恋人カレはミス翔陽

3.

 耳触りのよいジャズの流れる、落ち着いた雰囲気の店内。常連客たちの中、カウンター席に座る牧は、琥珀色の液体の入ったグラスを傾け涼しげな音を鳴らすと、厚い唇を重々しく開いた。
「ずっと好きだったひとと、ついにやってしまった……」
「ウワァオ! おめでとう!!」
「よかったじゃん! お赤飯炊く?」
「赤飯じゃなくない? カルピス? ぎゃはは!」
「お下品〜〜!」
「いまさら〜〜!」
「ママ、カルピスサワー全員分!」
「はいよ。紳一はカルピスソーダね」
 品はないものの、彼を祝福しようといっせいに賑わう周囲とは対照的に、その中心にいる牧の表情は暗い。
「……の割に、嬉しそうじゃないわね。うまくできなかったとか?」
「告白はしてないんです」
「ええっ! ちょっとなにそれアンタ、無理矢理やったの!?」
「それはダメよぉ、強気で押してけとは言ったことあるけど、そういう意味じゃないのよ?」
「無理矢理ではないんです。やるのに合意はしてて。要はあいつは誰でもよかったって状態で……」
 隣席の常連客が、整った眉を思いきり顰める。
「誰でもよかったって? 自暴自棄になってたってこと?」
「本命くんとケンカしちゃったとか?」
「いいじゃんいいじゃん、そのまま奪っちゃえ」
「本命かと思ってたやつは消えました。それはよかったんですけど」
「じゃあもう、いっぱい愛して満足させて告るだけじゃない。その子の事情は知らないけどさ、それでダメならしゃーないってことよ」
「だいたい、紳ちゃんとやっといて〝誰でもいい〟はないわよ。汚ったねえおっさんとやってりゃ信じるけど」
「つまりは脈アリってこと! ほら辛気くさいカオしない!」
「飲みもの揃ったわね。みんなグラスを持て!! ……コホン、えー、それでは、紳一くんの青くディープな海への船出を祝って、乾杯!」
「カンパ〜イ!!」
「ようこそ〝こちら側〟へ〜♡」
「ヒュ〜!!」
 カルピスソーダをあおり、盛り上がる一同に対して愛想笑いを浮かべたものの、牧の内心は晴れなかった。本当は誰でもよくはなかったかもしれない。自分はあの時点では確かに藤真に許容されていた。その視点を得られたのはよかったと思う。しかし
(〝そちら側〟に、いけたとは言い切れないんだよな、これが……)
 詳しく語ることのできなかった藤真の事情というものが大きな問題だった。彼は女の体を得たからこそ男とのセックスを試みただけで、同性愛者ではないはずだ。ただの行為の相手としては認められても、男同士としての恋愛感情を告げれば拒絶されるかもしれない。キャンディがどれだけあるのかは聞いていないが、女の彼と会える時間は限られているはずだ。その間に、ふたりの関係を進展させることが果たしてできるのだろうか。

 衝撃的な体験だった。「気持ちよかった」で片づけるには軽すぎる、苦悶や悶絶や圧倒といった言葉が想起される状況の中で、それでも確かに体の内側から見出した悦楽。まだぼんやりとしたそれを、もっとはっきりと、明確に味わいたい。理解を深めてさらなる高みに昇りたい。性的なことに限った話ではなく、勉強でもスポーツでも同様で「わかっているからおもしろい」「うまくできるようになりたい」という、藤真の中に自然と存在する欲求だった。
(むむっ)
 部屋着のスウェットの股ぐらに発生した隆起に、藤真は怪訝な目を向ける。回想する行為の中での自分は女だが、それに対して今示す反応は男のものであることが、なんとも奇妙に感じられた。
(まあ、これしかないから当たり前なんだけど)
 ズボンと下着を下ろし、自らの性器をあらわにする。よく見慣れた、十八年間苦楽をともにした相棒だ。陰毛の様子は女のときとあまり変わらないかもしれない。根もとを辿るよう、指を下降させていく。
(やっぱりクリのとこから生えてるよな)
 しかしその下には割れ目も穴もなく、柔らかな陰嚢がぶら下がっている。
(不思議だな〜。中出しされた精子はどこいったんだろうな)
 無論、行為のあとは風呂場を借りてよく体を洗ったが、牧の性器と精液は指やシャワーでは洗い流せないところまで到達していたはずだ。
