わずらい

「おかえりビクトル、早くしないと式典が始まっちまうぜ」
「わかってるよ。……ただいま」
 平和でのどかで、そのぶん退屈なオレの故郷──この精霊族の里は、見えない障壁に護られ、人間の住処とは離れた場所にひっそりと存在している。普段は壁の外で人間たちに混ざって生活しているオレだが、ときたまこうして帰郷する。別に里と一族を捨てたってわけじゃなく、あくまで仕事として外に出てるんで、定期報告ってやつだ。
 いつもは何にも見るものもないような小さな集落だが、今日は成年の儀ってイベントがある。そのまんま、里の新成人をお祝いする式典だ。毎年恒例の行事だが、今年はみんなどことなく浮き足立ってる。族長のとこの一番小さい若様のエミルが成人するからだ。なんだかんだいって、里に閉じこもってるだけの日々が退屈なんだろう、だからちょっとしたことを特別にして祝おうとする。別にそれが悪いって言いたいわけじゃないが。
 オレは昔からこの里は退屈すぎるって思ってたから、大人になって職を決めろってとき、壁の外の仕事に志願した。人間に紛れて暮らしながら外の世界の調査なり監視なりをするってやつだ。わざわざ危険な壁の外に出たいってヤツは少数派らしく、古風な考え方の親は怒ったが、ダチなんかは納得って感じで、まあオレの人生なんで好きにやらせてもらうってことで今に至る。
 外には魔物もいるし、小狡い人間もいるが、そういうもんだって思ってればどうってことはない。オレら外勤めのモンからすれば、里のヤツらが平和ボケしすぎてるだけだ。まあ実際平和なんだから仕方ないが。
 今回の報告が成年の儀とかぶったのは偶然じゃない。お祝いするからそれに合わせて報告に戻れってわざわざお達しがあったんだ。正直儀式とかしきたりとかは嫌いだ。下らねーって思ってる。だが若のお祝いだっていうなら話は別だ。俺は昔から若のこと知ってるし、若だって大人になるってことをすごく楽しみにしてたからな。成人に認められる十六歳と実際に大人として働きに出る年齢とはまた違ったりするわけだが、その話は今はいいだろう。
 出先から帰ったばかりで着飾るような手持ちはないが、無礼じゃない程度に身嗜みを整えて会場の広場へ向かった。道中、昔のダチに久々だとか行事に参加するなんて珍しいとか絡まれちまった。悪くはないがめんどくせえ、オレの目的はお前らじゃねーんだ。
 広場に着いたころにちょうど偉い人のありがたい話が終わったみたいで、すぐに歓談の時間になった。ワイングラスを持って好き好きに移動するやつらの中から若を見つけるのは──うん。たぶんあのちょっとした人だかりの向こうに隠れちまってるんだろう。最近会ってなかったが、昔から背は高くなかったから、ちょっとくらい伸びてたってきっとあんなもんだ。
 庶民にとっては、ってオレも庶民なんだが、お城の若様ってのはなかなか接する機会がないもんで、日頃人前に出る族長や、既に職についてる兄衆よりも、末っ子のエミルはレアだったりする。若様らしいきらきらした感じもあり、人懐っこくてかわいいときたら、退屈な庶民の諸君はお祝いにかこつけて一言くらい話してみたいわな。
 なんて若に群がるヤツらを割に余裕な気持ちで眺めてられるのは、オレは若と個人的に親しかったりするからだ。会の最中にゆっくり話せないなら夜でも明日でも別にいい。まあ、せっかくこの場に来たんだからちょっとくらいは話しときたいけどな。
 しかし、今年で若が十六ってことは、初めて会ったのはもう十年も前になるか。何の用であんなところにいたのか今では全く思い出せない。オレだって十二のガキの時分だ、城に用事なんてなかっただろうに。

 あの日たまたま城の近くを歩いてたオレの上に、小さな人影が降って来た。
「とうっ!」
「へっ? うえぇ!?」
 オレは慌てつつも反射的にひらひらふわふわを受け止めて、芝生の上に尻餅をつく。
「ってぇ……えと……?」
 まず目に飛び込んできたのは宝石みたいな大きな瞳。星が散ったみたいにきらきらで吸い込まれそうで、思わず見入っちまった。
 ぼうっとしたのは大した時間じゃなかったと思う。思いたい。よくよく見れば、肩に付くか付かないくらいの長さの金髪に、レースやお花のついたリボンを飾って、ふわふわの透ける布を重ねた白いドレスを着てる。身なりからしてそこらへんのガキとはワケが違った。
「お姫様……?」
 それしか出てこなかった。だってこんなかわいい子、今まで見たことなかったんだ。お姫様はにこっと笑った。本で読んだ、花の綻ぶようなって多分こういうことだ。
「ぼく、おひめさまに見えるかな?」
「ぼく?」
「あ、えと、わたし?」
 多分このお姫様はそこのお城の窓から飛び降りてきたわけだが、お城に小さいお姫様がいるなんて話は聞いたことなくて、年頃からいっても〝ぼく〟は
「お姫様、お名前は?」
「エミルだよ♪ きみは?」
「ビクトル、だけど、エミルって」
 このお城の一番末っ子の若様。男の子だ。会ったことはなかったが、親たちの話から名前くらいは知ってる。それから、女の子の格好をしてる理由にも思い当たるフシはある。
「──」
 遠くで声が聞こえたような気がした。若も同じだったみたいで、ウサギみたいに体全体をビクリと震わせながら、大きな目をぱちぱちさせて、オレの手を引っ張って走り出した。
「わ、な、何っ」
「しっ!」
 人差し指を口の前に当てる仕草をされると不思議と何も言えなくなって、若に引っ張られるまま植え込みに身を隠した。さすがお城となるとただの草っぱじゃない、綺麗に整えられた薔薇の木の茂みだった。
 二人で体を寄せて姿勢を低くして、若は茂みの隙間から真剣な眼差しで庭を、俺はそんな若の横顔を眺める。ツヤツヤの髪に、なっがい睫毛に、ツンとした鼻に、ふっくらした唇とほっぺた。背景の薔薇もよく似合ってて、うまく言えないけど、やっぱり近所のクソガキとはわけが違う。オレはあんまり育ちのよくないほうの庶民なもんで、正直、族長の一族って何がそんなにエラいんだ? って考えてたところがあった。だけど違うんだ。なんか、とにかく違ったんだよ。
「若〜どこですか〜」
「まったくいつもいつもよく思いつく……」
 若い男女の声は若を探してるようで、そりゃあ窓から飛び出してくるなんてどう考えても公式のお出掛けなわけないし、だけどオレにとってはそんなことはどうでもよかった。
(若、すっげーいいにおいする……)
 花みたいな、お菓子みたいな、なんだろうな。そんなこと考えてるうちに若の顔がこっちに向いたから、思わずそのかわいい唇にキスしていた。
「……!」
 やわらかくて、めちゃめちゃ気持ちよくて、しばらくそのままでいた。
 驚きすぎたのか、さっきの二人組にバレちゃまずいと思ったのか、若はびっくりして目を丸くしたが声は出さなかった。オレは調子に乗ってふわふわの小さな体を抱き寄せる。ああ、なんていうんだろうなこの感じ。かわいいってだけじゃなくて……貴いってやつか?
