皮膚の下で逢いましょう

R18ネッド×エミルはじめてのおセックス [ 14,652文字/2018-05-20 ]

 拷問のようだった。貧相な身体から生えた肉の塊は、自分でも戸惑うほどに張り詰め筋を浮き立たせ、時折震えながら首を擡げている。
 貴い人との美しい日々もそこで見つけた得難い想いも何も嘲笑うかのように、彼を慕った心は陳腐な劣情になって、そのあまりに醜い貌を当人の眼前に晒している。
 無様で、惨めで、消えてしまいたい気持ちだった。

 柔らかな陽光に繊細なレース地のカーテンが揺れる昼下がり。開いた窓の外からは新人兵士たちの号令の声が薄ら聞こえ、部屋の中では軽快とはいえない音を立てながら羽根ペンの先が紙の上を走っていた。つらつら続いていた黒く細い軌跡がぼつりと丸い滲みをつくると、とうに集中力を欠いていたエミルはペンを置いて大袈裟に溜め息を吐く。
「はぁ〜あ、僕もう大人なのにな〜」
 一族としての成年を迎えたものの、エミルが学業から解放されることはなかった。手厚い教育は彼の立場によるところもあるが、昨今では庶民でも必ずしもすぐに働きに出るわけでもない。さも飽きたというように目を据わらせた、形の良い頭の上から落ち着いた声が降る。
「成年なんて、昔の人が決めた概念ですからね」
 今の時間の目付役のネッドだ。エミルは天を仰ぎ、常に不健康な顔色を視界の端に捉える。
「でもお酒は飲んでもいいんだぞ♪」
「私は、それもどうかと思ってますよ」
 エミルのことは幼少の頃から知っているが、大人と自称する今になっても印象は全く変わらない。いたって健康ではあるものの、比較的小柄なその身に進んで有害なものを取り込んで欲しくはないと思っている。そのまま口に出せば「自分が不健康なくせに!」と言われることは目に見えているので、はっきりと言ったことはない。
「酒は百薬の長っていって〜」
「そういう言葉ばかり覚える」
「ネッドさ」
 俄かに声色が変わった、とネッドは敏感に察知する。
「僕のこと、まだ子供だと思ってる?」
「はい?」
 思わず零し、慌てて口を噤んだ。この話題は慎重にいかなくてはならないと、つい数ヶ月前の出来事からわかっているのだ。かといって無言もいけない。
「そんなことは、ないですけど。どうしてまた?」
 昼の光を帯びて明るく輝く大きな瞳が瞬き、試すように、探るように、ネッドの強張った顔面を見つめる。
「だってネッド、何もしてこないじゃないか」
「何も、とは……」
「あの日キスしてから、それ以上のこと、何も」
 エミルはネッドの手首を引き寄せ、異様に長く細い腕を抱え込む。甘えるように腕に頬を擦り寄せられながら、ネッドは狼狽えることしかできなかった。
「あの、ええと……」
「それとも嘘ついた? 僕が泣いてたから」
「そんなことはっ……!」
 彼にしては珍しく反射的に声を荒げ、そして小さく咳払いして言い直す。
「嘘なんてつきませんよ。あれが私の本心です」
 数ヶ月前、エミルとの不和から城を離れたネッドは、元の住居であった黒い森の塔で倒れ臥していた。エミルの涙によって目覚めたものの、そこで即座に告白を受け入れた訳でもない。性懲りもなく立場がどうのと話をして、考えた末で辿り着いた答えだ。そうしてネッドが城に戻ってきてからは、まだ一月も経っていないだろう。
「じゃあさ、僕がおまえを好きだっていう意味もわかってるんだろ。父上とか、お城のみんなを好きだっていうのとは違うんだからね」
「それは、まあ……」
 城に住み込みになるまでは全くといっていいほど人と関わってこなかったネッドだが、無知なわけでもなかった。動物がどのように子を成すかは当然知っているし、儀式の一端として人間同士の性愛について扱うまじないの書物を読んだこともある。
 成年の日、式典の夜のエミルの告白を思い出す。そして腕を抱え込まれた現在の体勢だ。
「じゃあ、キスしてよ」
「え」
「早く!」
 嫌ではない、拒絶する理由もない、ならば従うしかないのだ。ネッドは腕を引かれるままに上体を大きく屈め、上を向いて愛らしく唇を突き出したエミルにキスをした。
「ん〜♪」
 エミルはネッドの頭をがしりと捕まえて機嫌良さそうに呻く。ネッドも躊躇いこそしたものの、そうなってしまえば唇の感触も弱い息も頭部への拘束も愛しくて、このまま呼吸が止まれば良いと夢想してしまうくらいだった。そうして鈍り眠ろうとする思考を現実に引き戻すかのように、窓の外から兵士の掛け声が聞こえてくる。