 精悍な印象の褐色の肌に、広く厚い胸、無駄な肉のない引き締まった腹筋。その下に〝そびえる〟という表現があまりにも似合う男根。おぼろげながらに思いだすと、体の内奥、腹の底がもやもやとして、落ち着かない気分になり、行為の快感までも蘇るようだ。欲求にあらがわず、藤真は緩慢に性器を愛撫しはじめた。それだけでは違うと感じ、牧の手を、彼の行動を思い返しながらシャツの下から手を突っ込み、腹や胸を撫でていく。
「はっ…」
 女のときよりずいぶんと小さく感じる乳首を摘むと、微かに痺れるような快感があった。自慰行為で自らの胸に触れたことは初めてで、ささやかな罪悪感に苛まれるのと同時に、興奮も自覚していた。
「っんッ…」
 この股ぐらに顔を埋めた牧を思いだしながら、唾液を垂らしてぬめりを増した性器を、小刻みに手指を動かしながら扱いていく。
 自分の感じるところは自分がいちばんよくわかっている。ポイント、強さ、早さ。ストレスなくそこに辿りつくことのできる、最短距離を知っている。
「ッッ……!!」
 白いスパークのイメージとともに、頭の天辺まで突き抜けるような快感が奔り、そして開放感とともに、体全体が至福に包まれる。そんな状態でも手は反射的にティッシュ箱からティッシュをむしり取り、精液をこぼさず受け止めていた。
「ふー……」
 意識が徐々に覚めていくと、ひどく味気なく、もの足りないように感じてしまった。これは一人で延々と繰り返すシュート練習に似ているのかもしれない。成功の繰り返しには達成感はあるものの、それだけだ。変化がない。つまり新鮮な喜びは生まれない。完全に思いどおりにならなくとも、相手がいるほうが自分には好いと感じる。
 そしていっそう落ち着くと、急激に自己嫌悪に陥ってしまった。
(オレ、牧で抜いたってやつ……?)
 情けない気分で落ち込みながら、ティッシュで性器や手指を拭い、なにごともなかったかのようにズボンを上げて頭を横に振る。
(いやいや、違うだろ。ああ、なんか違うよな)
 牧との実際の行為、そのときの快楽を思いだして興奮することは、セクシーな女優のグラビアに欲情し興奮することとは少し違うと思う。そういうことにした。牧の裸に欲情したつもりなどないのだ。あんな逞しく、無駄のない肉体──
(恵まれすぎてるよな。なんなんだよあいつ)
 自らが恵まれていないとは思わないが、牧とは方向性が違うというか、正直なところ、彼をうらめしく、羨ましく思う要素はいくつもあった。
(ちんぽまででかいとは……)
 男性器は大きいほうがいい、小さいと格好が悪いという価値観は誰に教えられるともなく藤真が持っているものだった。少なくとも、自分の仲間うちの男は皆そういった感覚ではないかと思う。
(あんまりちゃんと見えなかったから、今度ちゃんと見せてもらお)
 これは男としての興味なのか、それとも女としての性欲が残っているのだろうか。
(でも、女は男が思ってるほどちんぽのこと好きじゃないって聞いたこともあるんだよな)
 海南との試合の機会がもうないのは、ある意味よかったのかもしれない。肉体の性別が変わり、また戻っても自我や記憶は確かにそのままで、そして今しがたの行為だ。男の姿で面と向かって牧と対峙したとき、果たして平常心で、不健全なことを考えずにいられるのか、そら恐ろしかった。

「まーきっ♪ やりたかった♡」
 待ち合わせの駅前で背後からぎゅうと抱きつかれた、瞬間に相手が誰かはわかっていた。肩が跳ねるのと同時に、男性器まで上を向いてしまいそうな危うい心地で振り返る。
「藤真! ……大胆だな」
 つい先週にも会った、ウィッグをつけて女子高生風の服装をした、女体化状態の藤真だ。前回は突き放した様子だったので、心変わりに戸惑うが、悪くはない。むしろ嬉しいことだ。できれば、やりたかったではなく会いたかったと言ってほしかったなと思う。
「いいじゃん男と女なんだから、ちゃんとカップルに見えるはずだぜ」
 意味深にこちらを見上げる、上目遣いの微笑の求心力に、そのまま引き寄せられてキスをしたくなったが、嫌がられるとショックなのでこらえた。
 そして牧は本来ならば、男の藤真と男同士でカップルの関係になることを望んでいた。藤真の言葉はなかなか胸に刺さるのだが、当の本人は知る由もなく、積極的に体を寄せ、胸を押しつけてくる。
