ミス翔陽、痴漢電車に乗る

 甘い香りのリップをひくと、薄くだけ色づいたつややかな唇が、自然と弧を描いた。
(うーん、我ながら今日もかわいい)
 鏡の中で微笑するのは、三年連続ミス翔陽・藤真健司。つまりオレ。
 カールさせたまつ毛と内側に跳ねたミディアムヘアが、普段よりいっそう目を大きく、顔を小さく見せてる。ハーフウィッグってやつで、前髪は地毛だからヅラっぽくなく自然だ。メイクはほんのりチークだけだが、自分がかわいくなっていくのが面白くて、化粧に時間を掛ける女の気持ちもちょっとわかる気がする。
 服装はいつものっつうか、制服のプリーツスカートにワイシャツに、首にはそれっぽいリボン。それから花形のお古のニットカーディガン。これがまた、オレの肩幅(そんなにないが)を隠して華奢に見せる絶妙なオーバーサイズで、かわいいって評判だったやつだ。
 トイレから出てくとき、入れ違いになったおっさんがぎょっとして入り口の表示を見直してたが、ちゃんと男子トイレだから安心してほしい。
 帰宅ラッシュの時間は過ぎてて、駅構内に人はいないってわけじゃないが多くはなく。音がよく通るせいで、すれ違った女二人組の会話がばっちり聞こえた。
「今の人かわい〜! モデルさんかな?」
「かも、背高かったし!」
 花形あたりが隣にいると身長もごまかされるんだが、ハーフっぽいって言われる顔のせいか、一人でいてもまあ男には見えないらしい。〝ハマの非実在美少女〟とはオレのことだ。
 とはいえ、別にオレの趣味でやってるわけじゃない。牧のリクエストだ。あいつは高校バスケでは神奈川の帝王だとか逸材だとか高く評価されてるが、素は天然ボケのド変態だった。
 翔陽祭のミス翔陽コンテストで優勝したオレに一目惚れしたのが一年のとき。告ってきたのが二年の翔陽祭。いったんは拒否ったものの、大真面目な顔でトチ狂ったこと言ってくるのと、弱みを握ったみたいで面白くて、興味本位でOKした。それからいろいろあって、オレもアナルセックスにドハマりして今に至る。しょうがねえだろ、お年ごろなんだから。若気の至りってやつだ。

 ホームに着いた電車に乗ると、人はまばらだった。座席の空きもあったが、一直線に向かい側──進行方向に対して左側──のドア横に陣取って、すぐ横の座席の仕切りに体を預ける。通路から顔を背けるように、動きだしたドアの外を眺めた。
(あぁ……やばい……)
 女装して出かけるのは初めてじゃないが、今日は尻にアナルプラグが入ってる。もちろん牧の要望だ。エグいやつじゃなくてお出かけ用のやつだけど……いや、お出かけ用のプラグってなんだよ!? ってオレも言ったけど。でも牧がしょ〜〜もない妄想しながらこれ買ってきたんだなって思ったら面白かったから、仕方なく使ってやることにした。電動だけど電源は入れてなくて、リモコンはパンツの腹のゴムに挟んでテーピングで肌に固定してる。スカートは短いっちゃ短いが、外から尻が、ましてプラグが見えるようなもんじゃない。だが、よからぬことをしてる感がすごくて、不自然じゃないかな、実は誰か気づいてるんじゃって思うと……
(すっげー、興奮する……)
 プラグもしばらく挿れてると慣れるっつうか、入ってるだけでめちゃ感じるってわけじゃないんだが、いったん意識がそっちに向くとダメだった。
「はぁっ…」
 大したことない揺れでも穴を刺激されて、うっかり締めつけちまうと余計に感じて──ドア横に体をくっつけてるせいで揺れが伝わりやすいんだが、寄りかからないで脚に力を入れて立ってられる自信もない。