「っっ!」
 エミルの腕を引き剥がすように体を起こし、改めて自分の立場を思い出して頭を振る。
「いやいや、だめでしょ私は今はお勉強の監督のためにここにいるんですよ」
 拒絶する理由ははっきりとあった。つまり誘惑に負けてしまったということだ。
「じゃあ夜に僕の部屋に来て♪」
「それはぁ〜……」
「嫌? 用事なんてないだろ?」
「はい、行きます……」
 頷くしかなかった。相変わらず必要以上に他の人間と接することのないネッドに、エミルに呼び付けられる以外の用事などそうそうないのだ。
「準備して待ってるからね♪」

 胃が痛い。息が詰まって窒息しそうだ。しかし青ざめた顔色は平常通りで、呪術師の塔から城に居室を移してからやはり体調自体は良く、発作が起きて死ぬ気配など毛頭ない。
「はぁ〜……」
 深い溜息が漏れる。気は進まないが、エミルが待っている。行くしかなかった。
(準備、とは……)
 往生際悪くエミルの言葉を反芻しながら、熱いシャワーを頭から浴びる。察しがつかないわけではない。認めたくないだけだった。
 恐ろしいのだ。この醜い欲求を彼の美しい世界に晒すのが。
 かつてエミルを拒絶したときから、いや、より幼い頃から気付いていた、知りながら目を背け殺したつもりだった危うい衝動を、引き摺り出したのが当のエミルなのだからたちが悪い。
 長く息を吐き、吸い込めば湿気を帯びた空気に噎せ、項垂れて足元を見遣れば常にはだらしなくぶら下がるばかりのものが期待に頭を擡げようとしていた。シャワーで溺死したい気持ちだ。
 たとえエミルが望もうが、ネッドの実感としてその行為は罪悪だ。幼かったエミルの透明な好奇心と太陽のような博愛、そこに卑屈な呪術師への情欲が混ざりこんだのは未だに何かの間違いのようにしか思えず、それでいて正すことのできない自分に嫌気が差す。

 念入りな入浴を終え、寝巻き姿で足を引き摺るようにしながらようやくエミルの寝室の前に辿り着いた。コン、コン、ノックの動作も切れが悪い。
「若。私です」
「はいよ♪」
 重い空気を纏うネッドとは対照的に、エミルは歌うように軽やかに応えながらドアを開ける。ネッドの腕を掴み、乱暴と感じるほど勢いよく部屋の中に引き込むと、反動で寄り添ったドアにカチャリと音を立てて鍵を掛ける。無邪気な動作は常時と変わらず(このままいつものように何も起こらなければよいのに)とネッドは不届きなことを考える。
「待ってた♪」
「お酒飲んでたんですか?」
 素肌にガウンを羽織っただけと思しきエミルの背後、サイドボードの上のボトルとグラスが目に留まる。二つ用意されたグラスの一つには既にワインが注がれていた。
「ネッドが来るまで待ってようと思ったんだけど、遅くてさ。寝ちゃうとこだったよ」
「そうですね、確かに少し……遅くなりましたね」
 置き時計を見ると想像以上に時間が経っていた。シャワーも長らく浴びていただろうし、ここに来るまでにも相当ぐずぐずした。もう少し遅ければエミルは眠り憂いごとも回避できたろうか──いや、明日機嫌を悪くされるだけだろう。
「僕、酔っ払っちゃった♪」
 仄かに赤い頬をして、エミルはまだ線の細い体をベッドの上にころんと投げ出す。まるで無防備なその姿に、眠いのだろうかとネッドは布団を掛けてやる。
「おい! ちがうだろ!!」
「えぇ?」
 酔っているせいか、急に声を荒げた相手にネッドは狼狽える。
「なんなのネッド、僕とやりたくないの!?」
「……!」
 痛いところを突いてくる。何のために呼ばれたのか、知っているから念入りにシャワーを浴びた。そのとき身に帯びたものは嫌悪感などではなく、それとは真逆の欲求だった。しかしなにしろ後ろめたさが強すぎる。
「その……男同士ですよ?」
 思い切りが悪すぎる自覚はある。
「わかった! ネッド、もしかして男同士でセックスできるの知らないとか!」
「あっ……ええ、実はそうなんですよね……」
 嘘だった。経験はないが知識としては知っている。これで躱せるなら助かると思っただけだ。
「そうだよね、ネッド引きこもりだったもんね。じゃあ僕が教えてあげる♪」
「えっ! えええっ!!」
 外見からは想像もつかないほどの力で腕を引かれ、ネッドはバランスを崩してベッドに両腕をついた。エミルを潰さないようにと突っ張った腕の隙間を、当の本人はにこりと笑ってすり抜け、ネッドの上に伸し掛かって唇を塞いだ。
