートを持ち上げると、白いショーツのレースに包まれた、いかにも柔らかそうな膨らみが現れる。
「よし、一気にいくぞ」
 腰の上までスカートをたくし上げられると、藤真は咄嗟に鏡から目を背けていた。そこがどんな無様なことになっているかなど、自分が一番よくわかっているのだ。
「藤真……。ものすごくやらしいことになってるぞ」
 勃起した陰茎がショーツの腰ゴムを押し下げ、すっかりその上に露出してしまっていて、ショーツは陰嚢を収めて隠す役割しか果たしていなかった。
「これじゃあパンツじゃなくてかわいい玉カバーじゃないか」
「しょーがねーだろっ、女モノなんだからっ!」
 声を荒げながらも興奮しているようで、性器の先端にじわりと露の玉ができている。指で竿をつつくと、ねっとりと糸を引いて落ちた。
「あっ……」
「重症だな、早くなんとかしないと。ほら藤真、持て」
 藤真はスカートの裾を持たされ、自ら痴態を晒す格好になった。羞恥心が失せたわけではない。コスチュームプレイに乗ってやると決めたのだから今更拒絶などできないという、意地のようなものだった。
「ああ、やらしいな、本当にやらしい……」
 牧は手の上にローションを垂らすと、藤真の内腿と股にたっぷりと塗り付けた。
「な、なにっ?」
 背後から腰を摺り寄せられたかと思うと、脚の間、ショーツに包まれた陰嚢の下から色黒の男根がにょきりと顔を覗かせた。
「はっ!?」
「脚閉じろ」
 言われるまま脚を閉じて牧の昂りを挟むと、牧は腰を前後させ、藤真の太腿で自らの性器を扱きだした。
「なっ…! ヘンタイッ…!」
 視覚的ないやらしさも強烈なものだが、内腿も陰嚢も敏感な場所だ。そこをぬるぬると擦られる感触は、想像以上に快感として作用していた。
「ふぁっ、あぁっ…あんっ…」
 ナースの格好をして自らスカートをたくし上げ、女性ものの下着から性器を露出させながら、サスペンダーストッキングの股の間で男根を扱かれている。あまりにひどい光景だ。しかしその異様さに興奮しているのもまた事実だった。
(くそっ、こんなので……!)
 ローションが肌を伝う感触はそれだけで淫猥で官能を煽る。牧の下腹部に尻を叩かれ、太腿と、薄布越しの陰嚢を熱いもので何度も擦られる擬似的な行為に焦らされて、早く穿ってほしいと、まだ閉ざされた秘所が浅ましく収縮する。それだけでも充分に感じていたのに、すっかり敏感にされた乳首まで弄られるといよいよ耐えられなかった。
「ひゃんっ! あぁっ、や、んぅぅっ…!」
 指の腹で、爪の先で、巧みに執拗に乳首を攻められながら腰を打ち付けられるうち、本番と変わらない気分になって、体の内奥に快楽の波が起こるようだった。
「ぁうっ、んんっ、ぅ、ああぁっ…」
「やっぱり今日乳首すごいな」
 藤真はしきりに体を震わせ、目をとろんとさせて、ときおり唇を噛みながら身悶えている。陰茎は硬さを失い、だらりと下を向いてとろとろとよだれを垂らしていた。牧は極まったように深く息を吐き、耳元に告げる。
「藤真、いくぞ」
 一方の腕は崩れ落ちてしまいそうな腰を支えるように抱き、もう一方はしきりに乳首を愛撫しながら、牧は自らの快楽を追って腰を使った。自然、乳首に触れる指の動きもせわしなくなる。
「ぅあっ、あんっ、あ、ぁ、あぁぁっ…!」
「ッ…!!」
 濡れた粘膜を擦る音、体を打ち付ける音と、止めどない愛撫の果てに、牧の精液で股ぐらをねっとりと濡らしながら、藤真もまた小さく体を震わせていた。
 しかし全く物足りない。立ち込める雄のにおいがなけなしの理性を溶かす。
「センセ、オレ、そんなんじゃ……」
 腕にしがみついてきた藤真の体を支えながら、ゆっくりとその場に二人で腰を下ろした。
「困ったな、どうすればいいんだ?」
「お注射して、ナカにお薬飲ませて……」
「ああ、そうしよう」
 もはや焦らす余裕はなかった。ショーツの紐をほどいて取り去り、藤真に鏡のほうを向かせ、背面座位の形で自らの腰の上を跨がせる。萎えることを忘れたように、牧の男根は未だその堂々とした姿を保っていた。藤真はすっかり大胆になっているようで、牧の腰に自ら陰部を摺り寄せる。
