カップリングなりきり100の質問

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1 あなたの名前を教えてください
牧「牧紳一」
藤「藤真健司」

2 年齢は?
藤「17」
牧「17だ」
藤「タメ年!」
牧「念を押さなくてもいいだろう」

3 性別は?
牧「男以外に見えるんだろうか」
藤「男」

4 貴方の性格は?
牧「難しいな。おおらかとは言われる」
藤「気が強いって言われるけど、これ性格か?」

5 相手の性格は?
牧「かわいい性格をしてる」
藤「お前よく真顔でそんなこと言うね」
牧「いいだろう、カップルへの質問なんだから」
藤「牧の性格は天然だな」
牧「もうちょっとなんかないのか」
藤「鈍感、デリカシーがない」
牧「もう一声」
藤「面倒見がいい」
牧「うーん…」
藤「性欲がすごい」
牧「もう性格じゃないしやめよう」

6 二人の出会いはいつ?どこで?
藤「一年の時」
牧「翔陽との練習試合だな」

7 相手の第一印象は?
藤「こいつほんとに一年かよって思ったな。プレイも、見た目も」
牧「面白いやつがでてきたって思った。初対面が練習試合の中だから、第一印象ってのは大体プレイのことだな。見た目は第二印象くらいだ」

8 相手のどんなところが好き?
牧「見た目も性格も好きだぞ。あんまり突っ込んだこと言うと怒られそうだが、素っ気ないこと言いながら態度からかわいさが滲み出てるときとか最高だ」
藤「それわざと。お前が調子乗るのが面白いから遊んでるんだ」
牧「じゃあ、俺と遊んでくれるところに改めるか」
藤「お前〝と〟じゃなくてお前〝で〟な」
牧「藤真も質問に答えなきゃだめだぞ。相手のどんなところが好きなんだ?」
藤「オレのこと好きなところ」

9 相手のどんなところが嫌い?
藤「いつでも余裕ぶっこいてるところ。大人ぶってるところ」
牧「ぶってるわけではないんだがな。それにお前には結構参らされてる」
藤「オレのどんなところが嫌い?」
牧「嫌いというか、藤真と翔陽の部員との仲が良すぎて不穏な気持ちになる」
藤「逆に仲悪くても心配しねえ?」
牧「するな、それはそれで……」

10 貴方と相手の相性はいいと思う?
牧「もちろん」
藤「オレ嫌いなやつってほんと駄目だから、いいんだと思う」

11 相手のことを何で呼んでる?
牧「藤真」
藤「牧」

12 相手に何て呼ばれたい?
牧「名前でも愛称でもなんでもいいぞ」
藤「別にない。藤真でいい」

13 相手を動物に例えたら何?
藤「牧は犬だな。雪山で首に酒のボトルをつけてる犬」
牧「セントバーナードか?」
藤「たぶんそれ。警察犬みたいなシュッとしてるのもイメージあるけど、でっかくてもふもふでやさしい性格の犬って感じ。オレは?」
牧「ウサギ」
藤「はぁー? 猫じゃねえの? 犬ときたら猫だろ?」
牧「猫っぽくもあるがウサギを推す」
藤「ハンティングの獲物って? 気に食わねえ」
牧「そうだな。いつだって俺はお前を狩りたいと思ってる」
藤「あぁ、そういう話にもってくんだね……」

14 相手にプレゼントをあげるとしたら何をあげる?
牧「欲しいものがあるならなんでも、と思ってるが。気に入ってもらえるほうが嬉しいから一緒に買い物に行きたい」
藤「これすげー困るんだよ。牧ってハイソでセレブじゃん? オレに用意できるもんなんて全部しょーもないゴミみたいなもんなんじゃないかって思う」
牧「そんなこと思わない。藤真が用意してくれたってことが重要なんだ。プレゼントってのはそういうもんだ」
藤「そうなんだろうけど、それにしたって困る。まー、牧が喜びそうなこと頑張って考えてやろうかな」

15 プレゼントをもらうとしたら何がほしい?
藤「時間が欲しい。二人でだらだらできる時間をいっぱい」
牧「……そうだな。まあ、すぐには難しいだろうが、そのうちきっとそうなる」
藤「牧は何が欲しい?」
牧(だらだらできるくらい、時間が余るようになるまで、一緒にいてくれるって約束してほしい)
牧「内緒にしておく」

16 相手に対して不満はある?それはどんなこと?
牧「もっとなんでも話して欲しい」
藤「それは無理だな。ハイこの話終わり」
牧「お前にはお前特有のきついことだってあるんじゃないかと思ってる」
藤「将来昔話をしてやることくらいはあるかもな。もうしばらくはカッコつけさせろ」
牧「そうか……わかった。じゃあ、お前の俺への不満はなんだ?」
藤「不満ある前提かよ?」
牧「ベストは尽くしてるつもりだが、あるんじゃないかと」
藤「ないよ」
牧「いや待て、なんかあるだろう?」
藤「ないってば。海南の練習のきつい中、よくオレに付き合ってんなーって思ってるし」
牧「……逆に不安になるんだが」

17 貴方の癖って何?
牧「聞いてもないのに試合の解説をしはじめる、と言われたことがある」
藤「シュミ兼クセだな」
牧「嫌がられてるんだろうか?」
藤「別にいんじゃね?(どうでもいい)」
藤「オレの癖は……ジャケットに袖通さないとか? 別に癖じゃないんだけどな。めんどくさいだけで」