 若はしばらく固まってたが、我に返ったのか、ヤツらが戻ってこないと踏んだのか、ぎこちない動作でオレを見上げて言った。
「あのね、ぼく実は女の子じゃないんだ……」
「プッ」
 あんまり不安そうな顔で言うもんだから、思わず笑っちまった。
「わかってるよ。エミルって、お城の若様だろ?」
「でも、でもさっき」
 唇に手を当ててほっぺを赤くする。ああ、本当に、なんてかわいいんだろう。
「関係ないよ。好きだって思ったんだから」
 そうだ、別にオレはホモじゃない。彼女に不自由してないこともあって男をそういう目で見たことなんて一度もない。あと、どっちかってーと身分や年齢の差のほうがマズいような気がするが……そういうのを超越して若が魅力的だったって話だ。
「そうなの? お口のキスは初めてされたから、びっくりしちゃった」
 うふふって、照れたみたいに笑ってる。かわいい。嫌じゃなかったってことか? 脈アリ?
「じゃあぼくも今度、好きなひとにお口のキスしてみようかな♪」
「はっ!?」
 脈なんてあるわけねーだろバーカ! って即座に岩で頭を殴られたみたいだった。いや、いやいや。若は子供だ、好きの種類についてまでは考えてないかもしれない。
「んっと、若、好きだからって、誰にもかれにもすることじゃないんだぜ。この人だ! って決めた人にするんだ」
 そんなこといいつつ初対面の若にキスしちまったオレの発言に、あんまり説得力はないような気はしてる。若は顎の下に人差し指を当てて首を傾げた。かわいい。
「うーん。好きなひといっぱいいるけど、キスしようかなって思い浮かんだの一人だけなんだよね。でもちょっと考えてみるね」
「うん、考えてみて……」
 こりゃ脈なんてねーな。一人だけってなら本当に好きなんだろ、そんで多分若からキスされたら普通の人間は落ちる。はい、オレの恋一瞬で終了。まあ身分も違うししゃーないしゃーない。
「でもビクトル、ぼくがこの格好してても若だってわかっちゃったんだね」
「え? まあ……」
 名前覚えてくれたんだ。素直に嬉しい。正体については、だって自分でエミルって名乗ってたしな。そのへんはお子様だからしょうがないってところか。
「ぼくの正体がわかんなかったら、街に遊びにいけるかなって思ったんだけど」
 若は心底残念そうに肩を落とした。俺が今日で初対面なあたり、同じ年頃のガキっ子と一緒に走り回って遊ぶことはないんだろうし、恵まれてるようでいて不自由なのかもしれない。だけど若を見てるとその理由もわかる気がした。
「いや、正体わかんなくたってダメだろ」
「どうして?」
「こんなかわいいんだから、悪いやつに攫われちまうかもしれない」
「さらわれる? カベの外に!?」
 若の目がキラキラしだした。そういうのに憧れるお年頃か。危ないな。
「いや、そんな悪いヤツは、この里にはいないはず……」
 はずだけどな、でもかわいくて触ってみたくなるヤツくらいならいくらでもいるはずだ。オレみたいに。
「なんだ〜つまんないな〜。ぼく、カベの外に行ってみたいんだぁ」
 内心ドキリとしたのは、オレも似たようなことを思ってたからだ。里の中は退屈だ、大人になったら外に出たい、そんなことを日々ぼんやりと考えてる。だが
「まだお城の外にだって自由に出歩けないんだろ? もっと大きくなってから考えたら?」
 オレの願望に対して危ないだの安定性がないだのって言う親のことうるさいって思いながら、まるで似たようなことを口走っちまって嫌になる。なんだかんだ、オレもうちの親みたいな大人になっちまうんだろうか。
「んむ〜〜」
 若は唇を突き出して不満そうな顔してる。やっぱりかわいいな。本当はオレもカベの外に行きたいんだって言ったら、もっと仲良くなれるんだろうか。
 と、唐突に思い出したことがあった。若が女の子の格好してることについてだ。
「攫われるっていえば、それ、死神よけの?」
「ああうん、そうそう」
 若はなんともないように頷きながらドレスの裾をひらひらさせた。死神は男の子を攫うから、死神の目をくらますために男の子に女の子の格好をさせるっていう、言い伝え? 風習? そんなのがあって、実は俺も今の若くらいのときに女装させられたことがある。それでお姫様が男の子だってすぐに気づいたんだよな。ただそれはみんながみんな経験してることでもなく、当時のオレは相当冷やかされたもんだった。親がそういう古臭い習慣が好きで、俺が里を出たいのはその反動もあるかもしれない。
 族長とか、お城あたりに住んでる人らが昔の習慣を守ってるのはなんとなく納得できるが、今思えばヘンな習慣っつーか。死神ってのはホモなのか?