「むっ……!」
 小さな唇は柔らかく瑞々しく、案外と存在感があった。噛み付くように、吸い付くように、深く合わせた粘膜を割り裂いて小さな舌が侵入してくる。落ち着きなく口腔を探り、ネッドの舌を絡め取る、それは柔らかで少しざらりとして、甘いような気もした。こんなキスも初めてではなかったが、慌ただしかったあの夜の感触などもはや覚えてはいない。実質初めてのようなものだ。
「ぷはっ……わ、若……」
「好きだよ、ネッド」
「わ、私も、です……」
 甘い甘い声に対して強張った声が、しかし何の抵抗もなく口から溢れて自分でも驚く。エミルはこれから起こることとは到底結びつかない、清らかとしかいえない笑みを浮かべた。
「なんだ、素直じゃん♪ でも……」
 大きな丸い瞳が、探るように覗き込んでくる。人の精神に感応し操る能力はこちらの専売特許ではあるが、エミルも似たようなものを持っているのではないかとは、常々感じていた。
「ネッド、怯えている?」
「そうかも、しれません……あなたを、汚すようで……」
 加えて、自らの醜い欲望をその美しい眼前に曝け出してしまうことに対して。
「何言ってんだよ」
 エミルは吐き捨てるように言って、ネッドをぎゅうと抱きしめる。
 頬に触れる金髪とエミルの身体全体から、石鹸のにおいと、それとは別の、甘い香りも微かに漂っている気がする。ネッドはエミルの肩口に、髪に鼻先を埋め、躊躇いながらではあるが、確かに応えるようにそっと腕を回す。長い腕の丈に見合わない小さな体を至大に感じながら、体全体にじわりと伝わる温もりに目眩がしていた。
「ネッド、どんな感じ?」
「……あったかい、です……」
「なにそれ当たり前じゃん! 変なの!」
 エミルは軽やかに笑う。そうか、この感想は変なのか──いや、エミルにとってはあまりに当たり前のものなのだろう。しかし自分には無縁で、これまで知る由もなかったもの。知るはずがないのに、どこか懐かしいような、体の奥がズキズキと痛むような。
(私はあなたしか知らない)
 だから懐かしいなどという感覚は間違っている。この状況に記憶が混濁しているに違いないのだ。呆然とするネッドに対し、エミルは飽くまで楽しげに笑う。
「それじゃ、もっとあったかくなることをしよ♪ 脱いで♪」
 促す言葉を掛けながら、エミルはその手でネッドの衣服を脱がせに掛かる。ネッドもまた言われるままに寝巻きの上衣を脱いだ。身長の割に広いとは言い難い肩幅からストンと落ちるような骨格に、殆ど肉感のない皮膚が張り付いて、鎖骨や肋骨、胸骨も浮いて見える。しかしエミルの目が釘付けになったのはその先だ。
 下穿きに押さえつけられた細長く大きな隆起。ネッドの態度とは裏腹に、それは明らかに興奮を示していた。日頃のネッドのイメージとは逸脱した生々しさと、見慣れた自分のものとは比べ物にならない大きさに、エミルは目を見張る。
「なんだよ、ネッド」
 視線の先が容易に想像できて、ネッドは断罪されるような気持ちだった。
 愚かで醜い雄の本能。世俗から離れて無気力に生きた頃に潰えてほしかった。エミルのことを心から大切に思ったとき、無視すると決めたはずの衝動だった。
 白い指先が布越しに触れる、それだけで無様に体が跳ねた。
「ッ……!」
 初めは躊躇うように指で形をなぞり、ネッドが抵抗しないと見るや手のひらを使って上へ下へと撫でる。布越しにもその硬さと大きさが伝わり、エミルは目を爛々とさせた。
「わ、か……!」
「すごいおっきくなってるじゃないか♪ 中見ていいかな?」
 エミルの声が明るかろうがネッドの気は晴れない。いっそ訊かないでほしい。愛らしい顔をして残酷な主だと思う。
「ええ……」
 ネッドは頷くというより項垂れながら呟いた。さすがにここまできて拒絶もできない。
 綺麗な手が下穿きを下ろすと、押さえつけられていた雄芯が飛び跳ねるように顔を出した。あまりに滑稽で、もはやエミルの顔を見られない。
「ネッド、なにこれ!」
 ああ、醜いだろう。骨の浮き出す肌の血色は悪いのに、そこだけが妙に赤々と、隆々として脈打つのが自分でも可笑しく、奇形じみてさえ思えた。これが、こんなものが、大切にしてきたひとへの結果だというのか──自責のような思いは暖かな手の感触に断ち切られる。
「!」
「すっごい! すごいよ、ねえネッド♪」