18 相手の癖って何?
藤「徘徊癖がある」
牧「年寄りみたいに言わないでくれ。散策が好きなだけだ」
藤「オレの癖はなんかある?」
牧「言ったらしなくなりそうだから言わない」
藤「してほしいやつなんだ?」
牧「ああ、かわいいと思ってるやつだ」

19 相手のすること(癖など)でされて嫌なことは?
藤「キスしながらツバ流し込んでくるの嫌い」
牧「!! あれ嫌だったのか、すまん……」
藤「牧もなんか嫌なことあるんだろ、この際だから言っとけよ」
牧「嫌だったのか……言ってくれればよかったのに……」
藤「おいこんなとこでガチ凹みすんなよ。別にそんなめちゃくちゃ嫌なわけでもなかったから我慢してたんだよ」
牧「我慢してたのか……」
藤「牧の! 嫌なことを言え!!!」
牧「我慢してないで早めに言ってほしい」

20 貴方のすること(癖など)で相手が怒ることは何?
牧「不意に襲うとものすごく怒られるな。腹にパンチされて本気めに拒絶される」
藤「当たり前だろ。牧はオレが他の男と仲良くしてると怒るっていうか機嫌悪い感じだよな」
牧「それはしょうがないだろう」
藤「そうかな。オレは牧のそういう状況に遭遇したらどう思うのかな。ちょっと興味あるかも」

21 二人はどこまでの関係?
牧「前の質問の時点で答えが出てしまってるが」
藤「やることやってる関係」

22 二人の初デートはどこ?
牧「最初に家に来たのからデートのカウントに入るのか?」
藤「おうちデートだなぁ」

23 その時の二人の雰囲気は?
藤「牧はちょっとヘンだったけど、日頃の様子そこまで知らなかったから、あの時の牧がどういう状態なのかって勘繰るまではいけなかった」
牧「緊張してたんだと思う。それから多分困ってた。何話せばいいんだと思って」
藤「オレはどんな感じに見えた?」
牧「藤真がうちにいる! っていうよくわからん実感がすごかった記憶だけあって、お前の様子が具体的にどうだったとかは全然覚えてない」

24 その時どこまで進んだ?
藤「手を握ってキスして、一緒にシャワー浴びて、最後までやったな!」
牧「もうあれはやるしかない状況だった」

25 よく行くデートスポットは?
藤「牧の家」
牧「今のところそうなってしまうな。別のところにも行きたいと思ってるんだが」
藤「なかなか時間が取れないからな」

26 相手の誕生日。どう演出する?
藤「普通でいいんじゃん? 丸一日一緒にいてお泊まりもできるといいなってくらい」
牧「いい店を予約して、いいホテルを取って……まあこれも普通といえば普通かもしれないな」

27 告白はどちらから?
藤「牧ってオレのこと好きなの? ってオレが聞いたんだよな。告白としたらどっちからっていうんだ?」
牧「それは気持ちの確認であって、付き合ってくれって言ったのが告白なんじゃないか? それだと俺ってことになる」

28 相手のことを、どれくらい好き?
藤「ちんぽしゃぶるくらい好き」
牧「じゃあ俺は尻の穴を舐めるくらい好きだ」
藤「……多分求められてるのはこういう答えではないよな」

29 では、愛してる?
藤「んじゃない? 愛ってなんだって話になるけど」
牧「愛してる」
藤「うさんくさ」(といいつつ少し嬉しそう)

30 言われると弱い相手の一言は?
牧「ガツンとくることはよくあるが、特定の一言ってのはないな」
藤「好きだ、って言われると、そうなのかよしょーがねーなってなる」

31 相手に浮気の疑惑が! どうする?
藤「ブチギレて追求すると思うけど。でも浮気が終わっても終わんなくても、そこでめちゃめちゃ萎えてるような気がする。別れるかも」
牧「男なら追求して話し合うな。俺のどこが不満だったのか教えてくれって。女だったら諦めて別れると思う」
藤「それ! 女だったらなぁ。しょうがないかって思うよな。やっぱ子供とか欲しいのかなとか……」
牧「……場がものすごく重い空気になったな。例え話で出しただけで、実際そんな願望は一切ないぞ」
藤「オレだってそうだ」

32 浮気を許せる?
藤「無理。別れる」
牧「正直、事情による。相手が男の場合限定だが、たとえば俺がずっと構ってやれなくて藤真が寂しくて他の男と……とか、俺に原因があるなら怒れないと思う」
藤「昼ドラかエロ漫画の見過ぎ」

33 相手がデートに1時間遅れた! どうする?
藤「30分くらいで帰ってると思う」
牧「待ってる。多分怒るより心配してると思う」

34 相手の身体の一部で一番好きなのはどこ?
藤「泣きボクロ!」
牧「身体の一部、なのか……?
藤「じゃない? 大好き」
牧「そ、そんなにか? 俺は目かな」
藤「ベタだな」
牧「全部好きだけどな」

35 相手の色っぽい仕種ってどんなの?
藤「仕草ってより表情とか目つきで、こいつほんとエロいな〜ってなる」
牧「そんなにやらしい顔してるか?」
藤「だらしないとかってことじゃない。セクシーって意味」
牧「藤真は、上目遣いだな」
藤「ベタ! ちょろい!」
牧「しょうがないだろう」