 早く藤真と繋がりたい。自分のもので目一杯喘がせてやりたい。そのまま突っ込んでしまいたい衝動を抑え、藤真の窄まりに使い切りの潤滑剤のチューブを差し込んだ。
「あっ…んぅ……」
 冷たい粘液で体の隙間を満たされていくと、期待に心臓が震えて腹の底が疼いた。節くれ立った指が入り込み、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて中を潤していく。
「っ、んっ……センセ、早く……」
「ああ……」
 声は甘く、火照った体は強請るように指を締め付ける。何の作用かはわからないが、そこはいつもより弛緩していて、挿入できるよう慣らすのにさほどは掛からなかった。期待に震える秘部に昂りをあてがい、一方の太腿を背後から抱え上げて体を沈めさせる。
「っ、あああぁっ……!」
 熱く猛る男根に体を開かれ、重力によって深く穿たれながら、藤真は苦しげに、しかし嬉しそうに喘ぐ。
「辛いか?」
「熱い…くて、きもちいい……」
「ああ、俺もだ……すごいな、こんなに拡がって、根っこまで咥えて」
 牧は鏡越しに藤真を見つめながら耳元に囁き、さも愛しげに結合部を指でなぞった。鏡の中では大きく胸元をはだいてスカートも腰まで捲れ上がったナースが、曝け出された白い肌の中心に、褐色の男根をしっかりと咥え込んでいる。下半身の露出が部分的でしかないことが、視覚的ないやらしさを際立たせていた。犯される自分の姿を見るとやはり興奮するようで、きゅうと中が締まり、肉壁がみっちりと吸い付いてくる。
「藤真、動けるか?」
「ぅ、ん…っ」
 ゆっくりと腰を持ち上げると、白い膚《はだ》との間にピンク色の粘膜を僅かにめくり上げながら、筋を浮き立たせた逞しい男根が姿を現していく。
(オレ、こんなの挿入《はい》って……)
 感触と視覚とで同時にそれを認めると、頭がおかしくなりそうなくらい興奮して、思わず体が震えた。全て抜けてしまわないうちに体を沈め、それを再び呑み込んでいく。
「あはっ…あぁっあっ…」
 体勢のせいであまり激しくは動けない、辿々しい感触と刺激的な光景とを愉しみながら、しばし膝の上で体を揺らしていた。

 やがてナースキャップとストッキングのみの姿にされた藤真は、床に四つん這いの体勢で背後から穿たれていた。
「やっ、あんっ…あぁっ、おくっ…!」
「奥、好きか?」
 鏡は相変わらず目の前にあって、顔を上げれば背後の牧と目が合った。上辺だけは落ち着いた佇まいの、眼鏡の奥の獰猛な瞳に、背筋がぞくぞくする。
「すきっ…! ぁんっ、あぁぁっ…!」
 なんて愛らしいのだろう。まるで自分が告白された気分になって、牧は夢中で腰を振って藤真の最奥を突いた。囀るような、歓喜の声が耳に心地よい。
「こっちも好きだろう?」
 尖った乳首を摘み上げるとひときわ体が跳ねた。
「ひゃんっ! そこっ、ぁめ…」
「なに?」
 愛らしい唇が何かを伝えようとするが、牧はそれより先に体を前に倒し、小さな顎を掴まえ、噛み付くようにキスをした。理由などない。ただの衝動だった。
「んぅ、んんっ…」
 小さな水音を立てながら気が済むまで唇を吸うと、離したときには紅を引いたように赤く色づいていた。動作を再開すると、ほどなくして藤真が甘い声を上げる。
「あ、んっ、せんせ…」
「それ、やめよう」
「…?」
「牧って呼んでくれ」
 藤真は目を細めただけだったが、了承して微笑したのだと牧には理解できた。
「まき」
「そうだ、藤真……」
 満足げな優しい視線と、甘えるような視線とが鏡の中で絡み合う。
 上体を前に倒し、今度は穏やかなキスをした。それから意味のある言葉はほとんど失せて、体を打ち付ける音と嬌声ばかりになる。
「あんっ、まき、あぁっ…あぁぁっ…!」
 藤真がいつもより大胆に声を上げるように、牧もいつもより余裕がない自覚があった。抽送を繰り返し恋人の中を味わいながら、感じやすくなっている様子の乳首を捏ね回す。
「ふぁ、あんっ! ひぁああぁあっ…!!」