「でも死神なんてほんとにいるのかな? いるんなら会ってみたいな♪」
 呑気に笑う若の背後に大きな黒い影が揺らめいた。黒いローブに痩せこけた青白い顔に死んだような目。まさしく噂の
「し、死神……!?」
 俺の声に振り返った若は少し驚いたようだったが、ぜんぜん怖がってはいなかった。
「ネッド! なんでここに!」
「なんでって、若がこの辺で姿を消したって聞いたからでしょ?」
「チッ」
「舌打ちしない」
 どうやら死神じゃあないらしい。そりゃそうか。
「あのねビクトル、これはネッド。お城のじゅじゅちゅしなんだよ!」
「へえ……」
 オレの想像してた城の人間のイメージとは随分違って、やる気なさそうっつうか、好感度低いっつうか、まあ呪術師なんて生き生きハキハキしてるイメージないよな。そんな男がどういういきさつで城に勤めるようになったのかには興味なくもないが、本人に訊いてみたいって感じでもない。
「さ、若、戻りますよ」
「え〜!」
「おやつ食べないんなら別にいいですけど」
「やだあ! おやつ食べる♪」
 一目見ていけ好かないやつに認定した男とかわいい若がごく打ち解けたようにしてるのを見て、途端に自分が場違いなような気がしてきた。そりゃそうだ、相手は若様とお宮仕えで、オレは庶民のガキなんだから。きゃっきゃと嬉しそうに呪術師にじゃれつく若を尻目に、オレは静かにその場を後にした。

 思えばあのときから既に〝そう〟だったんだろう。若の好きなヤツってのは呪術師のネッドだった。あれからちょくちょく若とは接することがあって、いろんな話をしてるうちに自然と気づいたし、若も隠そうとはしてなかったし。なんであのコがアイツと!? なんていうカップルや夫婦は世の中珍しくもないもんだが、未だに理解できないシュミだ。
 ふと会場内を見回すが、ヤツの姿は見えない。長身にいつも黒系のローブを着て異様な雰囲気を出してるあの男、居れば見落とすことはないと思うが、お祝いの席には似合わないって空気を読んだんだろうか。そうして遠くばっかり見渡してたら、二の腕にちょんと触る感触があった。
「ビクトル、お疲れ」
「あれ、若? もういいんです?」
 人を探すことに集中しすぎてたみたいで、若が隣に来てたことには気付かなかった。人だかりをさばくのにもう少し掛かるかと思ってたせいもある。
「キリがないからね、大事な用事を思い出したっていって解散してもらっちゃった」
 若は深いネイビーに金の飾り刺繍の入ったジャケットと揃いのパンツを履いて、赤いマントを飾りのついたブローチで留めていた。首のリボンタイも袖から出てるヒラヒラもハマりすぎてて、まるでお人形さんみたい──オレは純粋に綺麗なものを褒める言葉をあんまり知らないんだって、今痛感してる。このくらいで勘弁してほしい。
 耳飾りの青い宝石もよく似合ってて、いつもはかわいいって印象が強いのが、ぐっとシックで大人っぽい印象だ。あの小さかった若が立派になったもんだって、急に老け込んだ気分になる。
「ビクトル? どうしたの?」
「え? あ、ああ、思わず見惚れちゃって」
「ええ? なにそれ?」
 冗談だと思ってるのか、若はカラカラ笑った。綺麗なのに親しみも感じるっていう、不思議な存在感だってつくづく思う。
「本当ですよ? 若、とっても大人っぽくて素敵です。成人おめでとうございます」
「ありがと♪」
 カチンと小さくグラスを鳴らして、今年の新成人たちと同じ年のワインをいただく。
「ねえ、ところでネッドを見なかった?」
「見てないですね」
「なんだよ! あいつ!」
 若はわかりやすく唇を尖らせて眉を吊り上げた。こういう表情をするとまだまだ子供って感じだ。
「夜行性なんでしょ? 寝てるんじゃないですか?」
「そうかも! ……はあ」
 明らかにがっかりしてる若の顔を見てると、無性に怒りが湧いてきた。若の晴れ姿を見に来ないなんて何考えてんだ?若はふるっと首を振って、気を取り直すみたいに表情を戻す。切り替えが早いのも昔から変わらない。
「ビクトルはいつまで里にいるんだい?」
「明日いっぱいはいますよ」
「じゃあ、明日たくさんお話を聞かせてね♪ 今日はちょっと用事があるからさ」
「承知。楽しみにしてますよ」
「僕も♪」
 歌うみたいに言って首を傾げる仕草はいくつになっても変わらなくかわいい。思わずオレまで笑顔になっちまう。

 式典を終えた夜、定期報告を済ませて城の中庭を歩いてると、東の尖塔から若が降りて、そのまま走ってくるのが見えた。格好は昼間のままだ。
「若?」
 なんとなく、ただ急いでるって風にも見えなくて、若の進む方に走って声を上げる。
「若!」
 足を止めて戸惑った風にする若に駆け寄ってみると、弱い明かりの下でも目元と頰がきらりと光って、泣いてるんだってはっきりわかった。
「ぁ……ビクトル……」
「若、一体どうしたんだよ」
 若はオレのシャツの胸元を掴むとぼろぼろと大粒の涙を零す。
「ぅ、僕……うわあぁん……!」
「あ、や、ごめん、ここじゃちょっとアレだな」
 どうしたって訊いたのはオレのほうだが、静かな夜にこんなところで大泣きされるのはさすがに困る。若だってあとあと困るんじゃないだろうか。
「グズッ……ぼくのへや、いこ……」
 そうして目を擦り鼻を啜る若に手を引かれて、二人で若の部屋へ向かった。

 若は部屋につくなりベッドに倒れ込んじまったが、紅茶を淹れて持っていくと、香りに誘われたのか起き上がってカップを受け取った。
「は〜……」
 熱い紅茶を一口二口と啜るように飲んで、ほっとしたように息を吐く。
「少しは落ち着きました?」
「うん、僕これ大好き♪」
 ああ、そう思って淹れたからな。若の昔から好きなジャム入りの紅茶だ。ぽつりと言った若の表情は、だけどどこか寂しそうで。
「ビクトルも飲んだら? ここ座っていいよ」
 そう言ってポンポンとベッドの上の自分の隣の位置を叩く。
「えっ? ああ、はい……」
 女の子じゃないんだ、ヘンに意識する必要なんてないだろ──というわけにもいかない。オレは若にキスした前科があるし、若はネッドという男が好きで、他意を感じるなってほうが無理だった。
 若干緊張しながらベッドに腰掛け、自分の分に口を付ける。オレのはジャムなしの紅茶だ。
 窮屈なのか重かったのか、若はマントを外すとばさりと近くの椅子の上に放り投げた。
「──で、何があったんです? 言いたくないなら、言わなくてもいいですけど」
「ネッドは……」
 やっぱりね。オレの記憶から変わってないならあの尖塔にはネッドの部屋があったはずだし、なんとなく嫌な予感はしてた。とはいえ首突っ込んだからには聞かなかったことにもできない。
「ネッドにとっては今日なんて、どうでもよかったみたい」
「昼間の式典にいなかったこと? ああいう行事ごとが嫌いなタイプだからじゃ?」
 正直あいつのフォローなんてしたくないが、若を傷つけたくもないから適当に取り繕う言葉を考える。若は首を横に振った。
「僕、ネッドが僕のことそういうふうに見てくれないのは、僕が子供だからだって思ってた。大人になったら変わると思ってた。僕が大人になりたかったみたいに、ネッドも僕のこと待ってくれてると思ってた……」
 落ち着きを取り戻したようだった声は細くなって震えて、大きな瞳は潤み、みるみるうちに大粒の涙が零れる。
(あいつ、若のこと拒否ったのか……!?)