36 二人でいてドキっとするのはどんな時?
牧「唇舐めたり、なんかの拍子に舌が見えたとき」
藤「それ絶対無意識だけど」
牧「だろうな。でもムラッとくる」
藤「オレは、不意に手が触れたとき」
牧「ピュアだな?」
藤「そうだよ?」

37 相手に嘘をつける? 嘘はうまい?
藤「嘘が下手で監督なんてやってられるか」
牧「俺は藤真に嘘をつく必要性を感じないからな」
藤「多分、ついたら下手だと思う。牧は」

38 何をしている時が一番幸せ?
藤「バスケ!」
牧「そうだな。藤真とのマッチアップをいつも楽しみにしてる」

39 ケンカをしたことがある?
牧「結構ひどいことはしょっちゅう言われてるが。どこから喧嘩になるんだろうな」
藤「ガチ喧嘩はなくないか?」

40 どんなケンカをするの?
藤「なんだかんだいってオレって大人だからな。意地張ったり言い合ったりしても、そろそろやばいかなってなったら適当なとこで気が済んで折れるよ」
牧「ストレス解消か」

41 どうやって仲直りするの?
藤「でも本当は好きだよ♡ って言ってセックスする」
牧「うむ……」

42 生まれ変わっても恋人になりたい?
牧「まず一緒のチームになってから恋人になりたい」
藤「一緒のチームで共存できるかな? お前の控えとか絶対嫌だぞ」
牧「お前は器用だからいけるだろ。俺も他のポジでもいけるだろうし、そもそも生まれ変わってるから今と全く同じでもない」

43 「愛されているなぁ」と感じるのはどんな時?
藤「ワガママとか無理いっても受け入れてくれてるとき。だいたいいつもだけど、意味わかんないくらい優しいなって思う。その意味わかんないのが多分愛なんだと思う」
牧「あんまりストレートじゃないんだが、言葉とか行動の裏に俺への気遣いが見えるとき」

44 「もしかして愛されていないんじゃ・・・」と感じるのはどんな時?
藤「愛されてて当然って思ってる、傲慢な質問だ」
牧「その受け取り方はひねくれすぎじゃないか? カップルへの質問なんだぞ」
藤「そうかな。お前の回答はどうなんだよ」
牧「厳しいことばっかり言われるとき」
藤「慣れろよ」
牧「わかってるつもりだが、たまに不安になる」

45 貴方の愛の表現方法はどんなの?
牧「全部受け入れること。あとはまあ、キスとか、その先……」
藤「奇遇、オレも受け入れることって思ってんだよね。どっちもウケかよ」

46 もし死ぬなら相手より先がいい? 後がいい?
藤「先がいい」
牧「一緒がいいな」
藤「それいいな。見送ってもらえないけど、残った方が悲しいに決まってるんだし」
牧(俺が先立ったら藤真は悲しいのか……)

47 二人の間に隠し事はある?
藤「そもそも全部さらけ出すべきだとも思ってない」
牧「俺がお前に隠してることがあっても気にならないのか?」
藤「必要なら追求するんだろうけど、個人の領域は守られるべきだと思ってる」
牧「程度によるって感じか」
藤「そうかも」

48 貴方のコンプレックスは何?
牧「老け顔」
藤「女顔」

49 二人の仲は周りの人に公認? 極秘?
藤「今のところ言ってない」
牧「今のところ?」
藤「具体的に言う予定があるわけじゃないけど、信用できる相手になら、必要があれば、明かしてもいいと思ってる」
牧「……そうだな」

50 二人の愛は永遠だと思う?
牧「思う」
藤「思わない」
牧「お前はそうだよな」
藤「永遠なんてないよ」
牧「何を言おうが思おうが、一緒に過ごしてる時間が全てだ」