「おいっ、藤真」
「わぁお、勃った? なあ、これだけで?」
 藤真は下腹部を押しつけ、そこにある硬く熱を帯びたものを確認する。愛らしく、意地の悪い笑みだ。つまり、一週間を経て自分のことが恋しくなったわけではなく、初めからこうした悪巧みをしていたのだろう。
「いいじゃないか、健康だってことだ」
「健全ではねえけどな」
(いたずら好きな、子猫みたいだな)
 無邪気な中に痺れるような毒を含んだ、至極魅力的な人物。それが彼の第一印象だった。二年、三年へと上がるにつれて急激に大人びて落ち着いていったように見えたが、おそらくはそうした振る舞いを身につけただけだったのだろう。今の彼は、ほとんど第一印象のままだ。──唯一、肉体の性別を除いては。
(性別なんて関係ない、って本当にあるんだな)
 そういった言説を目にしたとき、自らを同性愛者と認めたくないためのいいわけのように感じたのだが、誤解だったかもしれないと思う。
「男の体って不便だよなー。まあいいや、メシ食いにいこうぜ」
 どこかへ遊びに行こうかとも話していたのだが、ふたりの時間の都合もあり、今日のところは夕食を食べて牧の家に籠るだけにした。出会い頭からこの調子では、デート的な道中を盛り込んでいれば生殺しだっただろうから、これでよかったのかもしれない。

 メニューを見て少しだけ迷う表情、これにしようかなと伸ばされた左手の人差し指、前髪の下から覗く淡く長いまつ毛。愛らしい丸い瞳。些細な動作が、不思議なくらいに新鮮な印象で胸をくすぐる。
 惹かれたのは見た目からではなかったと思うし、少なくともバスケットボールの試合の場では不埒な目で彼を見ることはなかった。牧は人からオンオフがあるとよく言われるが、藤真に対してもそうだったのだと思う。
 グラスを持つ手も、箸を持つ手も左。藤真が左利きだということはもちろん知っているが、対面して食事をすると自分と鏡合わせのように動作するのが、特別なことに感じて無性にいとおしい。牧の想いなど知らない藤真は、熱心な視線に訝しげな視線を絡める。
「お前、こっち見過ぎ」
「え?」
「エロいこと考えてるとか?」
 藤真は赤い舌を覗かせて箸の先をぺろりと舐めると、目を細めて意味ありげに笑った。
「食事中にそんなこと考えない」
 そのつもりなのだが、どこでそんな表情の作りかたを覚えるのかと考えると、なんだか落ち着かない気分になってくる。藤真のせいだ、自分ではまだそんなことを考えるつもりはなかったのだ。
「じゃあ、なに、まだオレの食ってるとこが珍しいって?」
「そんなところだ。それに、向かい合って食ってたら普通見るだろう」
「そうかな……」
 ウサギやネコなど、愛玩動物が食事をしているところはつい眺めてしまうものだ。藤真をペットと同列に置くわけではないが、観察したくなる理由としては似たようなものだと思う。
(素直に言っても大丈夫だったんだろうか、もしかして)
 ミス翔陽コンテストに出ているときの藤真を思いだすと、女装をしているときの容姿への賞賛は、ストレートに賛辞として受け止めている様子だった。自ら援助交際に赴いたことだって、女としての外見に自信があったからこそだろう。
「……かわいいなと、思って」
 驚いた様子で丸く開いた目をぱちぱちまばたく。長いまつ毛から音がしそうだ。やはり言わないほうがよかったろうか。牧は頬が熱くなっていくと自覚する。
 懸念は、次の言葉と表情とに簡単に吹き飛んだ。
「牧、お前は素直でいいやつだな!」
 射抜かれた、と感じた。曇りない満面の笑みは真夏の太陽の下に力強く咲く花のようで、周囲には光の粒子が発生し、牧まで釣られて笑顔にしてしまうパワーのあるものだった。
「別に、見たままを言っただけだ」
 顔では笑いながら、牧は強烈な罪悪感に苛まれる。藤真は牧が男として彼を好きなのだとは知らない。嘘をついているようなものだ。
 とはいえ、不用意に告白してこの関係を終わらせるわけにもいかない。思いを隠し通せば、最悪でもキャンディを使いきらせ、藤真の援助交際を阻止することはできるだろう。先週の出会いは正真正銘の偶然だったから、本当に運がよかったと思う。