 オレはネッドと話したことはほとんどないが、若がそうであるようにネッドも当然そうだと思ってた。信じられない思いで若の体を抱き締めて、透明な宝石みたいな涙を指先に掬う。痛々しくてこっちまで悲しくなるみたいなのに、なぜだかそれとは逆の感情も生まれていた。胸がざわざわして、とても落ち着かないんだ。胸元からくぐもった声がする。
「ぼく……ばかみたい……」
「バカじゃないよ。若は、信じて、裏切られたってだけだ」
 若から話を聞いてた分では、ネッドは愛想は悪いが若には優しくて、命懸けで若を助けたこともあって、若はとにかくネッドが好きだっていうこと。
 お付きとしてそばにいるのと恋愛感情とは違うっていわれたらそれまでだが、オレなんかよりずっと一緒にいて、果たして若の気持ちに気づかなかったもんだろうか。気づいてながら「子供だから」って騙し騙しにして、その挙句に振ったってなら最低の男だと思う。
「僕が精霊族の若だから、僕とネッドが結ばれるのは許されないんだって。それって、今日が来ても来なくても、変わらなかったってことだよね」
 オレは低く唸った。それは少し、理屈としては、わからなくもないかもしれない。偏屈な呪術師の分際で、何真っ当なこと言ってんだって感じはするが──いや、臆病なんだろう。きっと若を幸せにしてやる自信がないから逃げてるんだ。
「僕、壁の外に生まれたらよかった。僕が若じゃなかったら、ネッドもちゃんと僕のこと見てくれたかもしれないのに」
 薔薇色の頬に新たに生まれる光の線を拭いながら、思わず呟いていた。
「そんなに?」
「?」
「そんなにあいつがいい?」
 本心だった。ネッドのどこがそんなにいいのか、昔から理解できなかったが、今話を聞いて余計にわからなくなった。オレのほうがって気持ちもあるし、お城の中なら他に良さそうなやつだっていくらでもいるだろう。
 若の瞳が大きく揺らぐ。きりなく溢れ落ちる雫を、オレは舌先で舐め取っていた。若は驚いた様子でばちばちとまばたきするが、それだけだった。昔から変わらないな。
 何か言い掛けた唇を、オレは自分の唇で塞いでいた。
「……!」
 久しぶりだな、この感触。柔らかくて、しっとりして、やさしいようなのに体の芯がビリビリ騒ぐ。深く吸い付くとまだジャムの味が残ってるのか若の味なのかすごく甘くて、オレは夢中で舌を泳がせた。戸惑うみたいに強張る舌を突いて搦め捕れば、小さく呻いて身体を震わせる。こんなときなのに、感じてるんだろうか。
「はぁっ……ビクトル、何……」
 顔を離して見下ろすとしきりに吸った唇が赤く充血してる。まるで紅でも引いたみたいに、率直に言ってめちゃめちゃ色っぽい、堪らない、食いたい。オレはキスこそしないながら、若の唇をなぞるように舌を這わせた。
「んっ、やっ」
「嫌?」
 覗き込むと若は赤い顔で、眉を寄せて目を逸らした。はっきりしない態度は若っぽくなくて、つまり、困っちゃいるが決して嫌じゃない。そう確信して若の背中を、脇腹をしっかりとした感触を与えるようにしてなぞっていく。ちょっと前に見とれた綺麗なお召し物なんてもうどうでもよくて、腕の中でもぞりと悶えた小さなカラダのことばかりを考えていた。
「嫌なら、やめておくけど?」
 若は耳まで真っ赤にして、長い睫毛をしきりに上下に動かしてまばたきしてる。考えてるんだろうか。だけど嫌って言葉がすぐ出て来ない時点で答えは決まってるんだ。いくら帝王学だとか難しいこと勉強してたって、こういうことならオレのほうがずっと経験あるんだからな。
「わ、わかんにゃい……」
 紳士的にいこうと思ってるんで、そういうかわいい返答はやめてほしい。
 多分若はあいつのこと嫌いになりきれてなくて迷ってる。だけどこの状況でそういうコトへの欲求も無視できなくなってるってわけだ。オレだって若くらいのときはヤりたくてヤりたくてしょうがなかったし、下手すりゃ若は今日あいつとそういうコトしちまうつもりだったかもしれない。
「じゃあ試してみよっか。嫌だったら言ってくれればやめるから」
「うん……」
 オレが笑うと若はこくんと頷いて、不安と期待が入り混じったみたいな目を向けてくる。
(やばい、堪んねー……)
 オレは股間を疼かせながらも落ち着いた振る舞いを意識して、若のジャケットを脱がせ、マントと同じ椅子の上に放った。
 若に覆いかぶさるようにゆっくりと押し倒すと、ベッドの上に黄金色の波が広がった。これからヤろうってことに反してそれは神秘的なくらい綺麗で、体はいっそう小さく見えて、こんな子を汚していくのかと思うと今まで感じたことのない期待に胸が張り裂けそうだった。パンツの中で硬くなったオレのモノが若の膝に当たってるのがめちゃめちゃ興奮する。若は気づいてるだろうか。もし途中で拒否られたとして、オレはちゃんと止められるんだろうか。
 顔は上に向けながら、若の目はオレを見てないで横を向いてる。不安なんだろう。安心させるようにって、できるだけ優しくキスをした。
「ん……」
 ちゅっと音を立てて唇を吸って、離して、またくっつけて。祈るように胸元にあった手首を取ってオレの首に持っていくと若は素直に腕を回してくる。
(ああ……)
 ヤりたくてしょうがないんだな。既にボルテージMAXってくらいなのに、若の仕草一つ一つに更に興奮が高まってく。頭がおかしくなって、ケダモノみたいに乱暴に襲っちまいそうだ。
「ぅ…ふ……」
 舌を差し込むと辿々しく応じようとするのが堪んなくかわいい。そうしつつも若のリボンタイを引っ張って解き、手探りでシャツのボタンを上から順に外していく。前を開いて手のひらで触れてみると、平らな胸はドクドク激しく脈打っていた。オレは顔を上げて若に問いかける。
「緊張してる?」
「……」
 若は答えに迷うみたいにあくあく唇を動かす。普段は明朗快活って印象だけど、こういうのもすごくそそる。
「大丈夫、やさしくするから」
 鼓動を撫でて、するりと脇腹の方へと手を滑り込ませていく。
「ぅん!」
 感触はすべすべとして、手のひらに吸い付くみたいで、はだけたシャツから覗くミルク色の肌はうっすら上気していて──見下ろす光景に、今更ながら背徳感に煽られる。
 長い睫毛の下で潤む瞳は夢見る宝石みたいで、こんな状況なのにやっぱり綺麗なその傍らにオレは恭しく唇を落とした。そこから輪郭を辿るように頬、小さな顎、まだ細い首筋へ。肌の感触だけで愛しくて──ああ、そうだ、何もヤりたいだけでヤるわけじゃない。オレは若に惚れていた。そしてやっぱり今でも好きなんだ。
 鼻先と唇と舌、いたる所で若の肌を味わうみたいに愛撫する。
「ふぁあっ!」