年下の男の子

「よっこらせ……っと」
 買ってきた米袋を仕舞い込みながら牧が思わず発した一言を、藤真は聞き逃さなかった。
「お前、またおっさんみたいなこと言って。ちょっとは十七の自覚を持てよ」
 腰に手を当て、真っ直ぐにこちらを見て何の迷いもなく言い放つ。コートの端から指示を出している、凛とした姿を思いだす。
「藤真……」
「オレはお前が老け顔だってイジられてるのを悲しく思ってるんだ。お前がいいんなら別にいいけど、ほんとは嫌がってるの知ってるからな。見た目は簡単に変えられないんだから、せめて言動に気をつけるべきなんじゃないか?」
 親身な言葉に、牧の視線が落ち着かない様子で泳ぐ。コートの内では堂々と、外では悠々としている彼にしては非常に珍しい仕草だ。良心の呵責──迷った時間はごく短いものだった。
「藤真、実は俺は……」
 言って楽になってしまおうと決めたのに、なおも口籠ってしまう。だが、言わねばならないだろう。
「十七じゃないんだ……」
「えっ? やっぱりダブ」
「十六なんだ」
「はっ???? なんで?????」
 反射的に口からこぼれた言葉を重い口調で遮られ、言っている意味がわからない、と藤真は頭の上に大量のクエスチョンマークを飛ばす。
「三月生まれだからだ」
「あっ……、へー……?」
 藤真は驚くとも納得するともいえない至極微妙な反応を示した。冷やかしてからかう気がないというだけで、〝年上に見えるけどタメ年〟と思っていたものが実際は年下だと言われればやはり戸惑ってしまう。
「いやまあ、年下っても同級生じゃんな?」
「ああ、高校二年の同級生だ」
 藤真は牧をまじまじと見ながら指を折ってふむふむと頷く。こういった芝居掛かった動作をすると藤真は本当に愛らしい。牧は相好を崩した。
「でもオレと七ヶ月も違うならやっぱり年下だな。あー、そう言われればわかる。お前結構甘えんぼだもんな!」
 にこりと笑って牧の頭を撫で始めた。
「そうか?」
 牧は撫でやすいように頭を傾けて、されるがままになっている。
「うん。なんかときどきすげーかわいいときあるし、セックスのとき『待て』ができないし、オレのおっぱい吸うの好きじゃん」
「おっぱいはお前が感じるからだぞ」
「なんで今まで黙ってたんだ? 牧とオレが同い年だなんて話はよく出てきたと思うけど、早生まれは初めて聞いた」
 こうなってしまってはためらいも恥じらいもない。思っていたままを吐露するだけだ。
「同級生ってだけでいじられるのに、更にいじるネタを提供したくはなかった」
「うんうん、そうだよな、みんなお前の気持ちも考えないで面白がって。かわいそうな牧」
 藤真は悲しげに眉根を寄せ、牧をぎゅうと抱いてよしよしと背中を撫でた。別の方向ではあるが、彼も見た目をネタにされることに辟易しているゆえの反応なのだろう。それにしても
「藤真、本当に年下が好きなんだな……」
 藤真の施しを心地よく感じつつも、牧の表情には困惑が入り混じる。
 やや厳しめに説教をくれていたというのに、年下だと判明した途端に優しくなった。こんなことならもっと早くに打ち明けるべきだった。
「本当にって?」
「陵南の仙道のことかわいがってるだろう」
 いや、仙道から懐いたのだろうか。どちらにしろ、親しげにしていることが以前から気になっていた。口を出しては寧ろおかしな話になりそうだと黙っていたが、今の藤真は優しくなっているので言っても許される気がした。
「だって仙道かわいいじゃん。ていうか後輩はかわいがるもんだろ」
 どうしてそんなことを言うのか? と言わんばかりに、藤真は訝しげな上目遣いをこちらに送ってくる。大した身長差でもないだろうに、相手を見上げる仕草が癖になっているようだ。お前の方がかわいい、と言いたかった。
「翔陽のやつをかわいがってやればいいだろう」
「オレの立場上、ウチのやつらにはある程度平等に接しないといけない。一年の時点で『監督に贔屓されてる』なんて評判になってもろくなことないぞ」
「ああ……」
 それはまさしく一年のときの藤真の実体験だったはずで、牧は弱い同意の声を発することしかできなかった。話題を変えたいついでに、もう一つ思いだしたことがある。
「カズシってやつは?」
「二月生まれ」
「ああ……!」
 藤真からなぜか一人だけ下の名前で呼ばれている翔陽の二年について、その現場に遭遇するたび不思議に思っていたが、今ものすごく納得できた。そして勝ち誇った気分で宣言する。
「俺の方がカズシより一ヶ月年下だぞ」
「そうだなシンイチ! シンちゃん! ……いや、やっぱ牧は牧だな」
 正直なところ、シンちゃん呼びには少しときめいてしまったので、藤真の言う通り『結構甘えんぼ』なのかもしれない。藤真の気分が変わってしまわないうちに、今日は存分に甘えることにしよう。