 食事を終えると、予定どおり牧の部屋へ移動した。玄関で靴を脱ぐ藤真を眺めながら、アダルトな漫画のように背後から抱きついて襲う妄想をしたが、妄想だけで終わらせた。
「シャワー借りるな」
 当然のようにそう言った藤真のために、バスローブとタオルはすでに用意してある。
(いかにも、やるためだけに来たって感じだな……まあ、そのとおりなんだが……)
 いつかこの部屋で、もっと普通に藤真がくつろぐ日が来ればいいと思う。初めてそんな妄想を頭に浮かんでから、はや二年近くが経とうとしているのか。初めは普通の友人として、仲よくなりたかっただけだったと思うのだが──
 シャワーの音が止み、バスローブ姿の藤真が部屋に入ってくると、前回同様入れ違いでシャワーを浴びに行く。
 ほどなくして部屋に戻ると、藤真はやはりベッドに入って、こちらに背を向けて待っていた。近づいて声をかけようとした瞬間、勢いよく寝返りをうつ。
「うおっ」
 思わず声が出てしまった。くつくつ笑う藤真の視線が、思いきり股間に注がれるのがわかる。
「やば。もうやる気マックスじゃん」
「それは……」
「健康だもんな。おいで」
 言いながら藤真は体を起こす。牧がベッドに上がると、腹につきそうなほど上を向き、太い血管を浮き立たせた色黒の男根に、白い指が伸びた。完全に大きくなった状態ではあるが、触れられるとどくどくと血がそこに集まって、さらに膨張してはち切れてしまいそうに思えた。
「ピクピクしてる」
「……お前のは、しないのか」
「するけど、他人のってちゃんと見たことないじゃんか」
 愛撫ではなくあくまで観察するようにそれを掴まえて撫でる、藤真の目は性欲というより、無邪気な好奇心に満ちているように見える。今日の待ち合わせ場所での積極的な態度といい、意図を感じずにいられない。
「舐めてやろうか」
「!!」
「嫌ならしないけど」
「いや! 嫌じゃない。ぜひ舐めてくれ」
 牧は慌てて首を横に振った。突然の申し出に驚いて黙ってしまったものの、これを拒絶できるほど無欲ではない。
 藤真は陰茎の根もとを指で支え、上目遣いに牧を見上げると、愛らしい舌を出して根もとから先端へと舐め上げる。
「っ…!」
 その感触にさほどの快感が伴ったわけではなかったが、非常な興奮に、達してしまえる錯覚までした。
 桜色の可憐な唇が、先走りにぬらりと光る亀頭にそっと触れて咥え込む。
「あぁ……」
 愛らしい見た目のとおりの柔らかく暖かい口の中に、辿々しい舌の動きに、自我がとろけていくように感じた。
「ふっ…!」
 じき舌先が細かく、素早く動き、裏筋からカリ首を舐め回した。同じ男であるせいか、動作がこなれていない割に刺激してくる場所は的確で、たまらず低い声が漏れる。
 頬に掛かる髪を手指ですくって顔をあらわにし、口唇奉仕するさまを鑑賞する。長いまつ毛を伏せ、その綺麗な顔で唇で、美しいとは言いがたい男根をしゃぶっている、背徳的な光景に目眩がするほどの興奮と悦びに襲われる。
(好きだ、藤真……)
 腰が自然と前後に動くと、猫のような目がこちらを見上げ、口もとが微かに笑った気がした。藤真はピストンのイメージで、牧の腰に合わせて頭を動かしながら、敏感な亀頭部を舌先でねぶり回す。
「っ! はぁっ…」
 舌の速度を変える。吸いながら舐める。上顎に当てる。喉の奥まで押し込んでみる。大袈裟な声こそないが、牧の反応が変わるのが面白く、藤真は夢中で口淫に耽った。彼の弱点をつかまえ、操っているような満足感もある。獣のように息を荒くした男から、口に男性器を出し入れされている──男の自我があればこそ異様に感じられる行動にも、このうえなく興奮していた。
「…ッ! おいっ、藤真っ…!」
 藤真は動きを止めて顔を上げる。離れた唇と男根との間に体液がねっとりと糸を引き、重く垂れ落ちた。
「にゃに」
「その……出るから、もういい」
「いいよ、出して。一発で萎えるタイプじゃねえのはわかってんだし」
「そうか。じゃあ……」
 なけなしの遠慮は簡単に覆り、再び藤真の口の中に導かれると、牧はさほども経たずに絶頂を迎えた。