 女モノのパンツに窮屈に収めたちんぽがパンパンになってるのがわかる。牧に会ったら即ハメコースだな。行儀よくご飯からなんて無理だ。
 頬が熱い。尻の穴がじゅんじゅんする。頭がぼうっとして、電車のアナウンスも、なんか言ってんな〜ってくらいで通り過ぎてく。
 少しすると電車が停まって、オレがいるのとは逆のドアが開いた。人が乗り込んでくるどすどすとした足音と振動から、見なくても混んでるのがわかる。
 オレはそれに背中を向け、近くのドアにほとんどくっつくくらい体を寄せた。少しでもスペース空けるのもあるし、乗ってきた人と至近距離で顔を付き合わせるのも嫌だし。
「っっ!?」
 思った以上の勢いで後ろから人がぶつかって、オレの背中に伸しかかるように密着してきた。広い胸の感じ、結構大柄な男だ。混んでる電車じゃある程度は仕方ないが、これって〝ある程度〟なんだろうか。ちょっと視線を動かした限り、横もどこもぎゅうぎゅうだけど──電車が動きだすと、オレはすぐに異変に気付いた。太ももの後ろに硬いものが当たってる。形状っていうか熱っていうか、とにかくカバンとかじゃないと思う。
(まあ、ただの事故っつうか……)
 その気がなくたって、擦れて勃っちまうことだってあるだろう。そう思いたかったが
(いや、故意だわな、これは……)
 擦り付けるように、ぐいぐい押し付けられてる。耳の後ろの髪に突っ込まれた鼻が、フーフー荒く息をしててすげー気持ち悪い。絶対わざとだ。
「ッ…!!」
 硬い手のひらが、太ももをさわりと撫で上げる。やっぱり痴漢じゃねえか! オレが普段の男の格好してるか、本当に女だったら声を上げたかもしれない。だが今はそういうわけにもいかない。見た目はかわいくたって喋ったら男の声だ、(しかも尻にプラグが挿入ってるし)痴漢よりオレの変態さのほうが目立っちまう。
 男の手はさらにスカートの中を上って、パンツ越しに尻をするする撫でた。
「ンッ♡」
(やめろっ、今そこはやばいっ!)
 きゅっと尻が締まったのと一緒に体が不自然に跳ねちまったが、オレの危惧をよそに、手は股の下に伸びていった。まあ、普通の男は尻の穴にはそんなに興味ないか。そして、手が向かう先には女にはないモノが付いてる。痴漢には残念、ご愁傷様ってところだな。だが──
「はぅっ!?」
 そいつはオレの玉をしっかりと、確認するように握ってきた。指を伸ばして竿の根っこにも触れて撫で回す。思わず声を上げそうになって、オレは慌てて両手で自分の口を塞いだ。確信を得た痴漢の手は、尻の割れ目を辿ると簡単にプラグの存在に気付いて、押し込む動作をする。
「ひぐっ!」
 ストッパーというか、それ以上挿入っていかない形状にはなってるが、刺激されたら当然感じる。耳に湿っぽい息が当たって、笑いを含んだ低い声がした。
「とんだ変態だな。こんな格好で電車乗って、痴漢されるの待ってたんだろう?」
 声を出すわけにもいかず、オレは口を押さえたまま首を横に振る。
「じゃあ、彼氏から命令されたのかな」
(彼氏じゃねえしっ! 従ってるんじゃなくて面白がって付き合ってるだけだしっ!!)
 内容もむかつくが、周りにバレないように耳のすげえ近くで喋ってくるから、唇が当たって、ゾクゾクして、尻穴もきゅんきゅんして──
「リモコンみっけ」
 痴漢は嬉しそうに呟くとプラグのリモコンのダイヤルを回した。
「んくッ!!」
 ブルブル、ぐいんぐいん中がかき回される。やばい。やばいって電車の中でこんな!