国体合宿の夜 2

2.After Party

 部屋まで抱えて運んできた藤真をベッドの上に放り投げ、牧は深い溜め息を吐いた。
「まったく、お前が酒盛りの場に居合わせるとは何事だ」
 仙道にくっついて──半ば抱かれるようになっていた藤真を見て瞬間的に沸いた憤りは、ゆっくりと歩くうちに落ち着いていた。だからもう少し真面目な小言を言っておく。
「そんなの、よくあることじゃねーか」
 良いわけはないが、よくあることと言ってしまえばそれまでの、慣習めいたものではある。
「だからって」
「オレだって学生気分でわいわいしたいやい!」
 まだ酔っているようで、頬は赤く、口調は舌足らずの子供のようだった。しかし酔っ払いの戯言と一蹴することもできず、牧は黙り込む。
 翔陽バスケ部のうちでは、藤真はいち選手としてだけは居られない。そんな彼の、それは密かな願望なのかもしれない。
 藤真とはかなり──体を重ねるほど──親しい自負があるが、その類の言葉は初めて聞いた。むしろ言わないようにしているのだと思う。
 酔って口が軽くなっているのなら、常には聞けない彼の心も探れるのだろうか、そう考えて、自分に対して首を振った。少なくとも自分たちがライバル校に所属しているうちには、それは藤真の望むところではないと思う。
「辛気くせーカオ」
 牧の内心も知らず、藤真は無防備にベッドに仰向けになり、どこかぼんやりとした様子で見上げてくる。
「……楽しかったか?」
「楽しかった」
 花の綻ぶように笑う、とは本の中での表現だと思っていたが実在するのだ。藤真と出会ってから知ったことだ。
「ならよかった」
 ふわふわとした笑みを眺めていると、それだけでいいような気がしてしまう。
 少し前の怒りも忘れて穏やかな気持ちになっていると、藤真が手を掴んで引っ張ってきた。
「なんだ?」
「エッチしよ」
 赤い顔で、いまいち力の入らない様子の身体をベッドの上に投げ出して。ハーフパンツから覗く白い脚が膝を立てたのが、いかにも誘うようだった。ぐらつく理性を押さえて、なんとか絞り出す。
「……酔っ払いとはしない」
「じゃあ酔いを覚ましてくる」
 ベッドを降りてふらふらと掃き出し窓に向かうのを、慌てて後ろから羽交い締めにする。
「おい、風邪引くぞ」
 部屋の中は暖かいため薄着でいるが、外はもう随分と寒いのだ。大して抵抗する力のない相手を抑えるのは簡単で、藤真は再びベッドに放り投げられてしまう。
「お姫様抱っこされたとき、密かにドキドキしてたんだぞ。そんな勿体つけたことして、折角のお泊まりに何もなしだなんてあんまりだ」
 ドキドキしながら仙道に手を振っていたのか? と言いたくなったがやめた。私的な時間に藤真の口から仙道のことをあまり聞きたくはない。
「台無しにしたのはお前だ」
「……」
 藤真が黙ってしまうと、途端、言い過ぎたかと自責の念が湧いてくる。言い負かしたかったわけではないのだ。理不尽でもいいから言い返して欲しい。
 あまりに静かなので、眠ったのかと藤真の顔を覗きに行くと、思い切り目が合ってしまった。ぱちぱちと瞬きをする動作だけで、悔しいが可愛らしい。
「なに? やる気なった?」
「いや、寝たのかと……」
 望む言葉の得られない藤真は、少しだけ苛立って整った眉の付け根を寄せる。
「寝てたらどうするつもりだったんだよ。寝顔にキス?」
「特にどうということもないが」
「牧、怒ってるよな。だから二人きりなのに何もしてこないんだ」
「誰のせいだと」
「オレのせい。おわり。寝る」
 藤真は布団に潜り込み、牧に背中を向けてしまった。完全にバリアを張られてしまった感はあるが、このまま放っておくこともできない。
「すまん。会話の流れというか、ほんとに責めるつもりじゃあなかった」
 少し前と同じだ。藤真は口が達者だから、なにかにつけ言い返してくるイメージがあって油断していた。誰のせいと言われて他人の名前を出すような人間ではないだろう。
「ううん。やっぱり迂闊だったかなって思ってるし」
「藤真」
 後ろ向きで語られる、素直な言葉が不思議と不穏なものに聞こえる。こっちを向いて欲しい。
「オレはまだ少し、いい子でいなきゃ」
「藤真…!」
 余計なことを言わせてしまった。藤真の言葉がまだ続くものだったのか、それで終わりだったのか、待つよりもただ堪らなくなって、強引に藤真の体を仰向けて唇を塞いでいた。
「んっ……!」
 胸を押し返されて唇を離しても体は退かず、布団を剥ぎ取りベッドの上に乗り上げて藤真を組み敷いた。
「オレ、まだ酔ってるけど」
 言われる通り、まだ頬や目の淵に赤みが差して、やや瞼を落とした目つきは気怠げだ。口調が不満げなのは、言葉で突き放してしまったせいだろう。
「ああ……色っぽいな」
 抱き締めて何度もキスをしながら体を撫でるうち、藤真の息も濡れてくる。押し付け合う下腹部が互いに硬さを帯びていた。
「ウソつき」
「何?」
「やらないっていった」
 しっかりと首に腕を回してきていながら、まだ拗ねたようなことを言っているのが堪らなく可愛い。相手が多少酔っていようが合宿中だろうがどうでもいいと思わせるほどに、強烈に魅力的だ。
「そのつもりだったが、したくなった。……やめるか?」
「やだ。して」
 もう駄目だった。堪らず低く呻いて愛らしい唇を貪る。
「ああ。……悪いヤツだ」
「そうかも」
 不敵に笑う藤真のシャツをたくし上げ、白い腹の上に褐色の手を這わせる。まだ彼を汚す前の、この光景の背徳感はいつになっても潰えない。酔いのせいか肌は微かに汗ばんで、乾いた手のひらに吸い付くようだ。
 大きく喉が鳴る。
「いや、共犯だな」
 熱い肌を重ね、粘膜を擦り合わせ、体液を交えて、二人は到底合宿の夜とは呼べないような時を過ごした。

 翌日の早朝、二人連れ立ってシャワーを浴びに行くと見知った姿が見えた。
「宮城、おはよう!」
 藤真が声を掛けたが、聞こえなかったのかそそくさと出て行ってしまった。
「人違い? じゃないと思うけどな」
 首を傾げる藤真に、牧は目を据わらせる
「昨日酔っ払って変なこと言ったんじゃないのか」
 宮城にとってはどちらかといえば牧の行動のほうが問題だったが、本人に自覚はない。
「さあ? 酔ってたからな!」
 それきり忘れたように鼻歌など歌いながらシャワーを浴びる藤真を横目で見ながら、牧は密かに溜息をつく。
 ともあれ、藤真を避けている分はさほどの問題はないのだ。
 彼を抱いて卑猥な言葉を吐いていた男のことを思い出し、眉間に深い皺を刻んで、誰にともなく頭を横に振った。