 首筋に触れると、若の体が大きく跳ねた。感じるんだな。肩を竦めて首を隠そうとするのをこじ開けるように、鼻先を突っ込んで柔らかな首に弱く歯を立て、ねっとりと舌を這わせる。
「ぁ、あぁっ…」
 かわいい若。声も、息も、体も震わせて、でも怖いわけじゃないよな。もっとして欲しいって、期待に震えてるんだ。なだらかな胸を頬でなぞるとツンと上を向いたかわいい乳首に出会う。綺麗なピンク色だ。
「ひゃっ!」
 舌の先で強くねぶるように転がしてやると、若はわかりやすいくらいにビクビク震えて反応を示した。舌に触れるものも硬さを増していっそうぷっくりと存在感を出してる。
「あ、んっ…」
 ちゅぱっ、ちゅぱっ、わざと音を立てて吸いながら、もぞもぞ蠢く体を抱き締める。
「ぁ、うぅ…」
「おっぱい気持ちい?」
「ん……」
「気持ちいいよな?」
「ぅ、ん……♡」
 若は照れくさそうに笑って目を逸らす。はぁ、なんてかわいいんだろう。ちょっと意味がわからない。男とか女とかって区分を超越してる。もう少し乳首をくるくると弄ってから、あばら、腹、かわいいおヘソにとキスをしていく。若はそのたびに小さく息を呑んで体を震わせた。
「若、身体中で感じるみたい」
「ぅん、だって……」
「敏感なんだな。きっとここも」
「ぁっ!」
 ズボンの上から若の股間を包み込むように触ると、体全体が大きく跳ねた。硬く膨らんだ感触は確かにオレにもあるモノで、そりゃ男なんだから当然だが、目の前のかわいい若にもそれがあるってのはやっぱり少し不思議で、妙に興奮しちまう。
 布越しに形を確認するように撫でるとやっぱり──オレっていつから男のチンポに興奮するようになったんだ? 自分への戸惑いもなくはないが、もどかしそうに身を捩る若を見てるとそれもどうでもよくなって、早く気持ちよくしてあげたくなる。
 ズボンの留め具を外してチラと見上げると、若の顔は真っ赤だったが、もう口先で嫌とも言わない。言われてもやめる気もないけどな。
「ぁ……!」
 ズボンと下着を引き下ろし、オレは目の前に現れたモノを思わず凝視する。色こそ初々しく愛らしいもんだが、それは意外なほど立派な姿で血管を浮かせ、ビンと屹立していた。大人の姿をした性器とは裏腹に、体毛はまだ生えていない──いや、そんなわけがない。
「若、剃ってるの?」
「……え、だ、だって……」
「そういう習慣?」
 育ちの良い家系では全剃りだったりするんだろうかっていう、庶民の素朴な疑問だ。
「そういうわけじゃないけど、綺麗にしとこうと思って……も、もしかしてヘンだった!?」
 若は本気で慌ててるみたいだ。つまり、今日はやっぱりそういうつもりだったから準備してたと……は〜〜本気でかわいいなオイ! いとしいって気持ちと、残念だったねって意地悪したくなる気持ちでオレの胸中はたいへん騒々しい。
「変じゃないよ。かわいいよ」
 スベスベの下腹部を人差し指でスッとなぞる。
「ひゃん!」
 若がびくりと身体を震わすと、股間のモノもぷるんとかわいく揺れた。
「それに、すごく感じるだろ? 普段毛に隠れてるとこが剥き出しだとさ」
 若の竿を捕まえるが愛撫はせずに脇に寄せて、その根元から若の腹側へ、普段は陰毛に覆われているであろう箇所をべろべろと舐め回す。
「っは……ぅあ、あっ、あんっ♡」
「……ね?」
 すっかり甘い声を出すようになった若の顔を見上げ、傍らの竿を見上げ。つるんとした亀頭の先っぽに玉になった先走りの露を指先で潰してくにくにと捏ね回す。
「ひゃあっ! あっ! あんっ、あっ……♡」
 ぬめりを拡げるように擦ればまたジワジワと染み出して、涎を垂らすみたいに竿から糸を引いて落ちる。下品な光景と若の顔を見比べて、笑みが歪むと自分でわかった。
「若、さてはめちゃめちゃスケベだな?」
「はっ…ちがっ、ンッ」
「スケベなこと考えてるからこんなに先っぽトロトロなんだろ〜?」
 そしてオレはそのトロトロチンポがかわいくて仕方がない。食べちゃいたいくらいだって衝動に抗わず、口に含んだ。
「ふぁっ!」
(あぁ、若……オレ、若のチンポしゃぶってる……めちゃめちゃ興奮する……。若のスケベな汁で口ん中もトロトロだ……)
 オレは夢中でそれに吸い付き、こうすれば気持ちいいだろうって執拗に舌を動かして舐め回す。若は高い声を上げながらピクンピクンと腰を浮かせた。
「あぅ、あんっ、なん、で……」
「オレもスケベだから♡」
 で、だからフェラで終わらせるつもりは毛頭ない。相手は違うにしろ、若だってそのつもりだったよな? 前に男同士でセックスできるのかって聞いてきたのは若の方からだったもんな。口頭でねっとりとヤり方を説明して、したいのかされたいのかって話までしたんだ。今思えば、あのとき間違いが起きなかったの、オレ偉かったな。
 弾けそうなくらいパツンパツンに反り返った竿の先から滴る雫を辿るように、指先を下降させていく。若の先走りとオレのヨダレの混ざったぬめりは玉を伝い、後ろの穴を濡らしていた。
「っ…!」
 かわいい窄まりに触れてみると、そこはヒクリと大きく波打って、オレの指先をつぷりと呑み込んでしまう。
「若…スケベ……」
「ち、ちがうもん!」
 ほんの先っぽ、第一関節だけを差し込んでぐにぐにと前後させる。入り口は窮屈だが、指の先の感触は柔らかだ。
「あっ、あ……あのね、そこに、香油が……」
(やっぱりスケベじゃねーか!)
 視線を泳がせながら言う若に、オレは多分ニヤニヤを隠せてないと思う。だってこの状況で香油っていうのは完全にソレ用だろ? いやあ、ちっちゃかった若もほんとに大人になったもんだ。というか、落ち着いた大人になる前の、そういうのに興味あってしょうがない年頃なんだな。
 サイドボードにいくつか並んだ小瓶の中に香油を見つけて、まずは控えめに指に纏わせる。腰を抱えて脚を持ち上げると、少しだけ濡れた尻穴が期待するみたいにヒクヒク震えていた。愛らしいピンク色のそこに、オレはまったく抵抗を感じない。
 指を沿わせると、香油の滑りでぬるりと中に入ってしまう。まるで誘われてるみたいだ。
「ぁん……」
 中は濡れた肉がみっしりと詰まってるって感じで、締め付けにも女にはない弾力がある。ここに挿れたらどんだけ気持ちいいんだろう。股間が痛い。
「っは、ん…ぅ……」
 若は眉を寄せて恥ずかしそうに身体をもぞもぞさせている。
「若? 痛くない?」
「ん、大丈夫……」
 やせ我慢でもないだろう。大体、ベッドのすぐそこに香油が置いてあったことからして──ヤらしい妄想が止まらなくなりながら、オレは若のいいところを探すようにしきりに指を曲げ伸ばしして動かした。
「ぅ、あ、あっ……!」
 若の身体が大きく跳ねる。見つけたかな?