「ぅんっ、んんっ♡」
 ダメだ、いけないって思うほど興奮して感じてしまう。音は聞こえない、気がする。電車の音にかき消されてるんだろう。
 痴漢はオレの体に腕を回して後ろから覆うみたいに抱きすくめると、耳もとに囁く。
「俺が隠しててやる。お前が声を出さない限りはバレない」
 確かにオレは痴漢の陰になってるだろうし、他の乗客はイヤホンでなんか聴いてたり、狭いのに器用に新聞読んでたりでこっちを見てる気配はない。パズルみたいに一度収まったポジションから、わざわざ姿勢を変える気もしないだろう。
 だったら声が出ないようにプラグを止めてほしいんだが、相手は痴漢だ、そう簡単にはいかない。
「っ…!」
 男の手のひらが、シャツの下から入り込んで直接腹を撫でる。それだけで感じて腹が震えるんだが、手は容赦なく這い上って胸をまさぐり、ガン勃ちの乳首を指先で擦り潰した。
「っんくッ! っん、んンッ♡」
 乳首は本当にダメだ。乳首と尻穴を一緒に弄られてると尋常じゃなく気持ちよくて、オレって本当は女なのかも、もうどうにでもしてくれ! って気分になっちまう。
 そんな考えがバレたか、もの欲しそうにしてしまったのか、痴漢のもう一方の手が尻肉を開いたり閉じたりして好き勝手に揉みしだく。
「ッ〜〜〜♡♡♡」
 プラグの当たりかたが変わって堪んなく気持ちいい。オレは口を塞いで悶絶した。
 いつの間にか、痴漢のちんぽがズボン越しじゃなくて直に太ももに当たってる。熱くてでっかくて、硬いちんぽの感触に、プラグじゃ届かない奥の奥がきゅうっと疼く。ソレでズポズポされたらどんなに気持ちいいだろうとか、つい変態なことを考えてしまう。
『──次は○○、○○です。お出口は右側です』
 電車が停まるのと一緒にプラグの動作も止まった。開いたドアはまだ逆側。目的の駅までこっちは開かないはずで、他の乗客もまだ詰まってる。
「ふぁっ…♡」
 パンツを下ろされプラグを抜かれて、思わず少し声が漏れたが、発車ベルやらに紛れて周りには聞こえなかっただろう……と思う。
「っっ!」
 先走りかツバか、濡れた感触と一緒に痴漢のちんぽが尻の間に擦り付けられる。エグい存在感に、思わず声が出そうになってしまった。発車の揺れと同時に、張り出した先っぽがぐっと押し付けられ押し込まれる。
「うぐっ、うぅぅっ…!」
 腹から口に押し出されるように呻きが漏れたが、鈍い痛みもはち切れそうな危うさも入り口だけだ。牧とやるために準備万端だったオレの尻穴は、なすすべなく痴漢ちんぽを受け容れていく。
「っく、ふっ……!」
 熱い。がちがちになった痴漢ちんぽが、ゆっくり肉を抉りながらめり込んでくる。
(あぁ……)
 ガタンゴトン、電車は走って外の景色が流れてる。すぐ近くに人もいるのに、オレはパンツを下ろされて尻にちんぽを突っ込まれてる。異様な状況を思うと頭がおかしくなりそうなのに、体はまるでそれを待ちかねてたみたいに、全身の血が沸いて体じゅうから汗が滲んでる。
「くンッ♡」
「入ったぞ」
 言われなくたって、尻に相手の下腹が当たって、根っこまで挿入ってるんだってわかる。想像どおりのでかさだ。
「んっ、んぅっ♡」
 ぐっぐっと腰を押し付けられると、S字の入り口に先っぽが擦り付けられて、胸がぎゅっと締めつけられるみたいな堪んない気分になった。だって、オレはもうその気持ちよさを知ってる。
 だがそれ以上期待した感触はこなかった。先っぽが、焦らすみたいに天井を撫でてる。
「どうだ、電車の中で食うチンポは旨いか?」
「うぅっ…」
 そんな下品な煽りにも尻がきゅんってなって、そのせいでいっそうちんぽの存在を感じてしまう。
『この先揺れますのでご注意ください』
「はぅっ♡」
 アナウンスのとおりに電車が揺れだすと、繋がった腰が動いて堪らず声が漏れる。
「っ…はぁっ…♡」
 電車の揺れと一緒に、ぐちぐち少しだけ肉が擦れる。気持ちよくないわけじゃないけど物足りなくて、いっそもっと電車が揺れたらいいのにとか思ってしまう。
「腰が動いてるんじゃないか?」
「電車のせいっ、だしっ…!」
「声でかいぞ」
「むぐっ!」
 痴漢の手が口を押さえてきたから、むかついて噛みついた。オレは話しかけられたから答えただけだし、リップもたぶん擦れて伸びて変になってるし。痴漢は小さく声を漏らしたものの、手は離れない。
『──まもなく××、××です。○○線ご利用の方はお乗り換えください。お出口は右側です』
 次の停車駅は大きめの乗り換え駅だった。一気に人が降りて、少なくともオレの視界からは誰も見えなくなる。振り向こうとしたが、口を塞いだでかい手で顎全体を押さえられてて無理だった。電車が発車する。
「全員降りたな。それじゃやるか」
「ぁぐっ♡」
 ぐっと腰を突き上げられて、高い声が漏れた。顔の向きは固定されたままだが、口を塞いでた手が下にずれてる。他に人がいないんならちょっとくらい声出たって平気だろう。
「全然拒む気がねえな。……いまさらか、こんな格好で電車乗ってんだから」
 スカートをめくり上げられ、丸出しになった尻をぺちぺち叩かれる。
「ひゃぅっ!」
 痛いわけじゃないが、牧からそういう風にされたことなかったから……無性に興奮してしまう。
「あふっ、あ、あぁあっ…♡」
 カリ首を引っ掛けながら抜けてく感触が強烈に気持ちいい。自分の中に入ってる立派なちんぽの姿を想像するだけで軽くイきそうだ。
「ぁんッ!」
 勢いよく押し込まれて、ぶつかった肌が乾いた音を立てる。また抜かれて、挿入れられて──ゆっくり繰り返される長いストロークに、穴の中にまんべんなくちんぽの形を教え込まれるみたいだった。
「はぁっ、あぁッ…♡」
 間違いなく巨根に分類されるだろうそれに、オレは服従するメスみたいな気分で尻を後ろに突き出す。本能……なのか?