<了>

国体合宿の夜 1

1.宮城リョータの受難

 国体に向けた神奈川代表合宿の夜。
 流川が足を踏み入れた、宴会場は既にとっ散らかっていた。
(シクった、帰ろう)
 即座に踵を返そうとするが、明るく上ずった声に呼び止められる。
「お〜! るかわ、やっと来たなぁ!」
 聞き慣れない声だった。見遣れば、白い頬を赤く染めた藤真が仙道にしなだれかかりながら、こちらに向かって手を挙げている。機嫌良さそうに細められた瞳といい、高い声といい、酔っているせいなのはわかるが、どうにもふしだらなものに見えて眉を潜める。
 仙道も仙道で、されるがままというか、むしろ藤真の腰を抱いてしまっている。顔は赤くはないが目はいつもより垂れている。彼も酔っているのだろうか。
「呑め!」
 状況に一瞬怯んだものの、藤真が缶ビールを差し出してくるものだから、反射的にそちらへ歩を進めてしまう。そうしながらようやく室内を一瞥すると、他に残っているメンバーは宮城。と、入り口からは見えなかったが、宮城の傍らで三井が大口を開けて寝ている。
「……どうも」
 缶を受け取り、そそくさと座卓の向こう側にいる宮城の横に行ってしゃがみこむ。彼の前にも缶が並べてあるから、飲んでいないことはないだろうが、素面のように見える。
「なんなんすか、これ」
 日頃からぼそぼそ喋る流川が少し声のトーンを落とせば、向かいの酔っ払い連中には会話の内容は聞こえない。
「なんなんだろうね。オレがここにいるのも多分お前と同じ理由だけど」
 というのは、藤真や仙道と呑みながら話す機会など珍しいと思ったことだ。宮城には単純な興味本位もあったが、流川はバスケに対しては真面目で貪欲な男だから、何か思うところがあったのだろう。
「てか、もうお開きって感じだぜ? なんで今頃?」
「俺が部屋に戻ったとき、桜木が寝てて、起きて」
「あー」
 断片的な流川の言葉からいきさつを把握する。もともと桜木、流川、清田の一年組は揃ってこの宴会に呼ばれていたのだが、たまたま流川だけが捕まらなかった。桜木と清田はこの部屋にいたが、じき酔っ払って下らないことで喧嘩をしながら出て行ってしまった。その後おそらく桜木は部屋で眠りこけ、目を覚ましたところで流川にこの部屋のことを伝えたのだろう。
「……あれは、大丈夫なのか?」
 流川がちらりと目で指したのは藤真だ。具合が悪そうには見えないが、完全に酔っ払っていて、普段──といっても流川はバスケ関連の場での彼しか知らないが──の様子など見る影もない。隣にいる仙道がまた信用ならない、と流川は思う。
「おう……そういうわけで意外とお人好しのオレはここから動けないでいる」
「なるほどです」
 流川が頷き立ち上がると、こちらの話が終わるのを待っていたのか、藤真が声を上げた。
「るかわ、お前とも友好を深めたいと思ってたんだ! オレはルーキーが好きだからな!」
 目が合うと、さも嬉しそうに笑い掛けてくる。普段の整った顔つきよりも、酔って表情が緩んでいる分親しみやすい印象を与えるが、それで懐柔される流川でもない。
「俺は友好とかそういうのはちょっと」
 いつもの調子で言い、ちょいちょいと手招きする藤真を無視して部屋の入り口に向かう。
「あーるかわ! 待て帰るな! まだ何も話してないだろう!」
「今話しても、何も得るものなさそうなんで」
 躊躇なく正論を述べると、藤真はショックに目を見開いた。大きく見開かれた目から瞳が溢れてしまいそうだったが、そこから落ちたのは大粒の涙だ。
「き、嫌われた…!」
 一つ、また一つと真珠のような涙の粒がぽろぽろ落ちて、驚愕の表情は明確に歪んで泣き顔になった。
「うっ、うっ…グスッ…」
「!?」
「あーあ、泣ーかした」
 仙道が横でへらへら笑いながら茶化してくる。
「酔っ払ってるだけだろうがっ」
 表情に出さないまでも内心かなり狼狽えている流川は、仙道に殺意を覚えつつ再び宮城の傍に戻ってしゃがみこむ。
「オイ、あいつ、酔っ払い方がめんどくせえ」
 どちらかといえば藤真だが、仙道のことも含んでいる。
 宮城は流川が参っていることが可笑しくて、つい笑ってしまいながら言った。
「あいつっていうなよ、センパイだぜ? 呑むの初めてだから、いつもああなのかよくわかんねぇな」
 見遣ると、仙道が藤真の肩を抱いて慰めているようだ。
「よしよし。藤真さんってば泣き顔もかわいいな。でも泣かないでくださいよ、藤真さんのルーキーは俺じゃないですか」
「グズッ……仙道はもうルーキーじゃねーじゃん。…あ、いい意味でだけど」
「いやいや、藤真さんルーキー好きなんでしょ、だったら俺はいつまでもルーキーですよ!」
 しっかりと藤真の手を握ってしまっている。見た目にはわかりにくいが発言もおかしいし、仙道も酔っているのだろう。いや、酔っていて欲しい。あれで素面だったら嫌だ──宮城の願望であった。
「……オレとしては仙道のほうがヤベー気がする」
「誰か呼んできましょうか? ゴ…赤木さんとか」
「それなぁ、めんどくさそうなんだよな」
 赤城は真面目な男だ。怒号一つで宴会は終わるだろうが、メンバーの都合、宮城がとばっちりで怒られる雰囲気が濃厚だ。
「翔陽のやつとか…」
「あいつが翔陽のボスなんだ、手下にゃどうにもできねーだろ」
「役立たずめ」
 流川は短く言ってチッと舌打ちをする。翔陽メンバーに恨みがあるわけではなく、単にガラが悪いだけだ。