「若、ここ触ったことあるでしょ」
「う……」
 明らかに狼狽えてる。初っ端でこんなに調子よくいくわけないんだから、否定したってわかるけどな。
「オナニーくらい誰だってする。別に恥ずかしいことじゃない」
 後ろは誰だっては弄らないが、細かいことはどうでもいい。ぐるりと探るように指を動かし、引き抜いて、今度は二本の指に香油を絡めて挿入する。
「あ、んっ……」
「大丈夫?」
「うん……」
「むしろ物足りない?」
「うぅ…」
 若は困り顔で目を背ける。否定しないんだ、できないよな。でももうちょっと慣らさなきゃ。指を抜いて、かわいいお尻の狭間にたっぷりと香油を垂らす。指は更に増やして三本だ。
「ぁ、あぁぁっ……」
 傷つけてしまわないように、慎重に挿れる。さすがに窮屈だが、それでも受け容れてしまうんだから大したもんだ。
「すごいな。指三本だよ」
 そうして前立腺を刺激するように指を曲げ伸ばしする。
「んんっ…! あ、あぁ…ぁっ、あ……」 
 はぁはぁと呼吸を早くして喘ぎながら、若は目をトロンとさせてる。気持ちいいんだろう、中もきゅうきゅう締め付けてきてる。オレってなかなか我慢強いと思う。
 ぐいと上体を屈めて若の耳元に囁いた。
「若、指三本入ったらね、もうチンポ入るらしいよ」
「っ…!」
「どうする?」
 悪趣味じゃない、紳士的なんだ。若は素直だった。
「い……いれて……」
「何を?」
「おチンポ……♡」
「いいよ♡」
 オレは即答すると、世界一かわいくおチンポって呟いた、うるうるの唇を貪るみたいに口付ける。
「ん、んっ…♡」
 ちゅっちゅと音を立ててキスしながら、手早く前を寛げて自分の息子を引っ張り出す。恥ずかしいくらいに我慢汁で濡れてる、こんなのどれくらいぶりだろう。
 挿入をほのめかすみたいに、穴から会陰部へと竿を擦り付けて先っぽで玉を持ち上げる、そんな動作を何度か繰り返したが、途端にもったいない気分になった。楽しい時間が過ぎるのは早いもんだからな。
 何度も吸って赤みを帯びた若の唇を指先でぷにぷに、ぴよぴよと弄ぶうち、良からぬ欲求が湧いてきた。そして今のオレには自制心なんてない。
「若の中にチンポ入るように、まずお口で濡らしてくれる?」
 若はぱちぱちと瞬いたあと、照れたみたいに目を伏せて頷いた。
「…うん」
 オレは若の胸の上に馬乗りになって、ビンビンにいきり勃ってヨダレを垂らす息子を愛らしい口元になすりつける。綺麗な顔と血管を浮き立たせた赤黒いチンポが同じ視界の中にあるってだけで興奮して堪らないが、可愛らしい唇の先とオレの先走りとがとろりと糸を引くのが最高に下品だった。若は躊躇せず口を開け、旨そうにそれにしゃぶりつく。
「ぁ、若……」
 上品なお口でなんてモノを咥えてるんだ、って自分でさせておきながら感触よりも視覚的に興奮していた。ちろちろと舌を動かす動作は辿々しくて、ストレートな快感がこないのは少しもどかしいが、うっかりイってしまわなくていいかもしれない。
 ふー、ふー、と落ち着けようとしてる自分の息がうるさいくらいで、俺は腰を前に出してそれを若の口の奥に押し込む。
「ん、むっ……」
 奥に当たると押し返して来る感触があって、そこはすごく気持ちいいんだが多分えずいてしまってるんだな。若が涙目になってるんで腰の位置を少し後ろに置いて前後に揺らす。
「ん、んむ、んぅ……」
 慣れないながらしきりに舌を動かしてるのがほんとにかわいい。
「あぁ、若、そ、上手……」
 言うと、若はちょっと嬉しそうな顔をした、ような気がする。
(このまま若の口に……)
 いや、それはまずいだろ。なけなしの理性だか罪悪感だかが働いて、オレは腰を浮かせて若の口からソレを引き摺り出した。名残惜しそうに舌が纏わりついてくるのがやばい。もともと大したことない語彙が失われて「やばい」か「かわいい」しかなくなっていく。
 若は戸惑ったみたいな顔で見上げてくる。
「ビクトル、気持ちよくなかった?」
「え? 気持ちよかったよ」
「じゃあ続き♪」
「へっ!?」
 若はぐいとオレの腰を抱え寄せ、再びチンポを口に押し込んだ。そんなことされると、ほんとに我慢できないんですけど!?