 緩く手の中に握り込んだ質量は自分のものとは比べ物にならない。白い顔をしたネッドとはまるで別の生き物と思えるそれを手懐けるように、両の手で胴体を──陰茎をさする。
「よろしくね♪」
「……?」
 股間に直接語り掛ける動作にも作り笑いすら浮かべられない。うるさいくらいの心臓の鼓動が聞こえていないか怯えながら、荒らぐ呼吸を落ち着けることで精一杯だった。
 エミルはそこに触れたまま、前に身を乗り出してネッドの顔を覗き込む。ネッドは気圧されるように息を呑む。
「っっ……!」
「ネッドもこんな風になるんだね♪ 安心した♪」
 いつもと変わらぬ調子のエミルと、声も出せず呼吸もままならない自分と。やはり不釣り合いだとしか思えない。逃げ出したい気持ちだったが、しっかりと伸し掛られた体に力も入らない。
「ネッド?」
 あからさまに顔を背けたネッドの視線を追うように、エミルは頭と上体を傾ける。逃れるように逆方向を向けば、エミルの顔もまたそれを追い掛けて動く。端から見ればふざけ合っているようにしか見えない光景だったが、当人たちは至って真面目だ。
(そうかネッド、恥ずかしがってるんだな♪)
「大丈夫だよ♪」
 エミルはガウンを纏ったまま、ネッドの腰に跨り下半身を擦り寄せる。姿は見えないながら性器に硬いものが触れて、ネッドはカッと体温が上がると感じる。
「僕も同じだからね♪ 脱がせてごらん♪」
 エミルはネッドの手を取って、ガウンの前で蝶結びにした紐の先を握らせる。半ば命令のようなそれに逆らうこともできず、骨ばった手はぎこちない動作で紐を解く。はらりとはだけた隙間から覗く脚に──エミルの体の中心に、強く気を惹かれつつも咄嗟に目を背けていた。
「ネッド、まさか僕が男なのが嫌とか……」
 エミルだとて男女で交わるほうが一般的だとは思っているが、ならばこの状況になる前にもっと明確に拒否されているはずだとも思う。
「そうでは、なくて……」
「だよね♪」
(うん、うん、恥ずかしがってるのと、初めてだから知らないってだけ! なによりコレがこんなになってるんだし♪)
 エミルはこくこく頷きながらガウンを完全に脱ぎ捨て、一層ネッドに腰を寄せて、勃ち上がった二人の性器を互いの下腹部に押し付ける。寄り添わせるように、二人の陰茎を纏めて握った。
「見て、大人と子供みたいだ♪ ……なんか、僕の方が恥ずかしくなってきた!?」
 布に阻まれていたときからわかっていたことだが、こうして比べてしまうとネッドのものはあまりに長大だ。色といい、やはり自分はまだ子供かもしれないと思う。
「身長相応というだけでは……」
 見てと言われたのだから見るべきなのだろうが相変わらず直視もできず、ネッドはそわそわと視線を泳がせながら絞り出す。
「まあいっか♪ 気持ちよくしてあげるね♪」
 エミルは幾らか後ろへ下がって上体を前に倒す。目の前にそびえる陰茎の根元を手指で支え、大きく口を開けて先端から思い切り咥え込んだ。
「っ……!」
 視覚的には細長い印象だったが口腔内が一杯になってしまうほど太さもあり、軽くえずくまでに深く導いてもごく一部しか咥えることができない。しばし舌を動かしてみたが、すぐに苦しくなって唇を離した。
「んぐっ……んっ……ぷはっ……!」
 ちらりと見上げれば、自らの手の甲を唇に押し当てながらこちらを見つめるネッドと目が合って──すぐに逸らされてしまった。
(なにそれかわいい♪)
 エミルは俄然やる気になり、今度は根元へ舌を這わせた。唾液を絡ませ、裏筋を辿って、突き出した亀頭部へと舐め上げる。違う生物にも例えたが、筋張ってごつごつとした感触はやはりネッドのものという気がする。奥にやりすぎない程度に先端を口に含み、舌先で雁首をなぞるなど思いつく限りの愛撫を施せば、そのたびネッドの息が乱れ、ときにはごく小さく声を漏らし、口の中のものがぴくりと跳ねる。既に存分に興奮している自覚はあったが、ネッドの反応と滲み出る体液とに一層淫らな気持ちを煽られる。
(僕、口の中を犯されてる……♪)
 甘美な責め苦だった。自らの性器とエミルの顔とを同じ視界に捉えるだけで忌々しい衝動が渦巻き、赤黒い幹に寄り添う桜色の唇、鮮やかな肉の色をした舌から目が離せない。肩をさらさら流れる金の髪も長い睫毛の伏せられた形もよく知っているのに、目の前の光景はまるで未知のものだ。視覚、そしてこれまで知りえなかった感触に侵されながら、まだなんとか保とうとしているものがぐらぐら揺らぐ。恐ろしくて仕方がないと感じながら、拒絶どころか制止もできない。