「んじゃまあ赤木のダンナか魚住か、誰かしら呼んできてくれ」
「了解」
 初めに貰った缶ビールはしっかり持ったまま、流川は部屋から退散した。
 今度は流川を引き止める声がなかった、と思えば藤真は仙道の肩に頭を預けて目を閉じている。
「……大丈夫か?」
「寝てるだけ。この人こんな調子だけどお酒強いんだよ」
 どうも仙道は藤真と親しいらしい。牧と藤真が親しい様子だったことには、散々セットで扱われているからと半ば納得していたのだが──強豪校同士というものは、他校でも割に接点があるものなのだろうか。
「それ、強いっていうのか?」
「吐いたり気絶したりはないみたいだから、弱くはないんじゃない? すぐへろへろになるけどずっと楽しそうにしてるよ。羨ましいことだね」
 少し前まで泣いていたとは思えない穏やかな寝顔を覗き込み、満足げに笑う。
 沈黙が気まずかったところもあるが、こうまでくっついて見せて隠すつもりもないだろうと、宮城はずっと気になっていたことを口にする。
「仙道、おまえってソッチなの?」
「ソッチがどっちかわかんないけど、固定観念はないんでどっちでも?」
 飄々としてそう言われれば、納得するしかないというか、特別否定的なものは湧かなかった。結局は他人事であること、今目前にしているのが藤真であるせいもあるだろう。宮城の趣味ではないが、綺麗な顔であることは認める。
「あっそ。ここでおっぱじめんなよ」
 あくまで軽口のつもりだ。〝どっちでも〟という仙道がふざけて藤真とくっついているだけで、実際に事を起こすとは思わない。
「酔い潰して寝てる間にやる、なんてつまんないことしないよ」
(頼むから普通に否定してくれ、なんかこえーんだよオマエ……)
 そのうち、うむーとかむにゃむにゃとか、とってつけたような寝言が聞こえ出して、仙道の腕の中で藤真がもぞりと動いた。長い睫毛の下から、まだ眠そうな目が覗く。
 大して小さくもない男に愛らしい小動物的な印象を抱き、仙道は思わず笑顔になる。
「藤真さんてほんとかわいーな。酔って肌がちょっとピンクになってて色っぽいし。イタズラしたくなっちゃう」
「いたずら? 落とし穴に落とすとか?」
「んー? どっちかというと穴に挿れた…い…」
 二人の上に黒い影が掛かる。その黒い主を見上げ、仙道は硬直した。
「ま、牧さん!?」
 仙道と宮城が異口同音に発する。流川が人を呼びに行ったことを知っている宮城にとっても意外な人物であったし、何よりその顔だ。コートの外の穏やかな彼からは想像もつかない、鬼というか魔人のような、そら恐ろしい形相をしている。
 それに対し宮城は、ただ慄くだけではない違和感を覚えた。彼は一体何に対してそこまで怒っているのだろう。
「おー牧もきたのか!  まあ呑め!」
 藤真は牧に怯むでもなく明るすぎる声で言って新しい缶を差し出すが、牧はそれを受け取らず、藤真が右手に持っていた蓋の空いた缶を奪った。
「おい、それオレの!」
 牧は残りを一気に飲み干し、缶を握り潰して床に投げつける──ことはせず、座卓の上に置いた。相当苛立っているようだ。
「部屋に帰るぞ」
 他の誰でもなく藤真だけを見据えて言っている。牧と藤真は同室なのだ。
 空気の凍りついてしまったこの部屋に、さすがに藤真も居座る気はなくなったようで、ようやく仙道から離れて立ち上がろうとする。が、脚に力が入らずへたり込んでしまう。
「……立っ、あれ?」
 立てないというか、立ち方を忘れたというか、要は飲みすぎである。
 重く力の入らない体が、不意にふわりと浮き上がった。
「うおっ!? 牧、めちゃ力あるんだな!」
 背中と膝裏を支えて体を持ち上げる、いわゆるお姫様抱っこで持ち上げられて、藤真は牧の首にしがみつきながら楽しげに声を上げた。牧の表情は宮城からは見えなかったが、おそらく楽しそうではないだろう。
 唖然とする二人に目もくれず、牧は藤真を攫って部屋の出口へ向かう。
「仙道バイバーイ」
 無邪気に笑いながら手を振ってくる藤真に「バイバーイ」と振り返して、二人の姿が部屋から完全に消えると、仙道はやっと安心したように深いため息をついた。
(なんだったんだ、ありゃ)
 宮城はいまいち事態が呑み込めずにいた。牧は真面目そうだから、高校生が部活の合宿で酒を飲んだことに対して怒ったのかもしれない。それにしては自分も酒を飲み干していたし、怒号の一つもなく静かに退散していったのも不自然ではあった。
「ダンナ様ご登場か。藤真さん、大丈夫かなぁ」
 宮城は今、ものすごく余計なことを聞いてしまったような気がしていた。
(ダンナ様? ってなに? あっオレ〝赤木のダンナ〟とかいうからそういうやつ?)
 違うと思う。牧は何を見て、何に対して怒っていた? この部屋に来て、言葉を交わしたのは藤真とだけだ──いや、もう考えるのはやめよう、そう思いつつ腑に落ちない顔をしてしまっていたのかもしれない。「あれ?」と仙道が口を開く。
「宮城サン、もしかして知らないの?」
「知らねえし知りたくもねーからそれ以上言うんじゃねえ!!!」
 半ばキレながら言うと、あはは、と軽い調子の笑い声が返ってくる。
「じゃあ詳細は控えるけど、多分想像通りだと思うよ」
(嫌ァ…強豪校こわい……おウチに帰りたい……)
 宮城は頭を抱えた。相変わらず平和な顔でいびきをかいている三井のことが心底恨めしかった。