 びちびちと舌を動かして、じゅぱ、じゅぱ、積極的に吸い付いて。ちょっとの間のことなのに、随分慣れてきたな。
「若、フェラ好きなの?」
 若は考え込むように眉を寄せて口からチンポを取り出す。
「ん〜? ……わかんない」
 恥ずかしがってるんだろうか。だけどかわいい唇にチンポ添えながらそんなこと言ったってオレは欲情するしかないんだぞ。
「じゃあ、若のお口に出してい?」
 何が『じゃあ』なんだかって自分でも思うけど。若は上目遣いで見上げてくる。
「ちゃんとお尻にも挿れてあげるから」
「……いいよ♪」
 若が頷くや、オレは再度若の口にそれを押し込んでいた。衝動的っていうか──自分で思ってるより余裕はなさそうだ。腰を動かし、股の下にある若の口の中にチンポを前後させて、舌の上に先っぽを擦り付けながら、根元を自分の手で扱いていく。
「んぐ、ん、むぅ……」
 時折苦しそうにしながらしきりに舌を動かす若はいっそ健気だった。ヨダレなのかオレの先走りなのか、口の中はじゅぷじゅぷやらしい音を立てて唇の端から体液を垂らしてる。あんなに清らかで、かわいくて、貴いのに、こんなにスケベだなんて、一体どういうことなんだ。
「あぁ、若、いいよ……すっごくイイ……」
 ワケがわからないままオレのテンションは順調に上がっていく。射精に向かってどんどんバカになっていくのはみんな一緒だろう。金玉が重い、気がする。
「っっ…! イクよ」
「ん」
「出すよ…!」
「んんっ……!」
 肯定なんだかどうなんだかわかんなかったが、一層腰と手の動きを早くして自分を追い上げる。
「イッ…たぁ……!」
 体の中心から電撃が突き抜けて、頭の中が真っ白にスパークする。最高に幸せな気分の中で何も考えられないまま、それでも手は狡っからく前後して溜まったザーメンを出し尽くす。若の口の中に。そうだ、オレは若の口の中に射精していた。
「んぐっ、ん……っはぁ……」
 股の間にある若の顔を眺めると、自分でヤったことながら、尋常でない背徳感に襲われた。若の上から退いて、隣に寝転がって顔を覗き込む。
「若、大丈夫?」
「ん、うん……」
「もしかして……飲んだ?」
「うん!」
 まじか。若がオレのザーメンを飲んじまった──腹の底から何か、エロいのとは違う何かがググッと込み上げて、身体中に暖かいものが拡がるみたいで、若の体をぎゅうと抱いて頬を寄せていた。
(あー……やっぱ好きなんだよな……)
 オレってめちゃめちゃ単純だ。
「はは、そっか。若、すごいなぁ」
「ふふ、僕すごい?」
「うん、すごいよ」
 唇を舌で拭うのが小悪魔っぽくかわいくて、穏やかな幸福感をないがしろにして息子は再びムラムラしだす。そしてオレはコイツに抗えない。
「それじゃ、今度は下のお口に挿れるね」
 若は期待するみたいに胸の前でぎゅっと手を握った。はあ、ほんと……本当にかわいい。オレここに来てから何回かわいいって思ったんだろう。
 ともあれこれはオレだけの欲じゃないってことだ。ああ、自分だけ気持ちよくなるなんて男として最低だからな。若の腰を抱き、身体を裏返すように脚を抱え上げ、香油でじゅぶじゅぶに濡れたそこに息子を擦り付ける。
「ぁ、ぁ……♡」
 そのたびひくり、ひくり、期待するみたいにアヌスが収縮する。フェラで興奮したのか、チンポもまだビンビンだ。こんなにかわいい子が頭の中をセックスのことでいっぱいにしてオレのこと待ってるなんて。いやオレは正直モテる方だが、ここまでの盛り上がりはほんとに初めてだ。
「挿れるよ」
「いいよ♡ っあ!」
 ズブッ! 張り出した亀頭部分を、オレは一気に挿入してしまった。ちょっと、ほんと興奮がやばくてだな……。
「大丈夫?」
「ぅん……」
 若は少し不安そうだろうか。だがオレの先っぽは柔らかいような硬いような肉の感触にきゅうきゅう締め付けられて、もう後に退けない。……いやそのうち退いたり進んだりするんだが。
「あっ、あぁっ……!」
 先っぽだけ挿れたまま、相変わらずトロトロの若のチンポの先を弄る。若が声を上げると、窮屈な入り口が更にきつく締まる。
「こうするとさ、後ろも気持ちいいんじゃない?」
 ぬめる竿を扱くたび、若は悲鳴みたいな声を上げて腰をびくんと震わせた。最初に前だけ弄ってたよりずっと反応がいい。
「……ね?」
「あっ、あんっ、やぁ…! あ、ひぃ! んんんっ!」
 嫌なわけがないし、やめるわけもない。若の反応と一緒にナカがきゅんきゅん収縮するのに合わせて、ゆっくり体を進めていく。熱い畝りに揉まれるようで、これだけでイッちまいそうだった。
「ぁっ……あぁぁっ…!」
「若、全部入ったよ」
 誇示するみたいに押し付けた、下腹部に若の尻がくっついている。小さな蕾みたいだったアヌスは目一杯まで開いてオレのモノをズッポリ咥え込んでいた。
「あ、ぁ……すご……」
「気持ちい?」
 いいつつ若の竿を扱く。これで気持ちよくないわけないんだ、我ながら卑怯だと思う。
「ひゃあ! んっ! それ、や……♡」
「嫌なの? なんで? 教えて」
 耳元に息を吹き込みながら囁くと、若は身を竦めてオレを締め付けた。もう全身が性感帯って感じだな。何か言いかけた唇に舌を押し込んで言葉ごと搦め取る。答えなんてどうでもよかった。
「んむっ、ん、あぁっ……!」
 キスをしながらチンポを扱いて、キスをやめたら乳首を吸って、もう堪らなくなってオレは性急に腰を使いだす。
「あんっ、あっ、あぁ、んっ…♡」
 体を打ち付けるのに合わせるように、若は囀るみたいに声を上げる。ナカは至るところで肉の襞が抱き締めてくるみたいで、腰を引くと名残惜しそうに吸い付いて、複雑な快楽にまたもや頭がバカになっていく。
「あひっ、あんっ、あぅっ、んんっ……!」
 最初のうちは前を扱いていたが、それをやめても若は気持ちよさそうに喘いでる。
「あぐっ!」
 一番奥まで突き上げて、オレは動きを止めて若を見下ろす。
「若、後ろだけで感じてるね?」
 指入れた時だって感じてたんだからそりゃそうか。
「ん……ぅん……だって、ナカがじゅんじゅんしてるの、おチンポが擦れて……♡」
 ああ、じゅんじゅんしてるね。催促するみたいにオレのこと締め付けてる。
「ずっとここにチンポ欲しかったんだもんね」
 待ちに待った大人になった日、心に決めたのとは別の男に初めてを捧げる。想像するだに目眩がした。浅はかな少年へのいじらしさもあるだろうし、悪徳への興奮もあるだろう。ただ、悦びだけじゃなくモヤっとしたものも生まれていた。
(……あの男の)
 今オレに貫かれ、熱に浮かされたみたいな目をした若が見てるのは、オレじゃないかもしれない。いや、ハナからそのつもりだったさ。オレは若の気持ちを知っててヤってるんだ。何を今更。
 若の身体に感触を刻みつけるみたいに、ゆっくりと、先っぽだけ含ませるまで抜いて、また一番奥まで挿れて、そんな動作を数回繰り返す。