 離れた舌先と性器の先に、体液が銀の糸を引いて途切れる。思わず大きく喉が鳴った。聞こえてしまったのだろうか、エミルはにこりと笑った。
「気持ちい?」
「ええ……」
 ネッドの実感とは裏腹に、エミルは悦びの只中にいた。ネッドの態度は未だ消極的ではあるが、すっかり欲情して自分を求めていることは明らかだ。ごく落ち着いた物腰の中に、ネッドもまた自分と同じものを隠していた、その事実をまざまざと見せつけてくる目の前のものが愛しくて堪らない。このまま続けて精液を啜りたい思いもあるが、エミルの内にはより勝る欲求があった。
「おっきすぎて、ぜんぜんお口に入らないから……ね♪」
 体を起こし、改めてネッドの腰に跨る。ネッドの目はついにエミルの姿態に釘付けになった。
 常には明るく健康的な印象の肌色は、照明のせいなのか妙に白く、月下に咲く花のように妖しげだ。それでいて皮膚の薄い部位はその内を巡る血を感じさせるように色づいてひどく目を惹く。胸元、起伏の少ない体の線を辿って、下腹部には彼の雄の象徴が猛々しく上を向いていた。
 自らの陰部にはおぞやしさや愚かしさしか感じないが──姿形よりも、エミルにそれを向けることについてではあるが──エミルに対しては驚きこそあれ悪感情は湧かない。むしろそんな場所までも綺麗だと思う始末だった。
(ネッド、やっとこっち見てくれた♪)
 嚥下の音、細い首に大きく張り出した喉仏の動き、注がれる視線。エミルはぶるりと身震いをした。羞恥を超えて興奮に煽られながら、ベッドサイドの小瓶に手を伸ばす。
 小瓶の中から手のひらに香油を垂らし、ネッドの性器に撫で付ける。白い指の狭間にてらてらと輝いてディテールを一層明確にするそれを、ネッドは醜いと捉えるがエミルは愛おしく好ましいと感じていた。
(ネッドが何も言わなくても、僕としたいんだっておまえが伝えてくれるからね♪)
 見惚れるように微笑して、再びたっぷりと香油を纏わせた指を、ネッドが来るまでに既に潤していた自らの秘部に忍ばせる。
「全部入るのかな? こんなにおっきいの」
 恐れはなく、快楽と幸福感への期待に急かされるように、根元を支えたそれを自らの窄まりに充てがう。濡れた先端部は大きいながら、同じく濡らした自身の粘膜に馴染むようにも感じられた。エミルは思い切って腰を沈める。
「くんっ……!」
 熱く鈍い痛みが走る。張り出した先端部を呑み込んでもあまり楽になった気はしなかったが、エミルは容赦なく挿入を進めていく。
「ぁ、ネッド、すご……あ、あっ……♡」
 体を襲うものは快感とは言い難かったが、自らの行いへの興奮と、ネッドを受け容れていく満足感とに声を上げて天を仰ぐ。
「ね、すごい奥まで入ってるよ……♡」
 体を開き、歓喜の声を上げながらグロテスクな想いを呑み込んでいくエミルから目が離せなかった。躊躇い、混乱しているところはある。しかし失望ともいえない。
「ネッドは? どんなかんじ?」
 声が出ない。そうでなくとも答えなどわからない。小さく唇を動かしただけの反応にも、興奮の只中にいるエミルは満足げに微笑う。
「あったかい?」
「ええ……」
 エミルの体温に包まれ、窮屈に縛りあげられる感触は、快感のようでいて、もどかしく焦らされているようでもあって、優しく手酷い彼によく似ていた。期待に潤んで露の玉を載せていたエミルの先端から、長い糸を引いて雫が落ちる。
「あは、すごい……♪ こんなのはじめてかも♡」
 ひどく淫らな気分になって自らそこに触れ、指先に糸を引かせて見せつけた。ネッドの視線が注がれている。喉が鳴った。非常に気分がいい。
「触ってみて♪」
 手を引いて導けば長い指は至って素直にエミルの性器に絡みついた。自分の指とは違う筋張って乾いた感触と、血色の薄いそれが赤々とした粘膜を捕らえる姿に身震いする。
「ネッドの指、気持ちいい♡ あっ、あぁっ♡」
 大きく薄い手に小さな手が重なり上下する。そのうちネッドは自らそれを愛撫していた。
「っぁ、やば、きもち゛ぃよぉ……♡」
 触れられて感じるたび、或いは身じろぎするたびに、体の奥が刺激を求めて疼くようだった。衝動に抗わず、エミルは自らの内を抉るように体を前後に揺らす。
「ぁ゛っ♡ 僕、あぁっ♡」
「っ……!」