 アヤちゃん。ボクは初めての国体合宿で、神奈川のトップPG界がとっても爛れてるって知りました。牧と藤真はデキてます。双璧ってゆうか性癖です。ついでに多分仙道と藤真もヤっちゃってます。藤真からいったから牧が強く怒れないパターンのような気がします。アヤちゃん。バスケットとは、高校生らしさとは、一体なんなのでしょう。ボクは一つの使命に目覚めました。この魔窟に染まることなく、流川を守るってことに──そんな手紙の文面を頭に思い浮かべながら、その夜宮城はドン底のテンションで眠りについた。

そぞろ

 彼はいつもこの道を歩いているだろうか。もう一つ奥の通りか、あるいは全く見当違いの道かもしれない。
 閑静な住宅街だと思うや否や、キャンキャンと犬の鳴き声が聞こえ、牧は俯いて微かに笑った。この辺りに来るのは初めてだ。たまたま用事のあった駅が藤真の家の最寄りだと気づいた、ただそれだけの理由で散策を始めた。
 土曜の夕方だ、翔陽の練習ももう終わった頃だろう。しかしいくらこの辺だからといって、そう都合のいい偶然もないだろうと思ったそのときだった。
 陽に輪郭を透かした明るい髪色に、烟る長い睫毛と琥珀のような大きな瞳。牧が彼に抱く印象はどこか小動物じみている。
「藤真!」
「はい!?」
 しかしその声は想像したものとは異なり、透き通るように高かった。まるで女性のように──いや、まごうことなき女性だ。よくよく見れば髪も肩まで長く、牧の知る藤真よりも随分と小柄で、薄く化粧をしているし服装も完全に女のものだ。
 女は牧の頭の天辺から靴の爪先までをまじまじと見つめた。
「ああ、健司の知り合いのバスケの人?」
「あれ、牧とねーちゃん」
 女の語尾に被るように、後方からよく知った声が聞こえた。振り返るとスポーツバッグを肩に掛けた藤真の姿があり、牧は彼らがよく似た姉弟なのだと一瞬で理解する。家が近所のようで、姉は「先に行ってるね」と弟を残して行ってしまった。
「牧、なんでこんなとこに?」
「たまたま近くに用事があって、お前の家がこの辺だったかと思い出してな」
 藤真は目を瞬いた。実家住まいで大抵家に家族がいるため、牧を家に呼んだことはない。緊急連絡先として住所は教えたことがあったか。
「? ……なんかこわいぞそれ」
「あまり来たことない場所って歩いてみたくならないか?」
「ならない」
 藤真は即答で首を横に振ったが、思えば牧は異様にフットワークが軽いのだった。行動力や財力の賜物と思っていたが、散策好きも関係しているのかもしれない。
「翔陽の練習も終わる頃かと思ったしな」
「んなアバウトな。会えなかったらどうするつもりだったんだよ」
「別に、この辺に藤真が住んでるのかと思いながら散歩するだけだ」
「いや、なんかストーカーみたいそれ……」
 藤真がぶるぶると首を振るのに構わずに、牧は話を続ける。
「お姉さん、お前に似て可愛らしい人だったな」
 藤真を小さくした感じだった、と思うと自然と顔が綻ぶ。それに気づいた藤真は眉根を寄せた。
「順番的にはオレが似たんだけどな」
「お姉さん、今時間取れないだろうか?」
「はあ? なんで?」
「せっかくだからご挨拶を」
 牧がなんとなく嬉しそうにしているのが無性に腹立たしかった。
「なんの挨拶だよ。あいつワガママで性格悪いし、料理しねーし、胸も盛ってるからほんとは平らなんだぞ」
「そんな言い方しなくたっていいだろう。胸ならお前のほうが平らじゃないか」
「あと今男いるからな!」
「藤真……」
 彼がなぜ姉を貶すようなことを言うのか、最後の言葉で合点がいって、思わず笑ってしまった。
「お前の家族っていうとこへの興味があるだけで、それ以上のものはなにもないぞ。それにお前のほうがずっとかわいい」
 誤解してやきもち焼くところも、とまでは言わずに腰に腕を回した。住宅街の路地に、今は人目はほとんどない。
「別にかわいさなんて競ってねーし。ちょっと荷物置いてくるから待ってろ」
 藤真は言うと、小走りで家に向かった。不貞腐れたような言葉を吐いたものの、唇は笑みを形作りそうで、悔しいので引き結んで噛み締めた。
(かわいいなんて言われるの、嫌いだったんだけどな……)
 姉より自分が可愛いということも到底ありえず、牧の贔屓目でしかないと思うのだが、それを真顔で言ってのけるところに参ってしまう。そして住んでいる場所や家族など、自分の周辺にまで牧の興味は及んでいるらしい。
(変なヤツ)
 藤真は牧そのものにしか興味がなかったから、いまいち理解できないことだった。今はただ早く荷物を置いて、彼のところへ戻ってやらなくてはと思うだけだ。