「あぁっ…藤真ッ……!!」
 射精の瞬間、男は知性を失うものだ。まだ気持ちを通わせてはいない、売春の代替行為でしかないことなど吹き飛んで、牧はただ至福の坩堝の中にいた。
「んっ、ぐっ…!」
 口腔内に勢いよく注がれた精液を、無様にならないように飲み下すのに必死で、味わう余裕はなかった。ただ、舌の上に浅く残った味と鼻から抜けた匂いは〝いかにも〟と感じる代物だった。旨くはないが、牧を絶頂させた満足感はある。うつむけていた顔を上げ、べろりと舌を出して牧に口の中を見せた。
「!! ……無理しなくてよかったんだが」
 藤真が精液を飲み下したと確認すると、顔と股間が同時にぼうっと燃え上がる。
「無理してねえし」
 明らかな強がりも藤真らしいと感じられて、胸がくすぐられる心地だった。しかし、どうにも気になることがある。
「藤真……その、どういう心境の変化でフェラを」
「変化って?」
「自分ではしたことないって言ってたじゃないか」
「オレから女に対してだろ。今のオレは女なんだから、男に対してフェラはする」
「……そういうもんか」
 つまり藤真は〝女体化したので女のセックスを体験する〟という彼の目的のために、女の行為の一環としてフェラチオをしただけだ。そこに感情が──恋愛感情が伴っているかもしれないと期待してしまうのは、おそらく軽率なのだろう。
「なんだよ変な顔して。お前だって男のくせに、もともと男のオレに勃起してんだから、同罪だろ」
「同罪、か……」
 魅力的な響きではあるが、それは違うと思う。牧はむしろ、前回〝女になった藤真〟にごく自然に興奮して行為を完遂できたことに、内心安堵していた。恋愛的・性的に意識したきっかけは一昨年の翔陽祭の女装姿だったが、藤真のことは男としか思ったことがなく、そのうえで好きだと自覚している。いずれにせよ、気持ちを告げないまま体を結んだのだから、罪ではあるのかもしれない。
「なんかさ、せっかくなら突き詰めなきゃっていうか、もっと知りたいって思う。オレ、割となんでもそんな感じなんだけど。……ヘンかな?」
「変じゃないさ。勉強熱心だもんな、お前は」
 おそらく彼の性分なのだろう。藤真が翔陽の監督を兼任することになってしばらくのち、少し話したときにもそんな調子のことを言っていたと思う。大変だが新しいことを学ぶのは楽しい、せっかくの機会だから、と。そしてアブレッシブなプレイヤー、ミス翔陽の姿、クールに振る舞う監督の姿、と知っていくたび彼にのめり込んでいった。彼の作為と無為の境界を知りたい。
(退屈させて、経験豊富な本物のおじさんがいい、とか言われないようにしないとな……)
「というわけで、男と女のお勉強をしようぜ!」
 藤真は牧の首に腕を回すと、ぐいと引き寄せてキスをした。
「っ!!」
 そのままふたりで雪崩れるようにベッドに倒れる。
「っはは! お前、攻められると意外と弱い?」
 藤真はさも愉快そうに笑った。いったい自分はどんな顔をしているだろう。……あまり、格好のつかない顔だとは思う。見えないように、目を閉じてキスをした。
「ん、ぅ…」
 藤真の腰から尻へと手のひらを滑らせて鷲掴む。女になっても、小ぶりな愛らしい印象の尻だ。
「んんっ!」
 両手で揉みしだきながらもう少し指を伸ばすと、柔らかな秘所からはすでにたっぷりと愛液が滲み出していた。尻の割れ目に沿って指を這わせていくと、底無し沼に沈むように、ずぶずぶと指が入り込んでしまう。
「ぁ、あっ…」
「すげえ濡れてる。フェラして興奮したのか?」
「オレだって健康だからなっ…あっ、んッ♡」
 指をぐるりと回したり、曲げ伸ばしをして、とろけそうな蜜襞の感触を味わう。果てたばかりだというのに、すぐにでもそこに自らの分身を押し込みたくなっているのだから、欲深いものだと思う。
「なあ、罪と蜜って、似てると思わないか?」
「はっ? なに言ってっ、あぁあッ…♡」
 牧は素早く迷いのない動作で体を起こし藤真の脚をM字に開かせると、淫らに開かれた花弁にくちづけ、蜜を啜り女芯を愛撫した。
 
 
 

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