 じっとり濡れてうねる窮屈な粘膜が、咥え込んだ全身に吸い付きながら蠕動する。抽送といえる動作ではない、ネッドに与えられる刺激は飽くまでもどかしく、しかし確実に、かつてない快感をもたらしていた。
「あふっあぁ、これ、きもちっ…」
 しなり悶える白い体の、もっといろいろな場所を知りたい。そんな欲求を抱きつつも手の中のものをばかり弄ぶ。濡れて脈打つ、硬く柔らかな粘膜はなんとも淫猥な感触だ。
「ん゛っ……! も、やめ♡」
 エミルはネッドの手を押さえつけて前への愛撫を咎める。ネッドの目が「なぜ」とでも言いたげに見え、思わず笑ってしまった。
「このままじゃ僕だけイッちゃうからね♪」
 本当は始終リードしたいところだったが、知識としてしか知らないこの体勢で、うまく続けることができそうにないとも感じていた。
「ん、んっ……♡」
 ゆっくりと腰を上げて引き抜いていくと、こんなにも長いものが挿入っていたのかと改めて恍惚としてしまう。感慨に浸りつつも、ネッドの隣に横たわって見上げた。
「ね、ネッドももうやりかたわかっただろ。だから今度はベッドに寝てしよう♪」
 ネッドの手首を引いて自分の身体の上へと導く。ネッドは逆らわずエミルの上に覆いかぶさるが、エミルの想像とは異なって、背中側に回り込んで体を抱き竦めた。
「んっ!? ……まあ、それもいいね♪」
 背中全体を抱えられて、密着するネッドの胸から早い鼓動と荒い呼吸が伝わってくる。尻に押し付けられる硬い感触に、大きく胸が高鳴った。エミルはやわやわとネッドの手をほどくと、ベッドに肘をついてうつ伏せになり、尻を高く上げる。赤々とした陰部が、誘うようにひくりと収縮した。
「いいよネッド♡ もっかい挿れて♡ んんっ……!」
 もはや躊躇のない挿入に体を再び満たされ、悦びがせり上がって胸が詰まる。肉杭は、先ほどより一層体の深くに迫るようだった。
「あぐっ……あぁっ……すご、深っ……♡」
 ネッドはそこに隙間を残したくないとでもいうようにしきりに腰を押し付けながら、上背がある分だけ背中を丸めてエミルの体を抱き締める。抱擁というよりはしがみつかれているようで、いたく余裕がないように感じられ、無性に愛しかった。その腕が、手首が意図せず胸元を掠め、敏感な部分に微かだけ触れる。
「んっ♡」
(うん、ネッドは知らないんだから、僕が教えてあげなきゃ♪)
 ネッドの手を捕まえ、胸元の突起に触れさせる。
「ここね、気持ちいいんだ♪」
 少し硬い感触の指の腹が、なだらかな胸の上の一際柔らかな皮膚を撫でる。小さな硬い突起に触れると、エミルの体がぴくりと震えた。
「あんっ♡」
 指はエミルの反応を探りながら、それを押し潰すように転がす。
「あんっ♪ あっ…♡」
 もう一方の手は覚えたての行為をなぞるように下腹部に伸び、ねっとりと濡れた陰茎を摑まえた。
「あっそこだめ♡ あっあ、おかしくなるっ♡」
 乳首と性器への刺激に堪え難いほどの快感を得ていながら、穿たれた部分がぎゅうと締まると体の奥が切なく疼くようだった。更に深くに求めるように、ネッドの腰に尻を押しつける。
「あふっ、あ、あんっ♡ やめっ…」
 高い声を上げ、最後には半ば悲鳴のように言いながらネッドの手を押さえつける。
「なぜです?」
 エミルとは裏腹に落ち着いたような、低く凄みのある声が耳に吹き込まれる。不満なのだろうかと考えると、不思議とぞくぞくした。
「まだ終わりたくないから♪ ネッド、腰を動かして♪ 僕のナカでッ…んっ♡」
 言い終わる前に、既にネッドは腰を引いていた。
「あっ、あぁっ……♡」
 すっかり馴染んだようだった粘膜が、ゆっくりと引き剥がされながら抜けていく。異物感に、ネッドが自分の内にいるのだと改めて実感させられて堪らない。
「んんんっ♡」
 そして再びゆっくりと押し込まれる。内臓全体を圧し上げられると感じながら、エミルの体は緩く大きく波打った。
「いい、いっ…♡」
「気持ちいいですか?」
 囁きとともに耳に吹き込まれる息にさえ感じながら、エミルは上ずった声で返す。
「いいよっ…♡ もっとっ♡ ズポズポしてっ…♡」
 長いストロークのゆったりとした抽送が何度か繰り返されるうち、背後の息は次第に乱れ、動作も速くなっていく。
「ふあっ、あっあぁっ…♡ ネッドがきもちいみたいにっ♡ ぼくのお尻でチンポしごいてっ♡」
 咥え込んだ怒張はネッドが自分を求める証だ。それを使ってめちゃくちゃに掻き回して、もっともっと感じさせてほしい。