「おいおい、俺は痴漢なんだぞ。まあいいか、おらっ!」
 慣らすようだった動きから、ピストンが早く、強くなる。
「あ゛ッ、あん、ぅんっ、んンッ♡」
 前立腺を抉りながら入ってきて、カリ首で直腸を逆撫でながら抜けていく。それを何度も繰り返されるんだから堪らない。あぁ、オレ、電車で女装して尻穴でちんぽしごかれてる……。
「やっぱり腰が動いてるじゃないか」
「ぁんっ、だってっ、…ぁあんッ!」
 何度も突かれてるうち奥がグポッていって、いっそう深くにちんぽが挿入った。
「おぉっ…♡」
 開いちゃった。普通ちんぽが挿入ってるとこより奥にある、直腸S状部ってやつだ。後ろで痴漢がぶるっと震えたのがわかる。オレもたぶんもうダメ。
「っ……すごいな、奥にもう一個口があるみたいだ……」
 ぐぽん、ぐぽん、奥の口に亀頭を出し入れされると、前立腺とも違った強烈な快感が押し寄せる。
「ぅあっ! あぅっ、あぁっ、お゛あッ♡」
 体がおかしくなったみたいに、中が勝手にチン先を締めつけて余計に感じてしまう。痴漢は低く呻きながら容赦なくそこを責め続ける。オレも夢中で腰を振る。
「ひ、あぁっ、あぅっ、あぁっ♡」
 ガタンゴトン、ガタンゴトン、パヂュ、パヂュ、パヂュ、パヂュ──
 パンパン音と粘膜の音の混ざったやつが、電車の音よりでかく聞こえる。アナルとちんぽが擦れるエロくて下品な音。お客がいないからって、こんなの絶対ダメなのにっ♡
「ぁんっ、あ゛っ、おぉっ、んおぉっ♡」
 ぐぽぐぽぐちゅぐちゅ、黒くてでっかい痴漢ちんぽ最高すぎて、オレ、もぉ……
「くンッ、あっ、んぁっ♡ あ゛ぁァーッッ♡♡♡」

「ぁ、あぁ……♡」
 気づくとオレは床に膝をつき、電車のドア横の手すりにしがみついていた。
「これからデートなんだろう? 元に戻しておかないとな」
「あぁっ…あっ…♡」
 甲斐甲斐しい痴漢はオレの尻にプラグを挿し直すと、ウェットティッシュかなんかで股を拭ってパンツを穿かせた。恍惚タイム中のオレはすっかりぼうっとして、されるがままになっていた。
『──次は△△△、△△△です。お出口変わって左側のドアが開きます』
 目的地への到着を告げるアナウンスだけが妙に冴えて頭の中に聞こえて、ドアが開いた瞬間、逃げるようにホームに飛び出してた。コケそうになりながらホームの柱につかまって、目を覚ますように冷たい柱に頬を当てる。(これもまともなときなら絶対やらないことだ)
「ふー……」
 心臓がドクドク、やばいくらい脈打ってる。当たり前だ。メスイキすると途中でわけわかんなくなるのは直したいと思ってるクセだが……果たして直るんだろうか。
 柱を抱いたままで人の気配に振り向くと、牧が小走りに近寄ってきた。
「藤真、すまん、待ったか?」
「あ、牧……」
 うん。なんか牧のこと真正面から見たらようやく落ち着いてきた。
「どうかしたのか? 藤真」
「え? いや、いつまで寸劇を続ける気なんだよ、わざわざ遠いドアから出てきて」
 オレは自分でもわかるくらいのジト目を作って牧の手首を取った。その大きな手には、バッチリとオレの歯形が付いてる。もちろん、ついさっき付けたやつだ──電車の痴漢に。
「なんだ、やっぱり気づいてたのか」
「ったりめえだろ! 本当の痴漢にあそこまでヤらせるかっ!」
 一番最初からじゃないが、体格だって規格外だし、手の色は黒いし、だいたい痴漢した女子高生の中身が男なのに動揺してなかったし。いったん怪しいって思ったら確信するのは簡単だった。
「けど、オレが電車の中で抵抗して騒いでたらどうするつもりだったんだよ」
 そうしたら即正体バラして丸く収めるつもりだったのかもしれない、とは思うけど。