「あぁぁ、んんんっ……♡」
「若、ねえ、気持ちいいだろ?」
「きもち、い……あぁっ♡」
「ちゃんと覚えててね……」
 ぼそりと呟き、オレはピストンのペースを上げていく。
「あぅっ、あっ、あぁっ……♡」
 パンパン体を打ち付ける乾いた音と、濡れた皮膚が張り付いては離れる音が同時に聞こえる。それに合わせるみたいに若はしきりに高い声を上げた。
「あふっ、あんっ、あぁ、んんんっ……♡」
 若もすっかりノッちまって、オレの背中に脚を絡めては小刻みに腰を揺らしてる。
「気持ちい?」
「あんっ、あ、んんっ……!」
「オレのチンポ…」
「あふっ、あんっ、おチンポっ…♡ きもちい、よぉ…!」
「スケベ」
「あぁっ…♡ あぁっあ…♡」
「好きだよ」
「んんっ…!」
 夢中で腰を動かしながら、うわごとみたいにおしゃべりする。頭なんて働いちゃいない。どっしりとした大きなベッドが軋んで悲鳴を上げるほどに、オレたちは激しく抱き合った。

「若、イクよ…」
「いいよっ…♡」
「一緒にイこ」
「ぅん……!」
 オレはなんだかよくわからない汁でびしょびしょになってる若のチンポを扱きながら、深く、激しく腰を打ち付ける。締め付ける入り口の奥で柔らかな肉壁が絡みつき、吸い付いて、オレの先端を舐め回した。
「若っ…!!」
「あんっ、あ、あぁぁぁっ……!」
 しなやかな肉体が弾けるように跳ねると、白い飛沫が上がって青臭い匂いが漂った。手の中がどろりと生暖かく濡れていく。
 同時に、若の肉壺の中にはオレの精液がビュービューと注がれていた。最後まで出し切るようになおも腰を動かしながら、手の中のものも同じように慰めていく。
「あぅっ、あんっ……ぁ、はっ……♡」
 若は射精が終わっても快楽がひかないみたいに、オレが動きを止めるまでずっと喘いでいた。

(はあ、戻ってきちゃったよ……)
 ここは賑やかな人間の街。夜も明るくて空の星は暗い、オレらの育ちからすれば奇妙な街で、今現在のオレの仕事先だ。
 手癖みたいにポケットに手を突っ込んで中の小袋を握る。中身は魔力の篭った石、今回里を出るときに若がくれたお守りだ。
 コトが済んだあと、オレは里に残ろうかと真剣に悩んでいた。若と一緒に居たいと思ったからだ。朝早くに自分の部屋に戻って、うんうん唸りながら眠って、午後にもう一度若と会ったとき「壁の外は危ないって聞くから」ってこのお守りを貰った。
 なんだかそこで我に返ったってか、心配してくれるのは嬉しいんだが、若にとってのオレって結局そういうもんなんだなって思い知らされた。
 そもそもオレが壁の外で働くことを決心したのは若がやたら外に憧れてたからだ。もちろん初めから興味はあったが、最後の一押しはそれだったと思う。なんでか? 気を引きたかったからさ。バカだよな、そのせいでオレは若と一緒にいられず、あいつはずっと若と一緒だ。そしてオレはめでたく〝憧れの外で働いてるお兄さん〟の座を手に入れたのだ。はあ。
 ま、そうでもなきゃ若とここまで親しくもならなかったかもしれないんだが。それと現実的なことをいうと、オレの一存だけで「やっぱ若と居たくなったんで外の仕事やめまーす」ってわけにもいかない。我ながら変なとこで真面目なんだよな。

 オレは若とどうなりたかったんだろう。ヤりたかっただけなんだろうか。気持ちがそばになくても、ヤれればそれでいいって?
 いや、あの日の、少なくともきっかけは、若のことを慰めたかっただけだ。

 ちょっとうさんくさい通りの、すっかり見慣れた吊り看板。勤め先の酒場は閉店時間ちょい過ぎだ。カランカラン、ベルを鳴らしてドアを開くが当然客はなく、マスターと自称看板娘が片付けをしていた。
「ただいまでーす」
 先に応えてくれたのはマスターだった。
「ああ、お帰りビクトル。嫁さんと子供は元気だったか?」
「はあ?」
 もちろんオレにはそんなものは居ない。
「あーあもう、ちゃんと話合わせてよ。意外と要領悪いのね?」
「はあ?」
 さっきと全く同じ言葉が口から出る。おまえらと同じ思考回路はしてないんだ、説明してくれ。
「アナタのファンがうるさいから、そういう設定にしてんの」
「勝手なこと……ま、別にいいけど……」
「なんだ、嘘だったのか? ちょくちょく帰ってるようだから、てっきりそうだと思ってたんだが」
 マスターは完全に信じてたようだ。マジかよ。まあオレだって精霊族だってことを隠してて、何がウソかホントかって感じはあるが。
「でもさ、本命はやっぱ故郷にいるんでしょ?」
「あー、そうねえ……」
 繊細なムネがきりりと痛む。なんで今そういう話題を振ってくるかな、嫌だね女って。
「結婚を迫られて逃げてるとか」
「そんなんじゃない。手が届かないひとなんだよ」
 ちょっとむきになってしまった。ここで「あー実はそうなんだよね!」てイキったって自分が虚しいだけだ。
「身分違いの恋か!」
「そして傷心のまま故郷を離れ放蕩の旅へ〜」
 途端に二人して盛り上がり出した。めんどくせえ。他人が傷ついてようが気にしちゃいない、なんでも娯楽にしちまうんだ、まったく人間ってのは。
 そうだな、壁の外は刺激的だが、人間のことは大して好きじゃない。ああ、ならオレはどうしてここに戻ってきたんだ? いきなり外の仕事を辞めることができない? そんなの若の一存があればどうだかわからない。
 オレのしたことは若の初めてのキスとカラダを奪ったこと、それだけだった。あの夜若の心はまだネッドのもとにあったが、めちゃくちゃに失望してたのも確かだ。傷心の若を優しい言葉と望む行為で揺さぶり続ければ、あいつへの気持ちを断ち切ることもできたんじゃないのか。試しもしなかったよな、直接的にネッドの話をすること自体避けてた。どうしてだ?
「そうね。ボクの恋はついに叶わずじまいでしたとさ」
 恋? いやこれは愛さ、純愛なんだ。汚れきった、けれど自分の欲望より守りたいもののある。

 ガキの頃、若と仲良くなってたオレはいつものように勝手に中庭に入り込む。
 若を探して進むと、大きな木の根元に死神のような男が座り込んで、若はそれに寄り添うみたいに気持ち良さそうに昼寝していた。死神の顔もそれまで見たことないくらいに優しくて、枯れ枝みたいな指は若の柔らかな髪を撫でていた。
 その光景に、慈しみなんていう、ヤツの見た目に到底似合わない感想が漠然と湧いて──ああ、あいつも若のこと好きなんだって感じたら、冷めた色の目がこっちに向くより前にその場から逃げ出していた。
 仄かな希望も断ち切られた心地で泣きそうになりながら、だけどオレは確かに(若、両想いだよ、よかったね)って思ってたんだ──

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