 大きく立派なベッドの、スプリングがしきりに軋む。
「あふっ♡ ああっ…♡ しゅごっ♡ しゅごいよぉ♡」
 ストレートな要求も品が良いとはいえない言葉も愛らしくて堪らなかった。高い声は鼓膜をくすぐり脳を甘く撫でて痺れさせていくようで、ただ自分の存在を認められ、褒められているとだけ都合よく認識しながら、ネッドは求められるまま腰を振った。
「わか…」
 動作するたびエミルの臓腑が蠢き自分の性器に絡みつく。滲み出る体液を泡立てながら敏感な粘膜を擦りつける、感触と合わせて貴いからだの内で起こる光景を妄想する。興奮で頭がおかしくなりそうだった。
「ん、あぁ♡ ネッ…いぃ、よぉ…♡」
「あぁ…」
 声に応えるようでいて、もはや意味のある言葉として捉えてはいなかった。呼ばれるまま、そして自らの衝動のままに、濡れた肉がぶつかり合い粘着質な音を立てるほど、激しく腰を振り立てる。
「んおっ♡ おおぉっ…!!」
「ッ…!」
 しきりに体を震わせながらきつく締め上げるエミルの感触に連れていかれるように、電撃のように強烈な快感が迸る。頭が真っ白になり、気づけばエミルの中に精液を放っていた。
「ぁ…あぁ♡ でてりゅ…ビュービュー中出しされてるよぉ…♡ あはっ…♡」
 長い腕に強く縛られながら、エミルはシーツに顔を埋めて譫言のように呟く。わけがわからないほどの幸福感の中、その下腹部は自ら吐き出した精液に塗れていた。

 ネッドはエミルを抱き竦めたまま、エミルは未だ穿たれたままで、しばし余韻に浸るように、互いに無言で深く呼吸を続けていた。
 頸に触れるネッドの鼻先が肌を擦る。犬のような仕草に普段のネッドからは想像もつかない幼さを感じ、エミルは密かに笑う。
(なんか、ネッドって、かわいいんだな)
 塔にネッドを迎えに行ったあの日確かに告白は成立したはずなのに、それから一向に手を出してこないことをもどかしく感じていた。
 ビクトルと過ごしたあの夜があまりに妄想通りの大人らしい夜だったから、好き合っていれば行為に至るのは当然だと思っていたし、だからネッドからそれが為されないことが不思議で、彼の気持ちを本気で疑いもした。
 思い切って自分から誘ってみればネッドはこうして訪れて、指示しない限り次の動きに移ろうとはしなかったものの、それは気持ちがないのではなく、単にネッドの性分なのだと今は思える。無知な子供のようで、愛らしくも感じられた。
(ネッド、初めて見たときから大人だったから、僕よりずっと大人だと思ってたけど)
 実際は行為の仕方もろくに知らず、怯えるように辿々しい手付きと動作で──想像とは違ったものの、失望はなかった。むしろエミルはその内に眠る支配欲を刺激されてすらいた。
 背後から抱かれるこの体勢も、対面することを恥じらったせいかもしれない。そう考えると俄然愛しさが込み上げる。
 力の抜けた身体をもぞもぞと起こそうとすると、ネッドはようやくエミルの中から身を引き、彼の上から退こうとする。エミルはごく小さな動作で体を反転させて仰向けになると、ネッドの首に腕を絡め、離すまいと再び自らのもとに引き寄せた。
「……!」
 真っ直ぐに見上げる瞳から、ネッドは逃げるように視線を逸らす。
「ネッド。僕は汚れている?」
「え……?」
 掠れるような声だった。まだ頭がぼうっとして、エミルの言葉の意図を理解できない。
「おまえが言ったんだろ。今日やる前にさ、僕を汚すみたいに思ったって」
「ああ……」
 今日口に出すまでも、エミルとの触れ合いに不純な欲が混じり込むと感じるたび、昔から散々思ってきたことだ。
「僕は汚れた? 嫌いになった?」
「そんな……!」
 ネッドは首を横に振る。しかし自分の考えはそういうことだったろうとも改めて思う。エミルを神聖視するのに近い想いを抱きつつ、自分の行いによってそれが失われると感じていた。それは一種の傲慢ではないだろうか。
「そんなこと、ないです……」
 項垂れながらまだ細い首筋に顔を埋める、それをエミルは包むように抱く。幼い頃は首に回すだけだった腕で、今なら頭ごと抱えられる。事実に満足しながらネッドの頭を撫で、白銀の髪に指を絡めた。
「あったかい?」
「ええ……」
 ネッドは弱く呟く。動悸がする。暖かくて愛おしくて、なぜだか泣きたいような気持ちで、小さな体の形を確かめるように、細く長い腕でしっかりとエミルを抱き締めていた。
(ネッド、本当はずっと寂しかった?)