 激しく突かれながら精液を注がれる感触と実感とに、藤真もまた絶頂していた。強烈な快楽の波に耐えるように、頭を床につけ、背を弓形にして、足の指をぎゅうと握って体を大きく震わせる。射精はない。ドライオーガズムだった。

「まき、まきっ…! あっあぁあぁっ…!!」
 ベッドの上で目一杯背を反らせ、充血した乳首を突き出しながら、快楽に染まった白い体が何度も痙攣する。牧は応え受け止めるようにその身を強く掻き抱き、淫らなうねりに搾り取られるように、もう何度目かになる精を吐き出した。
「あんっ、あぁ…ぁ……」
 魚のように苦しげに呼吸し、絶頂の余韻を引き摺るかのようにぴくん、ぴくんと体を脈打たせながら、その瞳は恍惚に細められている。
 すっかり空っぽになったままの頭で小さな唇を塞ぐと、力の抜けた体が腕の中でもぞもぞ蠢き、気怠げな声がした。
「んっ、も、むり……」
「ああ、俺もさすがに」
 すっかり馴染んでしまったかのような粘膜を引き抜くと、秘部はぽっかりと口を開き肉の色を覗かせたままで、しこたま注がれた白濁をどろりと零した。
「たっぷり搾り取られた」
「ゆっくりじっくりやったの久々だからなー……ふはっ!」
 視界の外で、シュッシュッシュッ! と勢いよく連続でティッシュペーパーを引き抜く音が聞こえ、それが妙に可笑しく感じられて、思わず笑ってしまった。
「どうした?」
「いやなんか、ティッシュの抜き方が力強くてツボった」
 ティッシュの束を受け取って、体を伝うものを拭いながら、のんびりとした口調で呟く。
「……よくわからんが、とりあえず機嫌がいいんだな」
 丸めたティッシュをゴミ箱に捨てるときも「えいっえいっ!」などと言って楽しげに投げ付けていた。事後すぐのタイミングにしては珍しいことだ。
「てか、ドライでいくと賢者タイムになんないからな。気づいてたか知らないけど」
 牧は仰向けに寝ている藤真に擦り寄り、体を抱えるように腕を回した。
「じゃあ、いつもそのほうがいいのか?」
「いつもイケるわけじゃないし、どっちでもいいかな……とりあえずやたら乳首弄られるとなりやすいかも」
「コスプレのせいとかは?」
「どうだろ」
 あまり無知なのもどうかとその手の雑誌で多少は勉強したが、そう詳しいことは知らない。ドライオーガズムは女性的な快楽というくらいだから、女装の影響も無くはないかもしれないが、一応意地もあって濁した。
(牧の老けコスのせいはあるかも)
「藤真、あれだな……さらっと言ってるが、気持ちいい手段がいろいろあるって、めちゃくちゃエロい体だな」
 こんなに綺麗なのにこんなにエロいなんて、誰にも知られないようにしないと、と牧は一人決意を固くする。
「お前のせいだろっ!」
 牧と付き合ってからのことだ。体の至るところが敏感になって、明確な性感帯が増え、射精のような終わりのない、強烈な快感も知った。もう女相手では満たされないと思う。
「そうか、俺のせいか……!」
 牧は心底喜ばしい気分でにこやかに頷く。牧の内心など知らない藤真は怪訝な顔をした。
「安心しろ、責任は取る」
「なんだよ責任って」
「お前を欲求不満にはさせない。いつだって必要以上に満足させてやる」
「いや、必要な分だけにしようぜ?」
 妙な言い回しは言い間違いなのか、本気でそう思っているのか、判断に苦しむものだった。ただとても満足げで──幸せそうな顔をしていると感じてしまうと、それ以上何を言う気もしなくなって、行為の興奮とはまた違った感触で体の内側を穿たれる気がした。
(気持ちいいから好きになったんじゃなくて、好きだから気持ちよくなったんだよな、多分……)
 少なくとも今はそう思える。どちらにしろ、求める先に違いはないのだが。
「単純だよなぁ」
「いいじゃないか、わかりやすいほうが」
 何のこととも聞かずに話を合わせてくる牧に、本当に単純だ、と改めて思う。
「そうだね。わかりやすいやつってからかい甲斐あって好き」
 好きならいい、などと思っているのだろう。牧の顔が近づいてきたから、藤真も目を閉じて、少しだけ上に顔を傾けた。

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