「それは大丈夫だ。あの車両にいた人たちは全員雇われだからな」
「……は?」
 ちょっと、言ってる意味がわからない。
「聞いたことないか? アダルト用途のための車両貸し切りサービス」
「あるわけねえだろっ!」
「ともかく、あの車両は俺たちの貸し切り。乗ってた人たちはモブっつうかキャストっつうか、そういう仕事だから、藤真が多少騒いだって大事にはならない」
「なんつー仕事、なんつー商売……」
 狂ってる。相手が牧ならこういうこともあり得るか……って納得できてしまうのがいちばん狂ってると思う。
「親父いわく、土地バブルは終わりだからこれからの日本はHENTAI産業だそうだ」
「はぁ〜……」
 趣味と実益を兼ねた、て感じ? 金持ち怖えー。とはいえ、雇われだったにしても大勢の人がいるところでヤられてたのは事実なわけで。思いだしたらまた体が熱くなってきて、ケツの穴がじゅんってなった。
「あっ……!?」
 腹の底の違和感に、中をきゅってしたり、脚をもぞもぞさせてみたりして正体を探る。プラグが挿入ってるのはわかるんだが──
「どうした?」
 きょとーんとした顔がむかつく。こいつはいつもそうだ。
「どうした、じゃねえよ。中に出したまんまで栓しただろっ!」
 言ってて恥ずかしいわ。こんな格好してていまさらだけど。
「おお、精液浣腸やってみたかったんだ」
「っ! このっ!! 死ねっ!!!」
 ごく平然と言われて、思わず胸ぐらを掴んでいた。別に本当に死んでほしいわけじゃないけど。
「力むと漏れるぞ」
「っ!!!」
 はー、ほんとこいつ……! だが、力んだり暴れたりするとやばそうなのも確かだ。ちょっと落ち着こう。オレは牧の襟から手を離し、一番近くに見える駅のエスカレーターに向かって歩きだす。うぅ……中がおもっきし濡れてじゅくじゅく擦れて、これは相当な変態行動だ。あんまり意識すると勃起しそう。牧は大股で追いついてオレの隣に並ぶ。
「待ってくれ。どこ行くんだ?」
「トイレ」
「一緒に行こう」
「女子トイレだけど」
「それじゃあ一緒に入れないじゃないか」
「入ってくんな! 余計なモン出してちょっと顔直すだけだから!」
 自分の言葉に自分でハッとなって、牧から顔を背ける。
「顔? 直す必要なんてあるか?」
「……口塞がれたとき、リップが擦れたから」
 たぶん色が落ちたり、唇からはみ出てる感じになってるんじゃないだろうか。牧は無神経だから気づかないだろうけど。
「どれ、見せてみろ」
 のんびりした口調のわりに結構な力で顎をぐいってされて、牧のほうを向かされる。牧はスゥと鼻で息を吸うと、厚い唇を緩めて笑った。
「おいしそうな唇だな」
「んむぅっ……!」
 思いきりキスされて唇を吸われたが、舌が入ってくる前に胸ごと押し返した。あの車両は貸し切りだったとしても、今まばらに通り過ぎてる人は違うはずだ。まあ、男と女の格好だし、キスくらい見られたって平気なのかもしれないけど。
「リップ、使ってくれて嬉しい」
「別に。自分で女モノのリップなんて買わねーし」
 今日つけてるリップは牧から貰ったものだった。嬉しいとか言って、におい嗅ぐまで気づかなかったくせに? とは思うけど。でも照れてるみたいな牧の顔見たら、まあいっかって思った。
 さて、トイレ済ませて顔直したらデートの続きだ。

<了>

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お題は「電車内の痴漢話(イメクラ的な)(牧さんが藤真に痴漢する遊び)」でした。女装とかはただの私の趣味です。ありがとうございました!

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