 縋るようだ、と思った。ネッドの過去について簡単に聞いた話が頭を過るが、覗くべきところではないような気もして、声には出せなかった。
「ネッド」
 柔らかな声が呼んでいる。あまりに心地よくて、返事もできずにただ耳に残った響きをなぞっていた。
「好きだよ」
「私も……です……」
 仰いだ顔はよく知ったものとは全く違って見えた。「もう大人だ」と何度言われても便宜上のこととしか思えなかったが、わかっていなかったのは自分の方だったかもしれない。
 太陽のような存在だと思っていた。しかし今は月にも見える。どちらにしてもエミルはエミルでしかなくて、だからきっと何が起ころうがこの想いにも変わりはないのだろう。

 日課の学習の時間、今日の監督者は印術師のヨハンだ。付き合い自体はネッドよりも長く、常に落ち着いていて、大人として信頼できる話相手だった。
「昔さ、僕に『いろんな人を知って、いろんな人と関わって大人になるんだよ』みたいな話したの覚えてる? あれヨハンだったよね?」
「若が学校に通い始めた少し後くらいでしたかね」
「そうそう。最初のころ学校の勉強が簡単すぎてさ! 周りの子が珍しがって群がってくるのもめんどくさくて、学校行く意味あるのかなって思って」
「なぜそれを今更?」
「だったら、あんまり人と関わってこなかったら、実は大人じゃないんじゃ?」
 ヨハンは渋い顔をする。エミルの身近にある、彼の言う通りの人物にすぐに思い当たったせいだ。
「大人じゃないというのは暴論ですけど……」
 ベルシク・ネッド。幼少時のエミルがいたく気に入って無理やり城に呼びつけた呪術師だ。そもヨハンは対人関係の良好な呪術師の話など聞いたことがなかったし、人の精神に感応する能力といい、一種特殊な人種なのだと思っている。つまりネッドの在り方については個性と割り切っていて良しも悪しもないのだが、ごく率直な意見を述べてしまえば
「情緒的な部分については幼いといえるかもしれません……ね」
 エミルは特別な存在ではあるが、幼いエミルにネッドが完全に絆されてしまったのはそれだけのせいではなかったと思う。ある意味で同等だった──とまで言うのはさすがに無礼だろうか。
「そっか! あいつ偉そうなこというけどほんとは子供なんだな!」
 望む答えが得られたとばかり、エミルは眉を釣り上げて満足げに笑う。
「私はそこまで言ってませんからね!?」
 今更ネッドのことを特別恐れるわけでもないが、城に勤める大人同士、知られては気まずいと思うことがあるのも事実だ。
「大丈夫だって、僕口硬いんだから♪」
 歌うように軽やかな言葉に信憑性は全くない。胃が痛かった。

「ネッド♪ こっちにおいで♪」
 寝室を訪れると機嫌良く笑った、エミルは数日前と同じようにサイドボードに飲み掛けのワイングラスを置いて、微かに頬を染めながらベッドの上にしなだれていた。近くに歩み寄り、促されるままベッドに腰掛けると、エミルは寝転がったままでネッドの腰に腕を回す。
「僕ね、ネッドに一目惚れしたときネッドのことなんにも知らなかったんだけど」
「ひ、一目惚れ!?」
「そうだよ。だって、そういうことだろ?」
 無論、ネッドに初めて出会った幼い日にそんな言葉を知っていたわけではない。しかし彼を一目で気に入ったこと、その後何の疑問もなく育っていった感情と欲求、後になって考えれば一目惚れだったとしか言いようがないのだ。
「し、知りませんよ、私は何も……」
「まぁ何でもいいんだけどさ。何も知らないで好きになったのに、新しいこと知っても改めて好きなのってすごくない?」
「え? ……えぇ?」
 エミルと日々接していたところで、元来コミュニケーションの不得手なネッドの感情の処理能力は高くない。次々浴びせられる好きの言葉に、頭がぼうっとして働かなくなって、わけがわからなくなってくる。
「日々探求ってことだよね♪」
「はぁ……」
 何が? 何を? とも思うが、どのみちこの愛らしい主には抗えない。大人しく従うに限る。
「というわけで、ネッドにもこれを見せてあげよう♪」
 エミルが勿体ぶって枕の下から引っ張り出したのは、いかにもふしだらな表紙絵とピンク色の不穏な見出しが躍る本だった。
「わ、若っなんてものをっ! どこでこんなっ……!」
「どこだっていいじゃないか♪ ねえ、今日は正常位でしてみよう♪ 顔が見えてキスもできる、ラブラブな体位なのだよ♪」
「う……」
 見せつけられたページの、仰向けであけっぴろげに股を開いた挿絵に目眩がして額を押さえる。
(若……若がこんな……)
 浮かない反応を気にも留めず、エミルはネッドの身体を抱えて引き倒す。
「あぁ……」
(そんな困ったみたいな声出したって、もう知ってるんだ)
 くちづければ抗わずに応じ、下腹部に膝を押し付ければ既に隆々とした硬い感触があった。エミルは満足げに、艶やかに微笑む。
(僕は夜ごと子供のきみに触れよう)
 指先と舌を絡めて、皮膚の下に潜って。

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